神様との出会い
目が覚めると、雲が見渡す限り続いていた。
どこだろう、ここ?世界の狭間って書いてある。誰かいないかな。
「ここにおるよ」
「ん?」
不思議な格好をした老人がそこにいた。誰だろう、このおじいさん。
「ワシは神様じゃよ」
なぜか心を読まれているようだ。
「神様、ここは何でしょう?」
「ここか?天界じゃよ。死んだ後は皆ここにやってくるな」
「へえ」
死んだら閻魔様のところに行くのではないのか。
「さて、深冬君じゃったかな。君の場合、予定外の死じゃったからな。このまま生まれ変わってもらうことになった」
「え?予定外?」
「ああ、本来死ぬはずではなかったんじゃが。君があそこで猫を助けるとは思わなくての」
そういえば、猫が車にひかれるのを助けた記憶がある。そうか、僕はそこで死んだのか。
「なるほど」
「それで、今の記憶を持ったまま生まれ変わらそうと思っておるのじゃが、何か望みは無いか?」
「んー、そうですね・・・。魔法とかどうでしょう?」
「魔法とな?」
「ええ。生まれ変わったら、魔法を使えるように出来ませんか?」
神様だったら、そんなことも出来るのでは無いかと思って聞いてみた。
「ふむ。君の世界に魔法を使える者は滅多にいないのじゃが。そうか、君は生前からそういうのが好きじゃったの」
まあね。伊達にファンタジーものばかり読んでいない。魔法や魔術の研究にハマっていた時期もある。
「分かった。本来は駄目なのじゃが、君は特別にワシの力で魔法使いに生まれ変わらせてやろう」
やった。言ってみるもんだね。
「さて、後、聞いておくことはないかね?」
「魔法ってどうやって使うんですか?」
「魔法の本をやろう。それを読んで勉強するがいい。何、そんなに難しいことでもあるまいて」
「ありがとうございます」
「では、送ろうかの。今世では幸福にな」
「はい。それじゃあ」
「うむ。さらばじゃ」
目が覚めると、見たことのない天井だった。僕は生まれ変わったのか?今何歳だろう?
体を動かそうとしても動かない。自分の手を見てみると、凄く小さい。声を出そうにも、ロクに発音ができない。どうやら、まだ赤ん坊のようだ。両親はどこだ?
「あーあー」
首が動かない。声を出して呼んでみる。すると、誰かが歩いてくる気配が感じられた。
「あらあら、光君。お腹が空いたのかしら?」
光?それが新しい名前か?こちらをのぞき込む女性は若い。20代の前半といったところか。
「よいしょっと。ふふ」
母親らしき女性は僕を抱っこすると、授乳を開始した。
どうやら本当に生まれかわったようだな。色々知りたいことがあるが、一番は魔法のことだ。赤ん坊の僕ではまだ使うことが出来ないのだろうか。確か、魔法の使い方の本をくれるって言ってたよな。だけど、その本はどこにあるんだ?
やがて食事が終わり、僕はまた寝かされる。母親らしき女の人は、楽しそうに僕を眺めている。
「あぅあ」
発音が出来ない。むぅ。困ったなこれは。赤ん坊の体では何もできないぞ。
魔法の本か。もしかしたら魔法で出来た本とかなのだろうか。魔法って普通呪文を唱えたりして、発動させるよな。この体ではまだ発音は出来ないが、頭の中で浮かべるだけなら出来る。よし。
(ストレージ)
○魔法大全
○神様からの手紙
予想通り魔法を使う事が出来たようだ。頭の中にストレージに入っているものが浮かんだらしい。早速取り出してみよう。
本は黒い背表紙の本だった。厚さは普通の本くらい。神様の手紙とやらも取り出してみた。こちらを先に呼んでみるか。
「深冬君。無事転生できたようじゃな。実は君の魔法でワシに念話が繋がるようにしておいたでの。まあ、滅多に無いと思うが、何か困ったことがあったら、念話してくるとよい。テレパシーと唱えたら、念話の魔法は使えるでの。それじゃ、今世での人生を楽しんでくれたまえ」
神様に繋がるだと?神様に聞きたいこと・・・。特にないな。念のため、テレパシーと唱えてみた。
○神様
神様しかアドレス帳にない感じか。まあいい。それより魔法大全を読もう。
中には色んな呪文とその効果などが書いてあった。魔法は魔力を体内で練って呪文をトリガーに発動させるようだ。ステータスの魔法だと、自分の残存魔力量とか体力とか色んな事が分かるらしい。試しにステータスと唱えてみた。
鏡光
体力 普通
魔力 普通
称号 転生者 魔法の申し子
これだけだった。まあ、赤ん坊だからな。体力とかが普通なのは消費していないからだろう。ワクワクしてきた。他に使えそうな魔法はないだろうか?パラパラッと捲って目についた鑑定の魔法を使ってみた。
(アプレイザル)
魔法大全を鑑定してみた。
(神様が片手間に作った魔法の教本。持ち主、鏡光)
こんなものか。魔法大全によると、ステータスにしろ、鑑定にしろ、習熟度で見れる情報に差があるらしい。何度も使っていれば、情報量も増えてゆくとある。
しかし赤ん坊が本を読んでいる姿は端から見たら、おかしいよね。母親に見つからないように気をつけないとな。お腹がいっぱいになったので、眠くなってきた。今日の所は眠るとしよう。
(ストレージ・イン)
本を仕舞って眠りについた。
それからも僕は鏡光としての生を堪能していた。一日中魔法大全を読みながら、魔法を使う毎日だった。そして、思ったことは、早く歩けるようになりたいということだった。よって、ハイハイの練習に励んでいた。母親は家事の他は僕の練習に付き合ってくれた。そして、ある程度出来るようになると、早くも掴まり立ちから歩く練習をしてみた。というのも、身体強化の魔法を使えたからだ。ある程度出来るようになった段階で、魔法を切って歩いてみるという繰り返し。そんなこんなで、普通の赤ん坊に比べると相当早く歩けるようになった。母親は僕がハイハイ、掴まり立ち、歩く、という具合に成長してゆく度に、大はしゃぎだった。
「凄いわ。光ちゃん。こんなに早く歩けるようになるなんて。天才じゃないかしら」
親馬鹿のようなことを言っている。それにしても、最初に母親を鑑定した時は驚いた。
(鏡亜里砂。鏡光の母親。夫の颯人とは妊娠期間中に離婚)
この子煩悩然とした母親は早々に夫と離婚していた。神様よ、幸せにとかいっておいて、いきなり片親とかどうなんだろうか?生活費とかは夫の仕送りによるものらしいが。やれやれ。