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第十五話 噂は巡るよ、どこまでも


「え゛っ?」


 未だにショックから癒えていない私の横の方から、「またしても問題を解決しちゃったみたいだな」という軽い声が、聞こえた。


「解決……、解決ゥ!?!?!?」


 えっ、今、解決って言ったの????


 私は口を開けたまま、辺りを見回した。どうやら、さっきの声は辺り一体に響いていたようで、こそこそ首だけを出しているご令嬢がちらほら見えた。


 ――だが、みんな私と目が合うなり、真っ赤な顔をしてバタン!とドアをたちどころに閉めてしまう。


 え、いや、あの………。



「暴力だなんてダセえ真似はしない。それが俺のポリシーだ」

 そう言って跪づくグレイズ。


「きっちり約束を果たしただろ? お姫様」


 呆然とする私の耳に、またしてもグレイズの心の声が聴こえてくる。


【ふっ、さすがにここまで活躍をしたら、カンナも俺の頭脳を認めないわけにはいかないだろ。ほかのやつらには悪いが、彼女を射止めるのはおれってところかな】

 

 跪づくアホを、ほか三人のアホが囲む。

「やったなグレイズ。大手柄だ」


「ふん。お前ならやると思ってた」


「さっすがグレイズだね! よっ!!」


 そう言って私の目の前で、熱い抱擁をし始める男たち。


【王族の僕にはない発想。こいつも侮れない男だな】

【さすがだ、普段は頼りない奴に見えるが、ここ一番の危機には強い男だ】

【これが……人間の知恵!!】


 私は思った。

 違くないか、と。


 いや、見たことあるよ。

 なんかこう……、ライバル同士でさ。認め合う、男の友情ってやつ。


 顔面偏差値の高いイケメンたちが爽やかに、お互いを認め合う。

 たしかに、感動的な展開といえるだろう。


 ただし、


 女 子 寮 の 廊 下 で や る な。


「違ああああああああう!!!!!!」

 

 私は思いっきり声を張り上げた。


「だ、だいたい、なんで私が婚約者四人もいることになるわけ!?!?!??? その時点で風評被害も甚だしいんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! めっちゃ男好きな令嬢じゃない!!! 私は!!! 地味に!!! 生きたいの!!!!!」


「大丈夫だ、問題ないよ」と言うのはアレックス。


「えっ、大丈夫??? なにが? どこが???」


 どこもだいじょばないのだが、この男はいったい何を言っているのでしょうか?????

 

「王国の結婚法では、婚約者の数は明記されていないんだよ」


「うるっさい!!!! 法的ルールの話じゃなくて、倫理的な話じゃボケええええ!!!! どこの世界に!!! 婚約者を四人も囲う令嬢が!!! いるのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


「まあ、でもいいじゃん」と能天気に色白いイケメンがほほ笑む。


 その神秘的な美貌に、世の女性はたじろいでしまうだろうが、私は決して騙されない。

 この天然吸血鬼め。


「僕らは危機を乗り越えられて、嬉しい。そして、カンナちゃんもきっちり誤解が解けて嬉しい。まさにウィンウィンだよね」

 

 その言葉を皮切りに、アホ共の間で笑顔が広がる。

 お前もいいこと言うじゃねえか、的な雰囲気である。



 き、きっちり????????




 バアン!!(扉を閉める)


 私はとりあえずこの四人を部屋に連行し、それから、あらん限りの声で叫んだ。


「どこがじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! どこの世界に!!! お姫様の名誉下げて、『婚約者が四人もいる』とか言いふらす騎士がいるんじゃあああああああああぁぁあ!!!!!!」


 具体的に!!!

 なんにも!!!!!! 

 解決してねえだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!








「で、何がまずいのか、わかったわよね?」


 十分後、散々説教した私は、「ぜえはあ」と肩で息をしながら、目の前で正座で座るアホ四人に問いかけた。


 しかし、帰ってきた言葉は、


「「「「まあ……とりあえず……」」」」



 ピクピク、と頬が動く。

 なんでこんな必死に説教をしたのに、とりあえずレベルでしか理解できないのだろうか。



 ――しかし、落ち着くのよカンナ。



 私は、「ふぅ……」と息を吐きだした。


 まあ、とはいえ、なんだかんだで、こいつらも私のことを想ってくれたのだ。そう考えると、ちょっとむげにはできない気する。


「まあでも、その……気持ちは嬉しかったわ。私を助けてくれるっていう」


 だからその、と私は少し頬を染めた。


「だからその……今日は……お茶でも飲んでいけば」


 ちらちら様子を見ながら私は、そっと言った。

 ま、まあ、地味を標榜する私でも、多少のラブコメ展開くらいはありかな。せっかくこんな情熱的に接してくれているし、まあ方向性は死ぬほど間違えているが、根は悪い男たちではないのだ。少しくらい感謝しても――、


「ああ、大丈夫だよ。もう僕ら、帰るから」

「は?」


 よ~し、帰るか、と言って、立ち上がる男たち。


「えっ、帰るの?」


「当たり前だろう。なあ?」と第一王子アレックスが言うと、

「たしかにな」とクレメンスが応じる。


 2人の発言につられ、恥ずかしそうにポリポリと、グレイズも頬をかいて言う。


「まあ、未婚の女性の部屋に夜遅くいるってのは、外聞が悪いからな」


「へ?」


「そうそう! 僕も夜は早く寝たいんだよね~」


「よし」と、クレメンスが何やら呪文を唱えると、真っ黒い扉のようなものが開く。


「これ以上、カンナに迷惑をかけるわけにはいかない。ここに来たときと同じく、侵入魔術で、男子寮に帰るぞ」 


 そう言ってそそくさと、扉に入り込むイケメン×4。


 


 「えっ!?」

 

 はっ!?




 一人取り残された私と、ちょっと綺麗になった部屋。


 はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ????????




 さっきまで”ピーー”とか言ってたくせに、なんで急に!!!! 

 常識人になってんのよぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!



 「ちょっと期待した私の乙女心返しなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」

 






 後日、派閥の面々に、「あのカンナとかいう地味な女をどうしましょうか?」と問われたカロリーナ嬢は真っ赤な顔をして震えた身体を抱きながら、「あの令嬢だけは絶対に関わってはいけない、あの令嬢に目をつけられたが最後、その身を狙われてしまう」と強く命じた、という。






 こうして、私にも更なるあだ名が追加された。


「学院のアイドルを従え、さらには、あのカロリーナを返り討ちにし、神聖不可侵な女子寮の一角で、”ピーー”にふけり、”ピーー”の限りを尽くす、魔女」

 というのが、今のところの私のあだ名である。


 はっはっはっ、笑える。



 もはや、悪役令嬢ですらないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!


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