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第九話 噂って、大体盛られがち


 決闘は、かつてない規模になった。なんとあの馬鹿どもは戦い続けたらしい。それも、三日三晩。

 どう控えめに見積もっても頭がおかしい、と言うのが私の結論である。



 いや、あるらしいよ。たしかに決闘で三日三晩とか一週間戦い続けるとかはあるらしい。

 でもそれは、相当の因縁がある場合だ。

 例えば、宿命のライバル同士とか、親を殺された因縁、とか。そういうクラスの決闘の話である。

 

 入学初日から一目惚れ(アホ談)した女性を巡って、男四人が死闘の限りを尽くす、というのはあまりにもやりすぎである。

 しかも、本人たちが「常人の約百倍の魔力」と言っていたのには偽りがないようで、それはそれは凄い決闘になったのだという。


 学院の歴史に名を残す決闘を、入学初日の一年生四人が行った。さらに彼らは、全員が最底辺のクラスなのだ。

 そう。あの馬鹿どもは、学院の新世代の「四騎士」というめちゃくちゃかっこいいあだ名をもらって、絶大な人気を誇ることになったのである。



 そんな熱狂の陰で、私も若干、ほんのちょびっとだけ期待していた。この騒動に紛れて、私の存在を忘れてくれないかな~、と。

 あのイケメンたち――まあ一人は変装をしているが、あのイケメンたちの人気の影でこそこそ地味になれないかな、再び地味な生活を送れないかな、なんて考えていたのだ。


 しかし、私の考えは甘かった。まるで熟しきった果物のように甘かった。


 なんと嬉しいことに、あの馬鹿どもは、決闘中、私の名前を連呼していたらしい。


「僕は! カンナ嬢のためにも負けられない!!」とか、

「俺は彼女を――監禁する」だとか、

「俺はさっさと勝って、カンナとベッドインしなきゃいけないんでな」とか、

「うぉぉぉぉぉ! もう正体がバレたってかまわない!!!! 僕はカンナちゃんのために闘う」とか。



 ………。


 うああああああああああああん!!!!!

 馬鹿だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 馬鹿いるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!


 いや、見たことあるよ。よくあるよ、そういうシーン。

 戦いの途中とかクライマックスのシーンでぽつり、と好きな子の名前をつぶやくとかさ。いや、私も好きよ、そういうシーン。


 でも、それヒロインにやるやつでしょ普通ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!

 何の関係もない会ったばっかの地味女に、なんでそんなお前ら本気になれるんだょぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!


 つ、疲れる。

 しかも四馬鹿はこれでは終わらなかったらしい。

 もちろん、そんな英雄的扱いの彼らには、ひっきりなしに女子生徒からのダンスのお誘いが来る。公爵令嬢でも伯爵令嬢だろうが、どんな地位も思いのままである。

 しかし、彼らはそんなお誘いを四者四様にばっさばっさと切り捨てたらしい。


「いや、ごめん。僕はカンナ嬢のような見た目に囚われない真実を見抜く目を持った女性が好きなんだ。」とか、

「申し訳ないが、君とは前世の縁を感じない。俺が前世の縁を感じるのはカンナだけだ」とか、

「君は魅力的だが、カンナほどではないね。俺の欲望を受け止めきれるのはカンナだけだ」だとか。

「ごめん! 君の血はあんまり美味しそうじゃないね。やっぱカンナちゃんのローズヒップティーがいいな!!」など。



 彼らの辞書には「本音と建て前」、という単語が存在しないのだろうか。

 お前らのその発言で、私が矢面の先頭に立つことになるんだが??????


 しかも、それぞれが、好き勝手に私のことを言ってくれたおかげで、今の学内での私のあだ名はこうだ。


「真実を見抜く目を持った清楚な令嬢で、かの憂いのあるイケメン――クレメンス様と前世からの宿縁があり、かの色気あるイケメン――グレイズ様と身体の関係をもち、かの色白なイケメン――バートン男爵の子息とは種族を超えた関係の令嬢」



 ……??????????

 私は最初にこのうわさを聞いた時、文字通り発狂しかけた。

 意味わからなすぎである。


 それぞれが勝手なことを言いまくったせいで、私は多重人格者かよ、と突っ込みたくなるような魅力あふれる人間になっていた。もちろん、この場合の「魅力あふれる」とは皮肉である。


『真実を見抜く目を持った清楚な令嬢』


 まあ、これはわからなくもない。人の心の声が聞こえるのだ。ギリギリ真実をついているともいえる。

 清楚という部分も、地味の言いかえだとすれば納得である。


『クレメンス様と前世からの宿縁があり』


 この辺からだいぶ頭が痛くなってくる。なぜか私も一緒に電波女のような形になっている。


 ちげええええええええええええ!!!!!!!

 いやたしかに前世の記憶は持ってるよ!! でも、それは平凡な黒髪の平均的日本人としての記憶である。

 翡翠色の髪なんてなったこともないんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!


『グレイズ様と身体の関係をもち』

 

 なるほど。最近、クラスメイトの目線がよそよそしいのは、このうわさのせいか。 

 あれほど頼れそうだった先生も顔を真っ赤にして、「学生のうちに、こ、子供は作ってはダメですよ!!」とマジ顔で説教される始末。

 大体、清楚なくせに、身体の関係ってどういうことですか????


『かの色白なイケメン――バートン男爵の子息とは種族を超えた関係の令嬢』


 これに関してはひとこと言わせてほしい。


 お前は、自分の種族を少しは隠す努力をしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 なんでわざわざ、自らの種族をぽろぽろこぼすのか、これがわからない。



 で、でも大丈夫。とはいえ、私には、ギリギリ勝算があった。


 ダンスパーティーでは地味に、ひたすら地味に過ごすのだ。

 そうすることにより、私は不名誉な噂を払しょくし、晴れて地味な女に逆戻り――のはずだったのだが、、、、、

私的イメージ:だいたいのヒーローには、かっこいいあだ名がついている。『薔薇の貴公子』○○伯爵とか、『美しき睫毛』○○卿とか。

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