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第六話 貴族は女性を賭けて決闘をしがち


 さて、貴族学院のダンスパーティーはそれはそれは、豪勢かつオシャレなもので、女子男子問わず、ここで素敵な異性と踊ることは、ありえないほどの名誉らしい。


 そして、男子は気になった相手がいるなら、すぐさまアプローチすべし、と実家からも突っつかれるそうである。ここで踊った相手と結婚するというケースもかなりあると聞く。

 要するに、学院を上げた一大行事なのである。


 そして、地味生活を人生の一大目標とするこの私も、早速捕まっていた。



「やあ、僕の名はアレックス。この国の王子……ではなく、名もなき一般貴族さ。カンナ嬢。僕と踊ってくれないかな?」


 そう言うのは、私の眼の前に座っていた茶髪系地味男子――この国の第一王子アレックスである。

 まあ、別にいいのだ。別に声をかけられるのは構わない。断ったっていいし、最悪アレックスも変装しているから、まだ踊ってもいい。


 しかし、これは絶対違うだろう、と私は教室中を見回した。

 

 ほら、もうクラス中が騒然としている。

 そりゃそうである。

 

 入学のオリエンテーションが終わった瞬間、ダンスパーティーに誘うのはさすがにやりすぎだ。

 だって誰も何も動き出していない状況なのに……。

 その証拠に、クラスのどよめきは止まらない。


【ふっ、ダンスパーティーで魅力的な女性はすぐに誘いがいっぱいになってしまうと聞く。やはりカンナ嬢のような身も心も美しい美女には、先に声をかけなくてはな。授業終わりにさりげなく彼女を誘う。ふっ、我ながら完璧な一手だ】


全然さりげなくねええええええええええええええ!!!!!

もうダメだこの王子。この人普段から注目されすぎて感覚がおかしい!!!


「えっ、なに、あの地味な子、ひょっとして有名なご令嬢なの?」

「いや、男子の方も……これまた普通な……あんなやつ見たことあるっけ?」

「ん~、絶妙によくいそうな顔だな。地方出身の貴族じゃないか?」


 ほら、もう言われっぱなしである。


 いったん冷静に考えてほしい。普通、こういうのは、めちゃくちゃ美人なご令嬢から声がかけられるものである。このクラスでも、ちらほら美人さんはいらっしゃるのだ。

 そんな中、そんな美人さんをさしおき、この地味な令嬢が声をかけられる。どう考えたって、人々の憶測を呼ぶだろう。


しかも、ほら。

「その発言は捨てておけないな。彼女と監禁……じゃない。踊るのは、前世からの縁があるこの俺を除いて他にいない」


 ほらほらほらきたよぉぉぉおぉぉぉぉ!!!!

完全に食いついてきたぁぁぁぁ!!!!!


 そう言って右横から私の横に立つのは、艶のある黒髪と、どこか物憂げな表情の男子生徒。


「あ、こ、こんにちは……あはは」と私は彼の方を向きつつ、私はさりげなく変顔をした。

 とてつもなく変な顔になる。

 どうだ、ほれほれ。こんな女を監禁したいわけが――、


【懐かしい。この変顔。やはり絶世の美女と呼ばれた彼女もやっていたっけ】




 うそをつけぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 私はもちろん絶叫した。

 絶世の美人が何でこんな鼻をのめりこませるような変顔を晒す必要があるんだよ!!!!

 


「うっそ。あれって”冷血の貴公子”、クレメンス・ロイター子爵じゃない? あの方が、他人に興味を示されるなんて!」

「クレメンス様って、意外と真面目で素敵よねえ。家の構造とかにも詳しくて、貴族にもかかわらず、ロープやのこぎりを使って、自分で作ったりもしてるんですって」


 それ、絶対監禁部屋作ろうとしているだけじゃん、と私は震えた。

 と、そんな風に二人のイケメン(うち一人は変装中)に絡まれている私の左側からさらに声がかけられた。


「おいおい、カンナ。セック…じゃなくて、いちゃつくのは俺とだけにしろよな」


 なぜか胸をはだけさせた男がちょっと頬を赤らめながら、私に話しかける。


 この脳内ピンク男がぁぁぁぁ!!

 いつから私がお前といちゃついた???????

 ってか、お前はエロキャラの癖に、照れてるんじゃねええええええええ!!!!


【クソッ。やっぱこいつの顔を見ると、むらむらするぜ。絶対、他の男には渡さねえ】


「えっ!? あれってグレイズ様?」

「有名な方なのですか?」

「知らないの? グレイズ・ベルファノン男爵。彼のあまりの色気に惚れた女は数知れず、でも難攻不落過ぎて、誰があの人の心を射止めるか、令嬢のお茶会では大激論を呼ぶほどのイケメンよ!!!」



「それなら、僕も混ぜてもらおうかな」と後ろの方からひっそりと男子生徒が顔を出す。

 

 雪かと見間違うほどに真っ白な肌。

 そして、それと不釣り合いなほど、真っ赤な眼。


「こ、こんにちは~」


 あははは、と私はすでに乾いた笑い声をあげることしかできない。


 案の定、神秘的なイケメンの登場に、これまた教室が湧く。

「ええ、なんていうお美しさなのかしら。もはや人間じゃないようだわ!!!」

「バートン男爵家の方じゃないかしら。でも、あそこの家の方が学院に入学されるなんて珍しいわね。基本的にあまり表に出てこない方ばかりなのに……。」


 そりゃそうだ。吸血鬼様だからね。


【好きな相手を手に入れるためには、他の男と戦わなきゃいけない。そう、これも吸血鬼の宿命なんだ】



 絶対ちげええええええ!!!!

 あんたがただただ単に首突っ込みたがってるだけだろ、と私は言いたい。本当に、なんだこの人。いや、正確には人ではないのだが。


 イケメン四人に全方向から囲まれる地味な女子(私)。

 興味津々なクラスの皆さん。


 アッハッハッハ。

 終わった。

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