表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

私の義父は束縛系 後編

 私は子供の頃、夏休みが大嫌いでした。


 他の家族は、山へキャンプに行ったり、海にバーベキューに行ったり、楽しそうに過ごしているのに、自分たちの両親は朝早くから夜遅くまで毎日仕事に追われるばかり。それは私たちも例外ではなく、畑に駆り出されたり、家のお手伝いをしたりと、なんのイベントごともなくただ日々が忙殺されていく。

 そんなものだと諦めてはいましたが、「夏休みに何をしましたか?」という宿題が出るたびに、悲しい気持ちになったものです。


 しかし母となり、両親と同じ職業についた現在、私も自分の母親の気持ちが少しわかってきたように思います。仕事に穴は開けられない。でも、子供たちに手をかけてあげられないこと、自分の仕事に巻き込んでしまうことに、どうしようもなく罪悪感を感じてしまう。


 夏休みに「何をしましたか」と繁忙期中の親御さんの心を抉るような宿題を出してくるのは今も昔も変わりません。それでもなんとか子供たちを楽しませようと、仕事に邁進する旦那の代わりにせめて夜だけでもと花火大会や夏祭りに連れ出していました。


 今でこそワーカーホリックを拗らせている旦那ですが、娘たちが小さい頃はそれでも頑張っていたのだと思います。暇を見つけては水族館や動物園や遊園地なのどに連れて行ってくれていました。

 しかし、娘たちが小学校に上がったのを境に、家族での外出の回数がガクンと減りました。おそらく自分の父親としての役目を「遊びに連れ出すこと」から「お金を稼ぐこと」にシフトしたのだと思われます。


 ところがそこに息子が生まれてしまいます。娘たちより10歳ほど離れた末っ子長男です。その頃には義父の束縛も強くなり、外出することもめっきりなくなっていましたが、娘たちだってまだまだ遊びたい盛りです。


 ただでさえ家族の思い出が減っているのに、夏休みがいくら稼ぎ時だからといって、どこにも連れていけないなんて、そんなの悲しすぎるじゃありませんか。


「明日休みをいただきたいんですが」


 夏休みも終盤にさしかかったある日、私は義父に申し入れました。


「なんだ、なんかあんのか」

「息子の宿題を見てあげたいんです」


 嘘は言ってません。だって夏休みの宿題が「博物館に行ってみよう!」なんですから。

 果樹の収穫があらかた終わっていたこともあり、義父はしぶしぶとではありますが休みを認めてくれました。

 そして出発の朝、そこにはなんと旦那の姿もあったのです。


「え、行くの?」

「行くよー?」

「ちゃんとお義父(とう)さんに言ったんでしょうね」

「お母さんには伝えた」


 その頃旦那は、自営業と農家の二足の草鞋を履いていました。朝も夜も土日でさえ働きづめの彼に嫌味の一つも言いたくて、夏場子供たちをどこにも連れていけないのはかわいそうだと口うるさく言っていたので、それで思い立ったのかなと。

 珍しいこともあったものだと、それでも家族みんなで出かけるのは本当に久しぶりだったので、さっそく出かけることにしたんです。


 なのにまさか、その自営業の店舗に義父が来襲するなんて思わないじゃないですか。

 店舗兼自宅の我が家に私たちがいないことを知って、義父が放った言葉がこれです。


「まったく、夜逃げでもしたんじゃねぇだろうな」



 夜逃げ!!!!



 夜逃げってあなた。

 してもいいんですか夜逃げ。

 できればしたかったですね夜逃げ。


 訪れていたお客さんたちに聞えよがしに言っていたそうで、店舗を任されていた事務員が帰ってきた私たちに向って申し訳なさそうにそう言いました。なんてことしてくれてんだよ。


 事務員は機転を利かせて冗談にしてくれたようですが、外聞が悪いなんてもんじゃない。その場にいたのは幸いお得意様だけだったので笑い話ですんだ(?)んですが、まぁね、そんなことされても困るのは私たちじゃない。

 培ってきた信頼というものがあるので「夜逃げするほど経営逼迫してるのかな」ではなく「夜逃げするほどひどい親御さんなのかな」と思われるのが落ちですよ。そんな落ちつけられて憐れまれるのも、できれば御免被りたいのですが。


 それにしても「夜逃げ」とか。


 家族そろってだまって出かけてしまったことがよっぽど腹に据えかねたんでしょうか。

 それとも自分が私たちに「夜逃げされてもしかたのない仕打ちをしている」という自覚でもあったんでしょうか。

 あったとしたら少しは悔い改める余地もあるのかなと思うんですが、それはいまだに謎のままです。


 旦那は義母に伝えたとは言いましたが、義母が義父をとりなしたとして、どうにかなったことなんてただの一度もなかったのに、私もなんで信用してしまったのか……。


 やっぱ、疲れていたのかなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ