第七話 主人公気質人間、大量発生中
――沈黙と興味で包まれた教室。
しかし、私の耳にはこうしている間にも、しっかりとアホイケメンの声が流れてくる。
【やはり、カンナ嬢……さすがだな。みんな君に注目しているようだ。でも最後に彼女のハートを射止めるのは僕だ。そうして、僕らは二人は新しい領地を作り、いつしか二人で新しい国を作るんだ】
私はごくり、とつばを飲み込んで正面の男を見た。
茶髪の癖毛に、地味な割にどこか気品の漂う仕草。
この人……完全に、領主経営系ヒーローだ……。
【カンナ。前世から君は人気があったね。でも大丈夫、すぐに僕のことしか考えられなくさせてあげるよ。身も心も、ね】
不穏んんんんんん!!!!!!!
右横を見る。
艶やかな長髪に、どこか曇った眼つき。
そして、その眼に映るのは明らかな独占欲。たしかに、一度身を委ねたら完全に堕とされそうなヤバさである。
どこかのちょろい吸血鬼より、よっぽど吸血鬼っぽい。
こいつは、闇堕ち系ヒーローか……。
【ふん。まあ他の男どもに負ける気はしないな。彼女を性的に満足させてあげられるのは、俺だけだ】と左側からはやけに色っぽい声。
ムーンライトノベルズ系ヒーローである。頼むから月曜一限から「性的に満足」とか言わないでほしい。
それともあれか。私はそんなに性的に不満足そうな顔でもしてたのかな?????
アッハッハッハ。死にたい。
【なるほど……。これが人間の女性をめぐる戦い。でも僕は負けない!!】
あんたはもうちょっと忍べややああああ、と私は脳内で人外系ヒーローにほえた。
百歩譲って、貴族学院に入学はわかるよ。でも、もっと大人しく過ごせばいいのではないか。
こいつは、本当に夜の一族としての危機感があるのだろうか。
真面目に聞きたい。
まあ、確かに大切にしてくれそうな雰囲気はあるが、この人について行った瞬間、吸血鬼同士でとんでもない争いが勃発するんだって。
アッハッハッハ。
嬉しいね。
そこで、ようやく他の男に注目し始めたのか、主人公気質な男たちが、他の男に対して、絡み始めた。
「へえ、そんな地味なやつが、おれのカンナと踊ろうってのか」と、脳内ピンク男――グレイズが、アレックスに言う。
いや、その前にいつから私がお前のになったんだよ。
「貴様……! 失礼だぞ。この第一王子……じゃなかった。この名もなき地味な貴族アレックスに対して無礼だぞ!!!」
いや、名も無き地味な貴族って自称するもんじゃないぞ、と私は思った。
そもそもこの王子、口が滑りすぎである。さっきから「王族」と言いまくっている。守秘義務も何もあったもんじゃない。
一方の反対側では、
「ふん。貴様のようなぽっと出に何がわかる。俺と彼女は前世からの仲だ。」
「へえ、それを言うなら、僕だって種族を超えた仲だ!!」
と言う世にも電波な会話がなされていた。
馬鹿お前!
でかい声で言うなってぇ!!!
前世の記憶を持つイケメン、と吸血鬼のイケメン。どっちか片っぽでも処理が大変なのに、両方同時に張り合わないでほしい。
そんな混迷した状況で、私は何とか一筋の光明を探し求めていた。
たしかにまずい状況ではある。
こんなクラスの注目を浴びるような予定は、私のスケジュールにない。これまでも、そしてこれからも。
しかし、である。
まだ解決の糸口はある。
そう。簡単なことだ。
幸い、この騒ぎは、まだクラスの中にとどまっている。運がいいことに、他クラスや上級生には、知られていないのだ。どうにかしてこの状況を鎮め、なんとかしてクラス中の人間を懐柔する。
それしか方法は――、
しかし、私の地味ライフをここまで追い込んでくれた男子生徒4人はクラス中の話で終わらせてくれるつもりはなかったらしい。
「ここまで揉めるとあらば、仕方ないな」と第一王子アレックスが言った。
「ああ」とヤンデレイケメン、クレメンスもうなづく。
「もちろんだ」と自信ありげにグレイズが笑う。
「さっさと終わらせましょうか」と吸血鬼も答えた。
「「「「決闘だ」」」」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!!?!?!?!?!?!??!?!?
「それは、一番悪手だろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」と私は恥も外聞も、ついでに地味キャラとしての誇りも投げ捨てて叫んだが、残念ながら降ってわいたゴシップに熱狂していたクラスの歓声に、私の嘆きはかき消されてしまった。