第一話 だいたい王子は変装しがち。
私こと――カンナ・アーチボルトは、転生者である。
高校を卒業して間もなく交通事故に遭って命を落とした私は、気が付けば、この中世ヨーロッパファンタジー的世界でおぎゃあ、と産声を上げていた。
父は少々の領地をもつ騎士で、それを支える母、といういたってこの世界では普通の両親。大貴族でもなければ、王族でもない。強いて言えば、父親の眼のところに傷がちょっとあるくらいだろうか。父は「俺が勇敢に戦って~~」などとほざいているが、私はどうせ転んだか何かだろう、と疑っている。
いいよね。平凡という言葉は、心を落ち着かせるものである。
茶髪に茶目のいたって平凡なモブ令嬢aとして、私は生きていくのだ。
そう。私のこの世界での目標はただ一つである。
それはのんびり平穏に過ごすこと。
幸い、この世界では魔力と呼ばれるものがあり、私も微力ながら魔力を保有している。
だから最低限、飢えたり仕事がなくなることはない。取りあえず、最低限、いい感じの男を捕まえて、地味に生きていこう、と常日頃から思っていた。
自分から転生者だの何だと、変なことは言い出すつもりもなかった。
前世は覚えていても、その記憶で大活躍なんてやるつもりもないのだ。下手なことはせず、のんびり静観をしよう。
だいたい、自分にそんなすごいことができるとも思えないし。
そういうわけで、私はこれからもバレないよう、こそこそと暗闇で生きていくつもりだ。
というわけで、今日から王国の貴族学院に入学し、新生活がスタートした。ド田舎にある父の領地から王都まで馬車で一週間ほど。
まあ貴族学院といっても、私は最底辺のクラスである。王族とか、大貴族がいるような凄いクラスではない。地味に隅っこでこそこそ頑張ろう、くらいのノリであった。
――のはずだが、既に今の時点でだいぶ嫌な予感がしている。
入学したての教室では、学院の教師が前に立ち、生徒は全員行儀よく座っている。さすがは最底辺のクラスでも、お貴族様、と言いたくなるような光景である。
しかし、である。
たった、一つだけ、絶対におかしいと思えるような現象が発生していた。
それは目の前の男子生徒。ちょっと癖のある茶髪以外に印象に残らなそうな男子から、声が聞こえるのである。
【ふぅ……これが学院というものか】
もちろん、彼がこんな静まった教室で、独り言をしゃべり始めるわけがない。
そう。
平々凡々を自称する私だが、"転生者"という以外にも、一つだけ大きな大きな秘密が存在した。
それは、人の心が読めること。他人の心の声が聴こえてしまうのだ。
いやでもおかしくないか、と私は思った。
小さいころはたしかに、やたらめったら頭の中に他人の声が鳴り響いていたが、成長してからはそんなことはほぼほぼ、なくなっていた。
だからこそ、大丈夫だと思い込んでいたのだが――、
【おっと、目立ちすぎるわけにはいかないな……なぜなら僕は、この国の第一王子なのだから】
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?????????
第一王子????
へ????
なんでぇ!?!?!
いやいや、学院は確かに王族もいるけど、こんな下層クラスに第一王子がいるわけないでしょ……、と私は思った。
現に第一王子は、顔よし頭よし、魔力よし、の完璧超人だと聞いている。
間違ってもこんなクラスにいていいような人間ではない。
【たしかに不思議に思う者もいるかもしれない。従者にだって反対された。だけど、僕はちゃんと曇りなき眼で、物事を見つめなければいけないんだ。そのために、僕はこうやって変装魔法までして、平凡な男子生徒に姿を変えている】
な、なるほど。よくわかった。
取りあえず、この人には関わらないでおこう、と私は固く誓った。
これは完全にヤバいタイプである。
王子なんてものに眼をつけられたらどうなることか。きっと社交界では「釣り合わない」と笑いものにされ、小ばかにされるにきまってる。
そんな状況はまっぴらごめんである。
【しかし、やはりこうやって王子という地位を捨ててみると、なんて僕は無力なんだ。いつもは僕の歓心を買おうと、周りに集まってくるやつらも、この姿の僕では、何の反応もしない。やはり王族というのは、人を見る目が必要だな。父上の仰っていた通りだ】
なるほど。
我らが王子様にも、それなりにお困りになっていたらしい。
それならそれで頑張ってほしいものだ。
ただし、私のいないところでな。
【でも……正直言って、そんな僕にも気になる人ができた】
へぇ、と私はちょっと驚いた。
王子様と言えば、まだ婚約者はいなかったはず。そりゃ王子の婚約者ともなれば、将来の王妃候補。いわば国を挙げての一大事である。
どこの大貴族のご令嬢か、と私は興味津々だった。自分が関わらないゴシップには、興味あるというのは、全世界共通だろう。
【それは……後ろの席のアーチボルト男爵家のカンナ嬢だ】
へぇ。
アーチボルト男爵家ねえ。ド田舎で芋が主力の地味領地である。
よく一国の王子が、まあそんな地味なところのご令嬢なんかに興味を示して……、
んん?
アーチボルト男爵?
いや、よく聞く名前だ。
っていうか――むしろ毎日耳にする名前で……、
後ろの席のアーチボルト男爵家のカンナ嬢。
後ろの席?
位置関係的に私である。
アーチボルト?
名前だけは一丁前にかっこいい我が家の家名である。
カンナ???
私です。
って、全部私じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!
ひたすらツッコミまくる女主人公が見たくて書きました笑
さっくり完結予定。
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