幼馴染
一歳を過ぎた。僕は母親に頼んで字を教えてもらった。勿論字なんて教わらなくても読める。だけど、それでは不自然だから、一応教わっておいて、後で存分に本を読もうと思っていた。例のごとく母が凄く喜んで、字を教えてくれて、覚えると凄く感激していた。
一歳と少しの子供が本を読んでいるのはやっぱりおかしいのだろうか。それでも母親は特に不審がったりはしなかった。僕は覚えたばかりの魔法に夢中で、西洋のファンタジーとか錬金術の本を読んでいた。元々読書が好きで、魔法大全は早々に読み尽くして暗記してしまっていたので。母の目を盗みながら魔法の練習に精をを出す日々。火を出したり、雷を出したりしてみた。後は身体強化の魔法で外を長時間歩いてみたり、魔法で姿を消しながら、浮遊魔法で飛んでみたりした。
そんなこんなで早3歳。もう母親も駄目とは言わず、一人で外を歩けるくらいになった。僕が手のかからない子だと分かった母親はパートに出ることにしたようだった。朝出かけて夕方頃帰ってくる。僕としては大変ありがたいことだった。これで母の目を気にしないで、魔法が使える。
この頃の僕は魔法で外を飛ぶことに夢中だった。
「フライ」
無論隠蔽魔法も併せて使う。でないと、地上から丸見えになってしまうので。次第に長距離でも飛べるようになった僕は、前世では行けなかった、色んな場所へ行ってみた。東京とか、福岡とか、北海道とか。行ってみて、地元で有名なお菓子とか食べようかなと思って、はたと気がついた。お金を持ってなかった。せっかくの旅行で無一文ときた。しばらくお金を手に入れる方法を考えてみた。僕の魔法なら大人の姿の幻影を見せる事が出来る。よし。
宝くじを買うことにした。大人の姿に化けて、鑑定魔法で当たりのものを引かせてもらった。そして抽選日が過ぎて支払日、くじ屋さんに行って、数十万の現金を手に入れた。これで、心置きなく観光が出来る。
「じゃあね、光。いい子でお留守番しててね」
母さんが出掛けるのを見送って、僕は現金をポケットに詰め込んで、フライで北海道に出掛けた。寒いので、ストレージには上着が入っている。
「ふう。やっと着いた」
北海道のとある公園に隠蔽魔法で透明になって着地した僕は人目が無いのを確認した後、魔法を解除して、北海道の美しい空気を吸い込んでいた。
さて、北海道は色んな食べ物が有名だ。まずは、何を食べようかなと思ったところで、ふと見ると、子供達が集まっているのが見えた。
「それ、よこせよ」
「でも、これ私の・・・」
「いいからよこせって。ほら!」
10歳くらいの2人の男の子が僕と同じ歳くらいの女の子のお菓子を取ろうとしているみたいだった。男子は体が大きくて、放っておくと暴力にまで発展しそうだったので、止めに入ることにした。
「やめなよ」
突然現れた僕に3人は驚いたようだった。
「なんだお前?」
「はなしてやりなよ。お菓子が欲しいなら、ほら、これで買ってきなよ」
僕は500円玉を男の子に放る。
「ふん。まあいいけどよ。悟、500円ゲットしたぜ。行こう」
「おう。へへ。ありがとな!」
こうして、無事、悪ガキ達は去って行った。
「あの・・・」
「ん?ああ、怖かった?もう大丈夫だよ」
「ありがとう。でも、あなたの大切なお金・・・」
「大丈夫だよ。まだこんなにあるから」
僕は千円札を何枚か広げて見せる。
「すごい。お金持ち・・・」
「それじゃ、僕はもう行くから」
「あの!」
「ん?」
「あの。・・・良かったら一緒に遊ばない?」
「一緒に遊ぶ?」
「うん。私友達いないから。一緒に遊びたい。駄目?」
「別に構わないけど。そうだなあ。じゃあ、北海道を案内してよ。僕、実は、北海道は初めてなんだ」
「え?そうなの?」
「うん。美味しいお菓子の売ってる店とかさ。案内してよ」
「わかった。私は見里っていうの。あなたは?」
「僕は光だよ。僕も友達いないから。初めての友達だな」
「えへへ。初めての友達」
「じゃ、行こう」
それから、僕は見里に連れられて、彼女がよく来るという駄菓子屋さんに連れて行ってもらった。駄菓子と侮ることなかれ。10円20円のお菓子でも北海道にしかないようなものがあった。
「このじゃがいものお菓子美味しいね。さすが北海道だ」
「うん。私もよく食べるの」
お菓子を食べてお腹が膨れると、僕らはバスに乗って動物園に向かった。前世ではあまり動物には興味がなかったが、子供の体に精神も引っ張られいるのだろうか、是非行ってみたくあった。見里は両親と一緒に何度か行ったことがあるらしい。ここにしかいない生物も何体かいるらしい。僕はドキドキしていた。
「すごいね」
「うん。熊さん大きい」
ホッキョクグマがこちらを見ていた。三歳の体にはすごい迫力に見えた。
「かわいいね」
「うん。飼ってみたい」
ホッキョクギツネは可愛くこちらを見ていた。
あちこち回って、僕らは動物園を満喫していた。やがて、お腹が空いてきた。
「見里。お腹空いてないか?」
「うん。結構空いている」
「何か食べにいこうか」
「うん」
案内板を見たところ、飲食店が何軒か入っているみたいだった。その内の一つのレストランにやってきた。
「あの、私達だけで大丈夫かな、光君?」
「ん?まあ、大丈夫だろう」
改めて考えると、3歳の子供二人が、自分たちだけでレストランにやってくるって普通じゃないよなと思いながら、追い返されることもなく、僕らは無事、入る事が出来た。
「何食べる?好きなの頼みなよ」
「うん。私このお子様プレートにする。いつもそれ食べるから」
「ふうん。僕は、お子様カレーにするかな」
二人で注文して、料理を待っていた。
「でも、凄いね。光君。私と同じくらい小さいのに、一人で注文も出来るなんて」
「大したことないよ」
「あのさ、光君。これからも私と遊んでくれる?光君と一緒に居ると、私凄く楽しい」
「いいよ。だけど、僕、遠いところに住んでるからさ、毎日はちょっと無理かもしれない」
「そういえば、そう言ってたよね。どこに住んでるの?」
「京都だよ」
「きょうと?どこ、それ?車でどれくらいかかるの?」
「新幹線で何時間もかかるよ」
「ふうん?」
よく分かっていないようだった。見里は凄くかわいいし、たまに遊んでやるくらいなら問題あるまい。僕も北海道は何度か訪れるつもりだったし。
食べ終わってからも、動物園を回り尽くした僕らは見里を送っていくことにした。なんだかんだで、少々遅くなってしまった。両親も心配しているかもしれない。
「今日はありがとうね。友達と遊ぶってこんなに楽しいことだったんだね」
「見里の案内のおかげで僕も北海道が好きになったよ。ありがとう」
見里はとても嬉しそうだった。
そうこうしている内に家に着いた。見里の家はごく普通の家だった。だけど、土地は若干広めだった。これが北海道では普通なのだろうか。
「ただいまー」
「おかえり。見里ちゃん。あら、そっちの子は?」
見里の母親に迎えられた。まだ、20代くらいの若くて綺麗な女性だ。
「あのね、今日友達になった。光君っていうの。二人で動物園行ってきたんだよー」
「え?動物園?二人だけで?」
「うん」
見里は満面の笑みだった。多分お金はどうしたのと言いたいんだろうなと察した僕はフォローに入ることにした。
「初めまして。両親からお金を渡されているんですよ。友達と行っておいでということで」
「そ、そうなの。今度お礼に行かないといけないわね。光君だったかしら。見里と遊んでくれてありがとうね。この子、同い年くらいの友達がいなくて」
「ええ。また二人で遊びに行きたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「勿論構わないわよ。それにしても家の子と同い年くらいに見えるけど、随分しっかりしているわね。光君いくつ?」
「三歳です」
「それじゃ、見里と同じね。見里良かったわね。同い年の友達ずっと欲しがっていたものね。あれ?寝ちゃってる」
「動物園で随分と歩き回らせてしまったので、疲れたんでしょう。寝かせておいてあげてください。僕もそろそろ帰ります」
「そうね。それじゃ、光君。いつでも来てね」
「はい。ありがとうございます。それじゃ」
見里の家を後にして、僕はこの間新たに覚えた、魔法を発動させた。
「テレポート」
次の瞬間には家にいた。無事転移完了したようだ。