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第十六話 聖女はだいたい魔力測定で見つかる


 入学から一ヵ月たった。

 私は相変わらずアホ4人に囲まれていた。なにも、イケメンを見せびらかしたいとか、イケメンを侍らせたいとかではない。

 純粋に私は根も葉もない(アホ共による)噂のせいで、同学年はおろか上級生、はたまた教師にもビビられまくっているだけである。


「しかし、なんでカンナはこんなに友達ができないんだろうね」と私の真正面を行くアレックスが不思議そうにつぶやく。


「まあ、そんなのはいい。俺たちがいれば、それで充分だろう」と私の左横で付き添うように歩くクレメンスも応じる。


「あれじゃないか? みんなカンナの魅力に参って話しかけられないのさ」


 そう言ってこちらにウインクをしてくるのは、私の右横を歩くグレイズ。


「たしかに。人間にも吸血鬼にも、カンナの魅力はわかっちゃうんだね」




 いや、あほか、と私は心の中でツッコミを入れた。


 私は深呼吸をしながら辺りを見回した。私の周りを囲うようにして、歩いてくれるイケメン×4。まあ、一人は絶賛変装中だけど。


 ……。


 …………。


 あんたらのせいだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!


 冷静に考えてほしい。一体どこの世界に、男4人に周囲を守られながら通学するご令嬢がいるのか。

しかも、なぜかこの四人は全員、常時魔力を展開しており、ときどき、


「カンナの敵はいないようだな……」とか「我らの姫を傷つける者は許さん」と謎に睨みを利かせているのだ。


 いや、絶対そのせいじゃん、と私は思う。


 いやだって、どこのどいつが、こんなヤバそうな令嬢と友達になってくれるというのか。


 最近では、「四騎士様」は何か弱みを握られているに違いない、とか、私は凄腕の洗脳魔術の使い手で、「四騎士様」を洗脳しまくっているという噂まで流れている。


 どういうこっちゃ。

 私の魔術の成績、今のとこ最底辺のクラスの中でも、さらに最底辺なのですが……。



 こうして私は、完全にモブ令嬢ルートから外れかけていた、と思っていたのだが――、




「さっすが、学院の四騎士様。本当に素敵ですね!」という甘ったるいはちみつの上に、更にチョコレートやら生クリームをぶっかけたような甘々ふわふわボイスが、私の前に現れた。


 私たち5人に声をかけてきた一人の可愛い女子生徒。少し癖がある甘ったるい桃色の髪、色白で少し垂れた目は庇護欲をそそり、声は男性に対する媚が満載であった。


「あなたが……カンナさん?」


 ふぅん、言いながら桃色女子が近づいてくる。


「私、一ヵ月遅れで入学したんですよ。もとは貴族でもなんでもないんですけど。魔力を測定してみたら、『聖女だ〜』って騒がれてぇ。そしたらぁ、学院に素敵な方がいるって聞いてぇ~」


 す、すごい。

 私は完全にビビっていた。

 こんな典型的な話し方をするような女子がいるのか、と。


「私、リリエッタって言うんです! あなたみたいな人が、こんな素敵な人と一緒にいるって、ちょっと場違いじゃないですか?」

 

 あくまで小声で。けん制するかのような口調。

 そして、入学に遅れる、というありがちな展開に、『聖女』というよくある単語。


 私は思った。


 間違いない、間違いない……。

 典型的、コテコテ……、ザ・テンプレ……、

 この顔は……、いやこの人は――、




 桃色聖女系ヒロインだあぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!


 



 そんなヒロインちゃん(仮)は、もう私に用はないとばかりに、さっとイケメンたちの元に行く。


「四騎士様ぁ~」


 しかも、その動きが凄いのだ。胸を揺らしながら、こてん、とついでに首も揺らしながら、歩いていく。胸のボリュームを大きく見せ、なんか完全に、男を落としにかかる女の行為である。

 

 これが素なら大したものだ、と私は怒りとかの前に感心してしまった。

 聖女ってこういう技能が必要なんですか?????


「えっ、どなた?」

 そう言ったアレックスが、クレメンスに尋ねる。

「知ってるこの子?」


「さあ」

 じろりとヒロインちゃんの顔を一瞥したクレメンスが、興味なさそうな顔で答える。

「知らんな。少なくとも、前世の彼女ではない。グレイズ、お前は女子生徒にも顔が広いだろ?」


「あぁ、最近男子の間で人気がある子だろ。『いと慈悲深き聖女様』名前を聞いたことがある。ただ、俺は顔見知りじゃないけどな。おい、吸血鬼。お前の関係者か?」


「いやあ」とこれまた眠そうな顔の色白イケメンが答える。

「知らないなあ。っていうか、ちょっと香水臭いなあ」


「え゛?」


 相当自信があったのにもかかわらず、ぼろくそ言われたヒロインちゃんが一瞬、ぴきっと顔をゆがめたが、彼女はまだまだ気合十分だったようで、甘ったるい声で続ける。


「え? いやいや、知らなかったとしても、今日から友達になればいいじゃないですか! 私、リリエッタ、っていうんです!!」


 あくまで天真爛漫な感じの彼女。


「皆さん素敵なんで、ぜひぜひお友達になりたいな、なんて。えへへへ」


 みゃはっ、とリリエッタさんがうるうると目を潤ませて、下から四人を見上げる。


 私は恐る恐る四人を見つめた。たしかにこんな男好きのしそうな美少女にこんな感じで迫られたら、さすがに――、



「カンナ。授業もう始まっちゃうよ。早く行こう」

「ん?」

「確かに。グレイズがちんたらしていたせいで俺たちまで遅れた」

「ちげえって! 元はといえば、バートン! お前が朝起きれないからだろ!!」

「そうやって吸血鬼差別?? 夜の一族なんだから朝弱いに決まってるじゃん」



 んんん??????


 固まっているリリエッタと四人の間に挟まれた私は、微妙な表情で聞き返す。


「ねえ。彼女その……いいの? 友達になりたいとか言ってたけど……」


「もちろん」

 真顔でアレックスが言う。


「お互い知りもしないのに、なれなれしいのはごめんだね。人間関係はそれほど単純なものじゃないよ」


「いや、まあ」


 彼の言っていることはもっともで、一つもおかしいことはない。ただ、入学初日から私で妄想してきた変態王子から言われると、こちらとしても首をひねらざるを得ない。


「さあて、行くか」と特に何事もなかったかのように、校舎に向かって歩き出すイケメン×4。



 い、いくらなんでも、ドライ過ぎませんか……????

私的イメージ

→【聖女系ヒロイン】



だいたい平民で、高確率で魔力測定によって見つかる。聖女らしく、傷を癒せたり、ループできたり、モフモフした神獣を従えてみたり、と多彩な才能をもち、その圧倒的ヒロイン力は他の追随を許さない。


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