シュガールック
「長編小説を書かない理由が、あるのか?」
「……あくまで、僕の場合なんだが、
僕の小説は、主人公にウェイトを置くのが主流なんだ。
それで、書き続けていて、ある時、ぼんやり思ったんだが、
例えばだけど、主人公は男性で、主人公のモノの考え方を、表現した1節、
『春めいてきたし、服屋で、ピンク色のロンティーを買った。』とか、僕が書く。
世の中には、色んな人がいるだろ?
その1節を読んだ人で、
『俺は絶対にピンクはセレクトせんわ』とか思う人は、その主人公から離れていくわけだよ。
(俺とは合わない主人公だな…)と。己と、あまり考えのかけ離れた主人公の小説は読みたくないだろ?」
「なんか、よく分からないんだが。」
「主人公は、とにかくスポーツは野球が一番好きだという人物だとするだろう、
それを読む人で、『いやいや、やっぱりスポーツといえばサッカーが一番だろ!』と思っている人は、そんな主人公の小説は読みたがらないわけだ。」
「なんか、難しいんだけど」
「別の例で、いくよ。
『女性アイドル』だよ。
歌が上手くて、その歌が良くて、踊れるし、みんなを夢中にさせるが、実は人知れず、スゴいワガママだとする。
そんなワガママなアイドルだと知れば、みんな離れていくだろ?」
「……うーん、何となく分かったような、やっぱり分からんような…。
『小説』の話に戻らせてもらうぜ。
長く書くというのは、それこそ、色んな描写があっていいわけだから、主人公の、あれこれに、こだわる必要がないだろ?
長編を書かない理由には、ならないぜ」
僕は、しばらく黙って考えたが、
そう言ってきた彼に、
「もっともだ」と返した。
僕は、
何か、僕の伝えたいことが、彼に上手く伝えられた、理解してもらえた云々より、こう言ったような僕が発信する話を聞いてくれる、話すことができる彼がいてくれる事実で満足なのだ。