ミカエル
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「う゛ーーーん……」
いつものように時間より少し早く剣術の訓練場に向かったシャルルは、エリックの唸る姿に目を丸くした。
「どうしたのエリック、君が悩むなんて」
「オレだって悩むことくらいあるわ。と、もうそんな時間か」
エリックはいつもシャルルの来る30分前にはやってきて1人剣を振っているのだが、今日はどうやら違ったようだ。
「僕で良ければ相談に乗るよ?」
「うーん……でもシャルル殿下に相談したところでなぁ……」
「一国の王子に向かって何たる無礼」
「命だけはお助けを~ってか? まあ冗談は置いておいて。お言葉に甘えて相談に乗ってもらっていいか?」
「もちろん!」
シャルルがにっと笑って返事をすると、2人はとりあえず隅のベンチに腰掛けた。
「オレの友人にミカエルってのがいるんだが」
「ミカエル? ミカエルって宰相の息子のミカエル?」
「名前だけでよくわかったな。もしかして会ったことがあったか?」
「い、いや? ただ僕の知ってるミカエルが彼だけだっただけだよ。それよりそのミカエルがどうかしたの?」
思わず食いついてしまったことに焦りながら、シャルルは何でもないような態度でエリックに先を促す。
「ああ、えっとだな、ミカエルに自信をつけるためにはどうしたらいいかと」
「何ひとつ分からないんだけど?」
エリックは剣術の腕は申し分ないのだが、基本感覚と感情の赴くままに生きているので頭を使うことが苦手だ。
「ええと、つまりだな……」
なんとか聞き出したエリックの話をまとめるとこうだ。
ミカエルの父親である宰相は他人にも自分にも厳しい人であり、息子を叱ることはあれど褒めることはないらしい。そんな環境で育った彼はすっかり自分に自信を無くし、遂には「こんな自分といてはいつか迷惑がかかる」と言ってエリックと距離を置くようになってしまったとのこと。
「成程。それならたぶんすぐ解決できるよ」
「へ!? どうやって??」
「今こそ王子の権力を使うのさ。そうと決まれば準備が必要だね。準備が出来たら知らせるよ」
「お、おう?」
その後の剣術の稽古を終えると、戸惑うエリックを残してシャルルは意気揚々と王である自らの父の元へ向かった。
言わずもがな、このミカエルというのは攻略対象の1人である。
ミカエル・エムロード。カロリーヌと同じ歳で、宰相の息子だ。
ミカエルは理想的な宰相と名高い父親に憧れを抱いている。父のようになりたいと日々努力を重ねていくが、厳しい父には認められず、だんだん自分が落ちこぼれであると思い込むようになる。
そんなある日、いつものように叱られて家に居づらくなり外をとぼとぼと歩いていたところ、困ったようにきょろきょろとあたりを見回す女性と出会う。道に迷った上に財布も落としてしまったという彼女をミカエルは助けるのだが、彼女は隣国のスパイだった。その女性に「自分の仕事を手伝えば父親に認めてもらえるはず」と言葉巧みに唆され、彼女に国の重要な情報を流すようになってしまう。
攻略が進むと父親とのすれ違いに気づいたカロリーヌが2人の和解を手助けし、実は父親に認められていたと知ったミカエルが罪を全て自白する。
ミカエルは平民に落とされることとなるが、カロリーヌは身分を捨て平民として2人で生きることを決める。ちなみにこのルートでも当然シャルルは死亡しており、王は本編で一度も存在すら触れられていないカロリーヌの従兄がなる。そしてバッドエンドでは自暴自棄になったミカエルにカロリーヌが刺され殺される。
(ミカエルの自信の無さは憧れの父親に認めてもらえていないと思い込んでることに起因している。けど実はとっくに認められてるんだよね。むしろ……)
そこまで考えて、シャルルは運悪く見てしまったものを思い出して遠い目になる。
(ま、まあ、これでミカエルの闇堕ちイベントは回避出来るだろうし、良かったことにしよう、うん)
辿り着いた王の私室でとあることをお願いすれば、マクシミリアンは予想通り渋い顔をしたものの理由を話すと良い笑顔で了承してくれた。




