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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その18 真・夏祭り

作者: 天城冴

新型肺炎ウイルスなどにより中止となったとある田舎町の夏祭り。毎年の祭りを楽しみにしていた高校を卒業したばかりの二人の若い女性、ユカとミキ。二人はある決意を秘めて夜の神社にやってきた…

「ねえ、ホントにやるの?」

夜風が心地よい、とある田舎町の神社の境内。

浴衣姿の若い女性が恐る恐る連れにきく。

「やりたくないなら、帰っていいよ、ミキちゃん。私ひとりでもやるから」

同じく浴衣姿の女性。思いつめたような真剣な顔には、まだあどけなさが残る。

「ユカがそういうなら、私もいいよ」

「いいの、ミキちゃん?やったら、引き返せないよ」

「そうだね。ちょっと怖いけど。でもさ、このまま何もしなくても同じじゃん」

「そうかもね、私たち、もう、未来なんてないもんね」

「そうだよ、去年言ってた輝ける未来なんて、もう私たちにはないんだよ」

ミキの言葉を聞きながらユカは一年前のことを思い出していた。


夏祭りで賑わう境内。ユカたちは祭りを満喫していた。ユカとミキと他にも女子たちと同級生の男の子たち、先輩や兄や姉の友達を連れてきた子もいた。皆同じ高校の仲間たち。

年に一度の町の祭り、観光客も大勢来て賑やかなだった。

“ここの祭りってホントは祟りを鎮めるためだったんだろ、ユカ”

“山崩れだか、川の氾濫だか、その両方だったけ。とにかく災害を収めるために人柱になった人たちがいたとか”

“その人たちが集落に祟ったのをさ、生贄をささげて慰めたんだっけ”

“俺は山の神だかの怒りを鎮めるために捧げものしたって聞いたけど”

“どっちでも、おなじじゃん。生贄ささげるって怖い神様だよ”

“あー、でも今は町の繁栄を願うんでしょ。捧げものはするけどさ。鳥とか魚とか”

“魚って鯛とかだろ、ミキ。こんな山の中まで運ぶのは、昔は大変だったろうけどさ”

“もう今は由来なんていいじゃん、ケイスケ君、観光案内に書いてあるので。みんなで遊びに来てるんだから、暗い話はなし。そのうち私がちゃんと調べて真実を教えてあげるよ”

“ま、そうだよな。人寄せの作り話かもしれないけど、それでも祭りとか神社とか目当てに観光客がきて、町が栄えてんだから。出稼ぎに行かなくて済むし”

“俺たちの親の商売も就職も安泰だろ、お前、あの金持ち向けのホテルの就職内定でたんだろ、ケイスケ”

“ま、な。お前だって工務店に入るんだろ、タロウ。町は民泊ラッシュだしな”

“ああ、旅館用リフォームとかすごいって。いろいろ資格取って独り立ちするんだ”

二人の会話を聞きながら、私もそのホテルに決まったんだよ、また一緒だね、ケイちゃん、とユカは心の中でつぶやくだけで、言えなかった。どうせ来年にわかることだしと


だが、翌年になって状況は一変した。新型肺炎ウイルスの世界的流行により、国境をまたいだ移動は制限されたため、観光客は激減した。国内の観光客も政府の場当たり的な自粛の呼びかけによって大幅に減少した。各地の観光地は疲弊し、ホテルや旅館、土産物屋の倒産、閉店が相次いだ。ユカもミキもケイスケもタロウも他の子たちの親もそのあおりをくらった。もちろん本人たちもだ。高校は何か月も休校。卒業式もマトモに行われず、先生や同級生たちにも別れの挨拶もできなかった。いや、する必要もなかったのかもしれない。彼ら自身、就職も進学もできず町にとどまらざるを得なかったのだから。

「去年、一緒に祭りにいったアカネさ、親の事業駄目になって、進学あきらめたって」

「就職、するの?」

ミキの言葉にユカは驚いた。

就職、できたの?内定でていた私たちだって取り消されたのに。愚痴を言おうとしたが

「いや、結婚だってさ」

「アカネちゃんって彼氏いたっけ、それとも卒業して、できたの?」

「そうじゃないよ、見合い、になるのかな。なんでもさ、相手の親にアカネの親が金を借りてたとか」

ユカは目を丸くした。

「そんなのって、あるんだ、今でも」

「今だからでしょ。ウイルスで自粛騒ぎでさ。観光業壊滅状態、ゴールデンウイークだけならまだしも、夏も祭りは、ほぼ中止だよ。そのうえ水害も酷くて、みんな旅行どころじゃない。観光業で食ってる町がそれで、どうやって儲けろっていうの?おまけに政府とかの補償金とかだって全然足りないし。町からも出たけど、焼け石に水だよね。まあ出ないよりマシ、事業たたむためのお金はなりそうって言ってたけど、うちの親」

「すぐには、やめられないんでしょ、政府からのお金もらうと。持続化っていうやつだから」

「まあ、細々と来年はね、その先はもう駄目だろうね。お金借りまくって、担保とかないらしいけど、それでもさ、返さなくちゃいけないから。やっぱり大学は無理。でも、働くとこも」

「なくなっちゃったんだよね。ホテルも閉鎖だし、他のとこだって」

「残念だったよね、ユカ、せっかくケイスケ君と一緒だったのに。二人がホテルのマネージャーになってさ。あたしが学者になってさ、民俗学の調査に学生引き連れてきたときホテル代を安くしてもらおうって思ってたのに」

「そうだよね、去年のお祭りのとき、そんなこと言ってたね。アカネちゃんも他の子もそれぞれ神社にお願いしてたね、願いが叶いますようにって」

アカネがどんな将来を語ったのか、ユカは思い出せなかった。しかし、親の借金のカタに結婚するような未来ではなかったはずだ、絶対に。

「ケイスケ君だってタロウ君だって、こんなことになるなんてさ、思ってなかったよね」

「そう、だよね。私も…、ケイちゃんがあんなことになるなんて」

就業するはずだった4月以降も長い自宅待機を命じられた挙句、結局全員解雇だとわかったのは5月も半ばだった。隣町の大きな労働組合に相談に行くと言って出掛けたケイスケの車が崖から落ちたと聞いたのはその翌日だ。

「人が集まってウイルスが広まるのが怖いからって、お葬式もロクにできなくて、タロウ君怒ってた。事故で死んだのにウイルス関係ないだろって。ウイルスに感染して、前方不注意になったかもって、すごい屁理屈だよね。昔話だってありえないコジツケだよ」

「でも、小さくても、お葬式だせただけでもよかったかも。そのまま焼かれちゃったケースもあるんでしょう」

「そうだよね、ちょっとでも肺炎っぽい、ウイルスの症状っぽい人はすぐ焼かれちゃって。あっという間に町の人口減っちゃよね。対策もしてたっていうけどさ、抗体とかの検査もロクにしてないでさ、素人でもおかしいってわかるのに」

「ミキちゃん、また始まったね」

「だって、都会のお役人とか政治家さんとかおかしいよ。なんか基準もわからなくて自粛だのアラートだの。ウイルス感染者急激に増えたのにアラート発令したり、しなかったり、なんなのよ」

「どうせ政治家は人気取り、私たち、田舎町の住民なんてどうでもいいんだって、言いたいんでしょ。私もそう思うよ。こんなちっぽけな町なんてつぶれたっていいんでしょ。自分の選挙に関係ないから」

「そうよ、だから、あんなウケ狙いのいい加減なことするのよ。ホント腹立つ、私たち、あいつらにつぶされたようなもんでしょ」

半泣きになるミキの声を聴きながら、ユカはつぶやくように

「だからさ、これをやるんでしょう」

「そう、だね。でも、ユカ、調べてきた私がいうのもオカシイけど、本当に効くかわかんないよ」

「効くよ、絶対」

効かせて見せる、ユカは心の中で思った。

ミキが調べてきたのは、神社の祭りの本当の起源だった。夏祭りのこの日に災厄が立て続けに起きた。山津波に川の氾濫、そして疫病の流行。集落の人々は人柱を建てた。若い娘たちは不承不承に生贄となった、だが

「結局、祟ったのよね、集落じゃないけど」

「無能の城主にでしょ、ミキちゃん。無計画に山に城作って、そのせいで山津波が起きて」

「あと氾濫抑えるための溜池もつぶしたんだよね、その城主。自分の愛人だかを住まわせる館つくるとかで。そんな話聞いてたから、人柱になった娘たちも自分の家族や幼馴染もいた集落に祟るんじゃなくて、元凶の城主に仕返ししたんでしょ」

「それで苦しんで死んだ城主のあり様をみて若様が、親の罪を償うために娘たちを神に祭り上げて、怒りを鎮めるために祭りを行ったって。その祭りは怒りを鎮めるだけでなく、逆に生贄をささげて敵を呪うとかにも使ったって。前の城主と同じような横柄な敵将とかを殺すためにね。だけど若様は外聞が悪いから、秘密にしたんでしょう。本当のことは神主やごく一部の人しか知らなかった」

「今回の騒ぎもあって、神社もなくなるってことになったから。出ていく前に古い蔵整理するから手伝ってって、神主さんたちに言われてたまたま見つけたんだよね、初代の神主の日記。すっごく古かったんで、誰も読めそうにないからミキちゃん民俗学志望だったんなら、あげるって言われて、もらったんだけど。辞書ひきながら、なんとか解読したよ。隣町の古文書とかとかも照らし合わせてみたから、間違ってないとは、思うけど」

「だから、犠牲になった娘だっていう神様に生贄を捧げればいいんでしょ、そうすれば、あいつら、無能な政治家の奴等に仕返しできる」

「理屈ではいえば、そうだけど。でもさ、ユカ、城主が死んだのだって単なる偶然かもよ、無能でバカなくせに横柄だったらしいし。本当は息子とか部下が殺しちゃって、それで娘たちの祟りってことにしたのかも」

「違う、祟りよ。だって敵方の奴等だって死んだんでしょう」

それだって単なる暗殺かもしれない、ミキが言いかけたのをユカはさえぎるように

「祟りなの、いいえ、祟りにするのよ」

私たちの、あいつらに対する。

「ユカ…。そうだね。私だってさ、いっそ、祟ってやりたいよ。進学だけならまだしもさ、どうせ家も何もなくなるかもしれないんだ、無理に商売続けても先もないし。町に出ても就職もないかもしれないしさ、風俗だって」

「夜の街は感染源だって都知事とか吹聴してたよね。風俗にすらいけないなら、私たちどうして生きていけばいいのかな、外国に売られるとか?あの世とか?」

どうせ逝くなら、あいつらに思い知らせてやりたい。テレビの中で安全圏にいて、苦しんでる人達のことなんて頭にもない、あいつ等、あいつらを持ち上げてる奴等。

「包丁でいいのかな。ほんとは短剣で一突きなんだろうけど、そんなのないし」

「すっごく痛そうだね。モルヒネだっけ、睡眠薬とかももってきたけど」

「苦しんで死なないと意味ないんじゃないかなあ」

「だって、死ねないほうが不味いじゃん。急所を刺せないかもしれないし、意識無くなればさあ、出血多量でいつか死ねるよ」

「そうだね。もう、この神社には当分人はこないし。神主さん引っ越してから一か月ぐらいだって言ってたっけ、社を壊すの」

「神様移したりするって。じゃあ、神様がいなくならないうちにやらなきゃって言ったの、ユカじゃん。浴衣着てやろうって」

「だって、着物着ないと駄目じゃない?白装束なんてもってないし」

「普通、そんなの。持ってないよ」

言いながらミキは目に涙を浮かべている。

「この浴衣去年も着たよね、これが死に装束になるのかあ」

「そうだね」

皆で楽しんだ夏祭りの浴衣、この浴衣で本当の夏祭りをするんだ、あいつらを血祭りにする夏祭りを。暗い思いを胸にユカは包丁を取り出した。


どこぞの国ではウイルスのせいか解雇、リストラ、決まっていたはずの就職もなくなったなどという悲惨な話がちらほら聞こえてきているそうです。そのうえ、水害などの災害も起こる、ナンタラピックなどやってる余裕なぞないはずですが、そういうお祭りやろうっていう方がまた首都の首長になってしまったようで、本当にどうなるんでしょうねえ。本文のように思いつめた若人がいないといいんですけどねえ。

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