表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/22

第二話 人の心を読めるって、だいたいロクなことにならない。


「……ッ!?」


 思わずガタっと机の上で身じろぎしてしまった。

 教室中の視線が集まる。


「カンナさん、どうかされました?」と優しそうな女性の教師が尋ねてくる。


「い、いえ、すみません。態勢がちょっと……」と私はかろうじて地味なモブ令嬢の仮面をかぶったまま、返事をした。


 なんでそんなことになる??


 いやでも、おかしい、おかしい。これでは平凡な学院生活を送れない。


 気になる人ができたのは百歩譲っていいとしよう。

 でもなんでそれが私になるのか。それがわからない 



【僕は改めて高位貴族の闇に気が付いた。僕に散々色目を使ってきた令嬢たちに挨拶しても、すげなく冷たい目で見られるだけ。そう。彼女たちは僕の地位が目当てなんだ】


 いや、そりゃそうだろ、と私は思った。

 みんな慈善事業でやってるんじゃないんだよ!!!!


 みんなお家の看板を背負っているのだ。そりゃわけのわからない木っ端貴族の子息があいさつしたって、無視されるだけだろう。


【でも、彼女は違った。彼女だけは、僕に全く分け隔てなく接してくれたんだ。前に夜会で一回見かけたときと全く同じ態度で、挨拶してくれた。彼女は、なんて清廉潔白な人なんだろう。全然欲にまみれていないんだ】



 ちげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!

 全然違うよ王子ィィィィ!!!!

 私は男爵家の中でも序列が低いから、誰に対しても低姿勢なだけなんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!


 だいたい、夜会で一回会ったっけ????

 場違い過ぎで早く帰りたくて、何ひとつ覚えてなかったわ!!!!!


【やっぱり彼女は特別だ。あの人と婚約できたらな】


 ヒエっ、と私は小さくこぼした。

 ……悲報。王子やる気満々である。


【あの人とだったら、僕は王族と言う地位を捨てたってかまわない。そう。二人っきりでこの国から逃げ出そう。そうして僕らは二人で歩きだすんだ】


 やる気ありすぎぃ!!!

 いやいやいやいや、この王子、頭のねじが緩みまくっている。超ド級の馬鹿だ。


 ただの何の後ろ盾もない男爵令嬢と、第一王子が駆け落ち????


 完全に私にとばっちりがくるじゃねぇか!!!!!

 暗殺される未来しか見えないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!


 関わりたくない。切実にかかわりたくない……。


 しかし、王子の勢いはまだまだ止まらないらしい。

 こうしている間にも脳内では王子の声が鳴り響く。


【ふぅ。彼女の唇……柔らかそうだったな。】


 はい???


【そうだ。二人っきりで王国を出たら、湖畔の近くの宿を探そう。そうして、僕は彼女のピンク色の唇に優しく触れ、そっと自分の舌を――】



「きょぺっ!!!」


「カンナさん。本当に大丈夫ですか。急に頭を振り回したりして、何か体調が悪いのでしたら――」


「だ、大丈夫です!!」


 心配そうにこちらを見てくる先生には申し訳ないが、私はきっぱり言い切った。

 

 今一瞬とんでもない発言が聞こえてしまった。

 己は官能小説家か、と言いたくなるくらいの生々しい描写である。王族ってたしか、他の貴族と比べても高等教育を受けてるとは聞いたことあるけど、こんなところで無駄な語彙力を発揮するなよ、と言いたい。


【彼女大変そうだな。僕が優しく抱きかかえてそのまま――】


 ヤバイヤバイヤバイ。

 王子、思春期真っただ中である。きっと王子はこれまで女性経験がほとんどなかったに違いない。だからこんな地味女を、清楚だとかわけのわからないことを言い始めるのだ。

 

 ダメだ。これ以上聞いてたら頭がおかしくなる。

 そうだ。意識するんだ意識を……!!


 私は必死に、集中した。

 この心の声を聴く、と言う能力は集中すれば他の人を対象にすることができる。

 

 誰かほかに、まともそうなやつはいないか???

 必死に目線だけを動かして辺りを探る。

 

 王子以外に、まともかつ静かそうな人がいれば……!!!

 できれば、あまり変なことを考えていなさそうな人……。


 そこまで考えたとき、ふとある男子が目に入った。


 私の右横。物憂げな表情をした、黒髪が艶やかな男子である。


 いいじゃんいいじゃん、と私は思った。

 こういう静かそうな人だったら、私の柔らかな唇をなめたい、とかは考えていないはず!!


 右横の男子にすべてを集中する。

 ラジオの周波数を合わせるようなイメージ。


 その瞬間、王子の声が途切れ、低いバリトンボイスが私の脳内を駆け巡った。



 よし成功――、



【俺は、前世で愛する女性を殺してしまった】



 ……は???


イメージ:異世界恋愛でよくいる変装したいお年頃の王子

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] ……(*‘ω‘ *)9『笑っちゃいけない貴族学園』。君はこの先生き残れるか!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ