第五話 人外系ヒーローはだいたい、種族の掟よりも恋心を優先しがち
衝撃の事実発覚。
最初のころは王子や転生者に驚いていたが、まっさか人外までこの学院は網羅していたとは。
もうなんか怖くなってきた、このクラスはいったい何を目指しているのでしょうか。誰か教えてください。
【吸血鬼は別名、呪われし夜の一族と言われている】
おぉ、凄い。なんだか中二病感が十分に伝わってくる。
【そして僕ら吸血鬼は普段、人間に関わってはいけない、と教わっている。だからこそ、我が家は、先祖代々ちっぽけな貴族としての人間社会に溶け込んでいるんだ。そう。僕のおじい様も、お父様も、貴族の学院になんて行ったことはない。みんなは、絶対に人間と関わってはいけないっていうんだ。でも、僕はあえて貴族学院に入学した。これからの時代、吸血鬼も人間を敵視するだけじゃなくて、お互いに種族の差を超えて仲良くしなきゃ!】
へえ、と私はちょっと感心した。どうやら、吸血鬼の中でも、ニンゲンの扱いをめぐって色々あるらしい。大変だねえ。
なるほど頑張ってくれたまえ。
ただし、私が関係しない範囲でな。
【吸血鬼がなぜ、人間に関わってはいけないのか。それは恋をしてしまうからだ。でも、吸血鬼と人間は分かり合えない。だから、その恋は絶対に成功せず、災いを招いてしまうそうだ】
ほおほお。そりゃそうだろ、と私は思わず相打ちを打つ。
だいたい、別種族間の恋愛って、だいぶドロドロしそうなイメージが根付いている。そもそも、違う国同士の恋愛だって結構ストレスがたまるって聞くし。
【僕たちは人間の血を吸う怪物、と思われている。何十年も昔に、人間と吸血鬼が恋をしたときには、人間側に立つ吸血鬼と人間を餌だと考える吸血鬼の間で、お互いがお互いを滅ぼし合うような戦争が起こったらしい。未曽有の被害が出た。だから、それを教訓にして、人間と吸血鬼は決して恋をしてはいけない、という掟ができたのだ。この掟は絶対。これを破ったものは、吸血鬼全員から命を狙われると言っても過言ではない。】
ふ、不穏だ。めちゃくちゃ不穏である。
まあでも、それはそうか。吸血鬼の中にも過激派とかがいるんだろうね。それで、喧嘩になる、と。
【だからこそ、僕の入学もとてもぎりぎりだったんだけど、どうやら僕は禁忌を犯してしまったらしい。そう、僕は恋をしてしまったんだ】
頭を抱える。最悪だ。なんで私のクラスだけこんなことに……。普通最底辺のクラスって山場も特になく、面白みのない地味な学校生活を送るんじゃないの?
もっとこう……公爵令嬢とか伯爵令嬢とか、そういうキラキラしてて、あっさり婚約破棄をしそうなタイプの人たちは、上級クラスにわんさかいるじゃん!
なんで私だけこんな正月福袋みたいな危険物の詰合せが起こってるんだよ!!!!
【そして、その相手はずばり――目の前の席にいるアーチボルト男爵家のカンナちゃんだ】
「だと思ったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「か、カンナさん???」
突如として立ち上がった私にもちろん先生は、びっくりしている。
「す、すみませんわ。先生。えーあの、そんな素敵なダンスパーティで私みたいな地味な令嬢にお誘いが来るのかなあ。なんて」
えへへへへ、とごまかすために、全力で愛想笑いをする。
「そんなこと言わないでください。カンナさんはちゃんと私の話にも反応してくれるしで、とっても素敵な女の子ですよ!!」
すかさず飛んでくる先生の笑顔のフォローに涙が出てくる。このクラスで唯一の癒しである。
とりあえず先生と早急に仲良くなり、さっさと席替えを頼もう、と私は誓った。
いまだに教室中はざわついている。
「へえ。あの子結構地味なのに、割と面白い系なのね」と言う発言がそこらかしこから聞こえてくる。
そうじゃない……そうじゃない……私は地味なのです……。なんかこう……、主人公たちの知り合いの知り合いのそのまた知り合い位の適当ポジションでいいのだ。
いやでも、おかしい、と私は気を取り直す。
話に聞く限り、吸血鬼と人間の恋愛は、それはそれは難しいものらしい。でも、私は特に運命的なことはしていない。強いて言えば、さっきダンスパーティーの紙を手渡したくらいである。
ということは、だ。
もしかしてこの男、いや吸血男は勘違いでもしているんじゃないか。そうだ、そうに決まっている。まさか”伝説の呪われし夜の一族”ともあろうものが、たった一枚の紙を渡されたくらいで禁忌をぶち破るはずがない――と言う私の希望的観測は、次の瞬間聞こえてきた吸血鬼系男子の発言によって木っ端みじんに吹き飛ばされた。
【僕が彼女を好きになった理由は、ずばり紙を手渡ししてくれたからだ】
は??????
【僕は吸血鬼。普通人間は、怖がって紙なんて配ってくれないはずだ。でも彼女は僕の眼をまっすぐに見て、紙を配ってくれた】
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?????
私はクラスメイトに対して、いたって普通に対応しただけなんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
ってか、紙を渡すだけなら私以外の女でもいいだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!
【今後どうなるか。人間に恋い焦がれた僕は裏切り者と蔑まれ、彼女と共に命を狙われるだろう】
は?
新事実発見である。私は紙ぺら一枚渡したせいで、呪われし夜の一族中から袋叩きに合うらしい。
う、嬉しくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!
【でも、仕方ないよね。恋は止められないっていうし……、ごめんね。家族のみんな】
私は思わず、机に突っ伏した。
もうダメだ。こんなんヤバ過ぎである。
とんだ色ボケ吸血鬼を入学させやがって……。しかも、まだ百歩譲って、ふたりに色々あるならわかるよ?
なんかこう……、ふたりで障害を乗り越えたとか、ふたりで強敵を倒したとかさ。
入学初日に紙一枚渡された程度で運命感じてんじゃねええええええええええ!!!!!!!!
【でも、僕が彼女に恋をした理由はそれだけじゃない。彼女の血は……吸血鬼にとって喉から手が出るほど欲しいんだ。まあ、僕ら吸血鬼はやろうと思えば、喉からだって手を出せるけどね】
ああ、なるほど。たしかによく聞いたことあるやつだ。どうせ、あれでしょ?
私の血がどうせ、吸血鬼にとってワインだ~みたいなことを言い出すんでしょ。知ってるしってる。
あと最後に唐突にぶち込まれた吸血鬼ジョークやめていただけませんか?
【そう、彼女の血はとても濃厚で――、とてもいい香りがする】
ハイハイ、不名誉ですが、どうもありがとうございます。
【それに、あの酸っぱい香り】
ん???
私は首をひねった。
ワインって、そんな酸味あったっけ???
【そう。――彼女の血はまるで、ローズヒップティーみたいだ】
ストップゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!
【彼女のローズヒップティーのような血は間違いなく、吸血鬼の間で取り合いになるだろう】
ダメだ。一切頭に入ってこない。
いや、普通さ。血液がワインみたいで、吸血鬼が酔うほどいい血液だ! みたいなノリじゃないの?
ワインだから何となく退廃的で夜の雰囲気で出るのに、ローズヒップティーってなんだよ……。
朝から楽しくローズヒップティーを飲む吸血鬼。異様に健康そうじゃねえか……。
「も、もうダメ……」
わけのわからないイケメンたちに囲まれ、どっと疲れた私は、先生のダンスパーティーの説明を聞き流しながら、机に突っ伏して意識を手放した。
人外系ヒーロー:ドラゴンか吸血鬼が鉄板そう。そしてどいつもこいつも、一族よりも恋心を取る(偏見)