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弱小領地の生存戦略! ~俺の領地が何度繰り返しても滅亡するんだけど。これ、どうしたら助かりますか?~  作者: 山下郁弥/征夷冬将軍ヤマシタ
第一章 生存戦略

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3回目 一人反省会


「うおぉぉおおお!?」


 クレインは目を覚ますなり、勢いよく上体を起こした。

 数秒前まで平静だった心臓は、急に鼓動を早めて、額には汗が滲み出てくる。


「はっ、はぁっ……夢!? 今度こそ夢か!?」


 最初に生き返ったときは、死ぬ直前の出来事が思い出せなかった。

 しかし今度は、明確に戦死した記憶がある。


 クレインは自分の首や顔を触り、半狂乱で無事を確かめていった。


「生きてるのか? 俺、生きてるよな!?」


 自分が殺される直前の光景が、目に焼き付いているのだ。

 死に際を克明に思い出せる分、クレインは前回よりも長く混乱していた。


「おはようございまーす!」


 そうこうしていたところに、モーニングコールのためにマリーがやってきた。

 彼女は元気に挨拶した後、取り乱した様子のクレインを見て、戸惑いながら声をかけた。


「えっと……クレイン様? だ、大丈夫そうですか?」

「えっ? あ、ああ。……うん、なんとか」


 クレインは軽い錯乱状態にあったが、いつも通りの朝を象徴するマリーが現れたことで、何とか冷静さを取り戻した。

 兎にも角にも、現状を確認するために、彼は命じる。


「頼む、新聞を持ってきてくれ」

「え? あ、はい」


 平静を失ったクレインを見て、何とも言えない顔をしたマリーを見送った数分後。

 やがて彼のもとに、前世(・・)で見たものと同じ新聞が運ばれてきた。


 何度確認しても、新聞の日付は王国暦500年の4月1日だ。


 これ(・・)が現実なのだと認めざるを得ない一方で、死に様を思い出したクレインは悶絶する。


「騎兵の先頭に立った東伯が、本陣に突入してきて」


 突っ込んでくる馬の(ひづめ)が、視界いっぱいに広がり――人生を終えた。

 そのまま()き殺されたのだろうと推測して、クレインは頭を抱える。


「こんな死に方で、納得できるか!」


 事の発端が、伯爵がこっそり狙っていた少女と婚約を成立させたから。という、何とも言えない恨みからだとすれば。


 ならば勢力拡大の野望を燃やすラグナ侯爵家に滅ぼされた方が、何倍も恰好がつく最期ではないだろうか。

 そう考えたクレインは、非常にやるせない気分を味わっていた。


「……いや、でも前向きに考えろよクレイン・フォン・アースガルド。情報のアドバンテージは得たじゃないか」


 北には野望に燃える極道侯爵がいて、東には精強な騎兵隊を擁する、少女趣味の伯爵がいる。

 彼は頭に王国の地図を広げて、そんな構図を思い浮かべた。


「絶対に勝てないことは身に染みて分かった。極力、刺激しないようにしよう」


 戦いを考えることからして間違っている。

 そう結論付けて、クレインは次なる打開策を練り始めた。


「もっと慎重に動く必要があるな」


 ヨトゥン伯爵家との関係を強化していけば、こちらから提案せずとも、いずれは縁談が持ち込まれるのだ。

 正当な理由もなく拒否すれば、疎遠だった今よりも関係が悪くなるだろう。


 かと言って婚約を受け入れた場合、東から軍勢がやってくる。

 そうなればクレインは死に、領地は滅亡だ。


「南伯と親密になる作戦は、かなり修正がいるな」


 そして二度目の人生ではまだ、クレインはこの生活が夢ではないかと疑っていた。

 しかし彼は既に、どちらも(・・・・)現実だと受け入れている。


「夢の中で見ている夢――の中で、更に夢を見るなんてことが、あってたまるか。これは……そうだな。前世の記憶を持って、生き返っていると考えよう」


 だからこそ彼は現実的に、これから採れる善後策について、考えを巡らせていった。


「……あんな理由で開戦して、国にどう申し開きをするのかは気になるけど、今はそれどころじゃないな。まあ、この際、過去に戻る原因とかも後回しでいい。とにかく、生き延びるための対策を考えないと」


 そう意気込んでみても、大まかな方針は二度目の人生と変わらない。

 とにかく生き残ること。まずはそれだけを目指して、対策を練ることにした。


「ラグナ侯爵家と、ヴァナルガンド伯爵家は、一旦置いておき……」


 クレインは北と東の大勢力から目を逸らして、他に焦点を向ける。


 まず南方面だ。アースガルド領の南西には、ヨトゥン伯爵家を始めとした親戚の家が点在しているが、そちらに続く道以外は未開の大森林になっている。


 そちらで頼れそうな勢力と言えば、南伯。やはりヨトゥン伯爵家しかない。

 しかし深い関係を結んでしまうと、東伯軍が攻め込んでくる。


「婚約抜きで、畑だけ借りられないか打診してみよう。まあ商売だから、嫌とは言わないはずだ」


 ヨトゥン伯爵家とは、純粋にビジネスの関係を築く。これが大まかな方針だ。

 経済的な取引に絞れば、ヴァナルガンド伯爵の怒りを買うことはない。


 婚姻を持ち出された際に、どう断るかは、そのときに考えればいいだろう。

 そう方針を定めてから、次に北方面の中でも、近場の勢力を思い浮かべる。


「領地のすぐ北には、小さな貴族家が密集しているけど……危なっかしくて手は組めないな」


 山を挟んだ向こう側には、小さな貴族家が密集しているが――そこは魔境だ。

 水利権やら、通行権やらでいつでも争っている、混沌とした土地になっている。


「小貴族たちを下して勢力拡大を……いや、大義がないか」


 ラグナ侯爵家の影響を受けない範囲にいるので、飲み込めば戦力を増強できるだろう。

 しかし小領主たちを攻め滅ぼす理由など、どこにも見当たらなかった。


「争う理由もなしに、味方に対して戦争は吹っ掛けられない。それが普通なんだよ」


 国内最大の勢力であるラグナ侯爵家か、もしくはヴァナルガンド伯爵家ほどの名門であれば、話は別だ。

 裏工作をするなり、王宮に賄賂(わいろ)を送るなりして、私闘が許されるかもしれない。


 だが、しがない子爵であるクレインに、そんな手は使えない。

 そもそも、それ以前の問題もあった。


「徒党を組まれたら普通に負けるから、どちらにせよ戦争はなしだ」


 小貴族たちに連合を組まれたら、あっさり負けるほどの手勢しかいない。

 だから武力による勢力拡大など、最初から不可能だった。


「……かと言って、あの辺りでは商売も難しいんだよな」


 利権でドロドロなので、経済的な輪を広げることも難しい。

 互いに仲が悪いため、どこかと協力すれば、どこかに敵を作ることにもなる。


 では、どうすればいいのか。下手に手を突っ込むと、火傷する可能性が高いとすれば――


「小貴族たちは、放っておくしかない」


 それよりも北に行くと、今度はラグナ侯爵家の勢力圏に入ってくる。

 つまり北方面には、全く手を出せないのだ。


 だからクレインは、領地のすぐ傍から目を離して、西方面に考えを巡らす。


「西は……いや、そっちもだめか」


 アースガルド領を東西に横断する街道を、西に進んでいくと王都がある。王都までの道すがら、いくつかの領地はあるが――助けてくれそうな勢力は存在しない。


 むしろ西方面が、最も援軍を望めない方角だった。


「王都に近づくほど名門が増えるけど、小さい領地ばかりだからな」


 王都の近郊までいくと、土地の価値や貴重性が上がるので、下賜される領地は基本的に小さい。

 つまり、気位が高くて付き合いにくい上に、親交を結んでも戦力には数えられない家ばかりが並んでいる。


「北と西は駄目か。かと言って、東もな……」


 東に少し進めば、これまた小さな貴族家はある。

 しかし、最寄りでもそれなりの距離があるし、味方にしたところで大きな戦力にはならない。


 そもそも中央部と東部は山脈で分断されているので、異文化の色が強いのだ。縁を結ぶのが難しい以前に、付近一帯のボスは――現状で最も関わりたくない――ヴァナルガンド伯爵家だ。

 

「それなら結局、頼れそうなのは南伯しかいないわけだ」


 つまり今回の作戦は、ヨトゥン伯爵家と経済の結びつきを構築すること。

 現状で、それ以外に取れる行動はない。


 これは初期構想と比べれば、なんとも頼りないものに落ち着いていた。


「疎遠な親戚のままだし、援軍要請は無理だろうな」


 婚姻関係を抜きにすれば、そこまで親しくはなれない。経済にせよ軍事にせよ、本格的な援助が受けられる可能性は、更に低くなったということだ。


「これじゃあ秋に、小金を稼いで終わりだぞ。……あのロリコン伯爵め」


 東伯が横槍を入れてこなければ、色々な手が打てたはずなのに。と、思わぬところで計画が頓挫したクレインは、唸っていた。


 しかしもちろん、この作戦だけで未来を変えられるはずがない。


「少し裕福になったくらいじゃ、滅ぼされたときに略奪される金が増えるだけだ。もっと根本的に……そう、一発逆転の秘策を考えないと」


 彼は再び長考に入り、勢力図を思い浮かべながら、10分ほど悩んだ。

 その末に、一つの結論に至る。


「――やめだ、どうしようもない。俺の頭なんかじゃ限界がある」


 前世、前々世と合わせたところで、まだ20歳にも届いていないのだ。

 こんな小僧が一生懸命に策を練っても、名案が出てくるはずがない。


 クレインは筆を置いて机に突っ伏し、考えるのを止めたが――ふと、今しがた口にした自嘲の言葉から、閃きが走った。


「いや、待てよ。……そうだよ。もっと効率のいいやり方があるじゃないか!」


 降って湧いた天啓(てんけい)を形にするべく、飛び起きて、再び筆を執った。

 この思いつきが、アースガルド家を取り巻く状況を激変させることになる。


 しかし今のクレインはまだ、この作戦がどのような結果を生むかまでは、想像できていなかった。



 次回「欲に(まみ)れた賢者たち」


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― 新着の感想 ―
[一言] ロリコン伯爵w カリ○○○○じゃないんですねw
[一言] 主人公、タイムスリップ(繰り返し)の受け入れ早っ(笑)
[気になる点] そもそも前回の内戦で、 南伯が味方してくれないのはおかしくないか? アースガルドが滅びたら次の矛先は自分達だろ だったら子爵と南伯で共闘して東伯に対抗するのが最善 共闘しても東には勝て…
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