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閑話 弱小領地の生存戦略?

 告知が多めなので、イレギュラー更新です。


 今週末は閑話と、十章の第一話を更新予定。



「クレイン様、頼まれていた本を持ってきましたよ」

「ありがとう、そこに置いておいてくれ」


 執務をしているクレインの部屋へ、両手で本を抱えたトレックがやってきた。

 結構な数があり、運ぶだけで一苦労といった量だ。


「しかしまあ、よくもこんなに読みますね」

「知識はいくらあっても困らないからな」


 人生を繰り返す度に新たな知識を習得してきたクレインだが、毎回読むものが違うのだから、徐々に読んだことのある本を見かけることが多くなる。


「でも軍略とか、内政の指南書はかなり読んだから……抒情詩(じょじょうし)みたいな、文化的な方にも手を広げてみるか?」


 クレインが愛読しているのは実用書ばかりだ。


 他所の貴族を相手にする機会も増えることだし、少し教養を身に着けた方がいいかとは思ったが――彼の本選びにとって最も重要な点は、政策に役立つかどうかだった。


「でしたらマリウス殿のように、戦記物でも読んだらどうです?」

「戦記、ねぇ」


 トレックがよく仕事で組んでいるマリウスも、中々の読書家だ。

 趣味と実益を兼ねて、よく戦記物の本を読んでいる。


 現実的にあり得ない戦術もよく出てくるが、実際に使われた奇策が載っている場合が多い。


 戦術論として大真面目に学ぶような内容ではないとしても、何か得るものはあるだろう。

 そこについてはクレインも同意する。


「そうだな。次は戦記も仕入れてくれ」

「毎度ありがとうございます」


 仕事が片付き机から離れたクレインは、早速トレックが持ってきた本のラインナップを確認してみる。


 しかしさっと眺めたところ、見たことがあるような内容の本ばかりだ。


「やっぱり読んだことがある分野の本だと、どうしても内容が似てくる。本だけでは頭打ちだよな……」

「専門知識は専門家に聞くのが一番早いというのは、まあそうです」


 復習も重要だが、何度も見た内容を学び直したところで効果は薄い。

 だからクレインの温度感はそれほど高くなかった。


「……今度ビクトール先生に、専門家の知り合いがいないか聞いてみるか」

「クレイン様も雑読家ですが、そこまでいくと自分で本でも書けそうですね」

「俺が? いや、時間が無いよ」


 確かに本を楽しむというよりは暗記を繰り返してきた。

 古今東西の本を乱読してきたのだから、基礎となるものは持っているだろう。


 しかし仕事の合間に本を作るなど結構な激務となる。だから自分で執筆するというのは、クレインとしては難しいと思っていた。


「大丈夫ですよ、クレイン様。要はストーリーがあればいいんですから」

「ストーリー、ねぇ?」


 その点でトレックの認識は少し違う。

 彼は一転して、身を乗り出すほど前傾姿勢になり、クレインに語る。


「例えば私がクレイン様の一生を聞いて、作家へ依頼をかければいいんです」

「なるほど、自伝のようなものか」


 自分の活躍を本に残したがる者は多い。

 立場が上の貴族ほどその傾向がある。


 クレインとて今では、それなりの影響力を持つようになった。何度もやり直しているという点さえ伏せれば、働きは歴史書に残るほどだ。


「そうですよ。銀山発見の経緯から書けば領地持ち貴族に売れるでしょうし、市民から見ても面白い読み物になりますよ」

「……そうかなぁ」


 トレックが何に情熱を燃やしているかは分からないクレインだが、褒められて悪い気はしない。

 今までの行いを多少脚色するだけでも、英雄譚か内政物語くらいは書けそうだ。


 そんなふうに一通り(おだ)てた上で、トレックは本題に入った。


「で、これなんですが」

「これは?」

「クレイン様の逸話をまとめたものです」


 クレインが目を通すと、それはスルーズ商会で雇った作家が書いたものらしく、既に物語の大枠はできていた。


「ここにクレイン様視点の情報を付け加えていただけば、いつでも発売できますよ」

「……商売の話だから熱が入っていたのか。まあいいけど」


 トレックも確認は済ませているので、内容自体に特段の誤りは無い。

 これを脚色したとしても、特に名誉を損なうものではないだろう。


 少しでも影響力の増加に繋がるならと、クレインもあっさりと了承した。


「助かります。人員は押さえてあるので、来月辺りまでにお願いしますね」

「無茶を言うなよ……」


 激務漬けなのに、締め切りを迫られてはたまらない。

 そう思ったクレインは呆れたが、トレックの方は真剣だ。


 手回しのいいことで、既に刊行のための人員を押さえていると言う。


 なんだか予定調和のようで上手く乗せられたと思うクレインだが、ここでふと、本のタイトルが目に入った。


「もうタイトルまで決まっているのか」

「ええ、こんな感じでどうでしょう」


 そこに書かれてあった文言を見て、クレインは何とも言えない顔をする。


「弱小領地の生存戦略……ねぇ?」


 今までの経緯を考えれば的外れでもないタイトルだ。


 クレインは納得する反面、貴族の自伝に付けるタイトルではないよなと呆れていた。

 しかし反論は飛んでこないので、トレックは念押しを重ねる。


「準備は進めておくので、原稿だけお願いしますね」

「分かった分かった、用意はしておくよ」


 商談が終わり満足そうに帰っていくトレックを見送ってから、クレインは手元の本を見て、やれやれと首を振る。


「これも領地の成長に貢献してくれるといいんだけどな」


 本を通して有名になれば箔が付くだろう。

 所詮は田舎の若造領主と、中央貴族から下に見られることは減るかもしれない。


「……まあ、広報活動も必要なことか。頑張ろう」


 だからクレインとしても、ここは手を抜けない。

 彼は秘密に触れない範囲で、本への注釈を始めた。




 書籍版の発売日が決定したのでお知らせします。


 書籍1巻:2022年 2月 28日 発売予定。

 書籍2巻:2022年 3月 30日 発売予定。


 第1巻の購入特典などは以下の通り。


①共通特典SS

 ゲーマーズ、アニメイト、メロンブックス、ワンダーグー、とらのあな。

 いずれかの店舗で購入されるとSS小冊子が付いてきます。


②アニメイト限定SS

③メロンブックス限定SS


 例えばアニメイト様で購入されると、特典①と②の二冊が付いてきます。


④ゲーマーズ限定特装版

 ④だけは有料特典ですが、ゲーマーズ様限定で、第1巻から特装版を販売予定です。

 特装版はそこまで数が出ないそうで、こちらも無くなり次第終了です。


 特典内容は、描きおろしイラストの付いた32Pの冊子。

 第七十七話、マリーへのプロポーズを補完する内容の前日譚です。


 書籍版は本の値段が上がらない限界まで加筆したので、ストーリーの分量がWEB版の1.5倍超えになっています。

 WEBで出していない情報が出てきたり、違う分岐を設定してあったりもします。


 同じ舞台で違う話になるように書いてあるので、どちらか一方というよりは、WEBをお読みになっている方の方が楽しめるかもしれません。


 書籍版も是非、よろしくお願いします。



 書籍1巻表紙

 挿絵(By みてみん)



 ゲーマーズ限定特装版

 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] トレック視点だと、失敗無しの発展しか知らないから 「弱小領地の超発展戦略」になると思います!
[一言] おれはなろう小説はめちゃめちゃ見てても、なかなか購入まで行ったことはなかったのですが、この作品は絶対に買います。  正直最初は普通の人間なのによく何度も死の苦しみを味わっても気力を保っている…
[良い点] まさかのタイトル回収
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