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「シャルルーーー!」
初対面時のお淑やかさはどこに行ったのか、シャルルが来たことに気づいたクロエが勢いよく飛びついてくる。クロエと一緒にいたカロリーヌは、「それでは私はお邪魔になってしまうので失礼しますわ」と天使の笑みを浮かべて嬉しそうに去っていった。
クロエとの顔合わせから1年が経った。
あれから彼女は妃教育の為ほぼ毎日王宮に通っており、その際にはどこかの休憩時間で必ずシャルルとあのパーゴラで2人きりでお茶をするようになった。当然恋バナの為である。
表向きの理由の為にとクロエは王宮に通い始めたその日にカロリーヌと対面しているが、2人はよく気が合ったらしくすぐに実際に友人になった。そのためクロエはシャルルとのお茶の時間の前にカロリーヌとのお茶の時間も設けている。
最初はカロリーヌとのお茶会は午前、シャルルとのお茶会は午後と分けていたのだが、公務にも参加するようになり忙しくなったシャルルがお茶会の時間に遅れてしまうことが増えてしまった為、カロリーヌが一緒にシャルルを待てるようにと今の時間に変更したのだ。
「もしかして?」
「振られた」
「やっぱり」
いつものように公務を終わらせ、今日は時間通りに到着したパーゴラで顔を合わせたクロエの表情と態度で彼女の失恋を察したシャルルは、唸る彼女を抱きしめ返してよしよしとその頭を撫でた。
「クロエが1番好きよって言ってくれてたのに、それは友人としてだって! 期待したのに酷い! でも嫌いになれない! ツライ!」
「よしよし。今は思う存分泣きな。僕の胸でよければいくらでも貸してあげるから」
「うう、硬い……女の子の胸が良い……」
「おい」
シャルルは可愛くないことを言う婚約者(仮)の気が済むまで抱きしめて頭を撫で続けた。
しばらくそうしていると漸く落ち着いたクロエが「ありがとう」と言って照れくさそうにシャルルから離れた。その目は少し赤いが泣いてはいなかったようだ。
「クロエはよく頑張ってた。ただクロエの運命の相手が彼女じゃなかっただけだよ」
「うん」
「彼女は見る目がなかったね」
「あの子を悪く言わないで」
「はは、ごめんごめん。けどクロエは魅力的だよ。だからすぐに新しい相手が見つかるよ」
「うん。ありがとう」
「でもカロリーヌはダメだよ」
「カロリーヌは妹みたいなものだからそういう目では見られないって言ってるでしょ?」
失恋の度に言われるシャルルのセリフにクロエもいつものセリフを返してふふっと笑った。
それを見たシャルルも優しく微笑む。
「良かった、やっと笑った。やっぱりクロエは笑顔の方が似合うよ」
本当にそう思っていると分かる優しい声で言われた言葉に、クロエは思わず真顔になる。
「こんなに優しくて甘い言葉を囁いてくれて顔も好みど真ん中なのに、どうしてシャルルは男なの?」
「なんでだろうねぇ」
クロエの言葉にシャルルは苦笑するしかない。クロエは今まで出会った誰よりシャルルの顔が一番好みらしい。しかし彼女は女の子が好きだ。ままならないものである。
ちなみにシャルルは13歳になった今でも女の子と間違われる程可愛い。
「シャルルの方は最近どうなの?」
「相変わらずだよ」
「えー、シャルルなら絶対大丈夫なのに!」
「いつも言ってるけど僕は今のままでいいんだよ」
不満気に口を尖らせるクロエに、シャルルは苦笑しながら紛れもない本心を返す。クロエが言っているのは言わずもがなエリックとのことだ。
「というか君、今日も覗いてたでしょ?」
「えへ♡だって気になるんだもの」
シャルルが呆れた目を向けると、クロエは悪びれることなくはにかんだ。
シャルルが剣術の稽古をしていると、最近高確率で視線を感じそれを辿るとクロエがいる。たまに一緒にカロリーヌもいる。
「まあ別にいいけど。僕たちのことを知ってる人たちはみんな君が僕のことを見にきてると思ってるから都合が良いのは確かだし」
「つまりそれってどんどん覗いていいよってこと? じゃあ今後もはりきって覗くわね!」
「しまった余計なことを」
そんな話をしながら、まだ少し元気がないながらもいつもの調子を取り戻してきたクロエを見てシャルルはほっと胸を撫で下ろした。




