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属性



「ひと段落した…。君も休めた…?」


無遠慮に話しかけることも勝手に本を読み始めることもできないまま、椅子の上で緊張しながら過ごしていたゼッタは全然休めませんでしたとは言えるわけもなく、クラウドの問いかけに全力で頷いた。


「仕事は明日教えるから…まずは…気になるから…君の魔力の属性、みてみよう…」



手に持っていた工具を置いて、作業台の前で立ち上がったクラウドがゼッタの方に振り返った。


「もう…知ってる?」


立ち上がったクラウドと目が合ったので、ゼッタも弾かれる様に立ち上がる。

そして首をぶんぶんと横に振る。




クラウドは、昔自分で造ったという大きな機械を店の奥から持ってきた。

その古そうな謎の機械は木の蓄音機のような見た目をしている。


目の前にどんと置かれたそのラッパのような部分に向かってあーと声を出すように言われた。

ゼッタが指示に従うと、その声に合わせて機械についている針が紙の上でブルブル揺れて不思議な形状の波を描いていく。


声を機械に通すと機械が魔力の波紋を感知して可視化してくれるので、描かれた波の形状を見ればどの属性の魔力を持っているか分かるらしい。

ちなみに魔力がないと、針はまっすぐな線を描くだけだ。



息の続くところまで声を出そうと思っていたが、途中でクラウドに制された。

彼は紙をびりりと破いて波の形状を確認する。




「うん…君の魔力は闇属性…珍しい…」




「はあ。やっぱり闇ですよね…」


ゼッタは深く残念そうなため息をついた。

眉間にしわを寄せ、眼をショボショボさせる。

目が疲れたお爺さんのように眉の根元を抑えて唸ってしまった。



「…なんで…嫌…?」


クラウドが不思議そうな声を出した。

初めて無頓着以外の彼の感情が読み取れた気がする。



「だって闇って不吉、じゃないですか…?」


「…別に…?ただの呼び方なだけだから…」


「でも、どうせなら光属性とかって呼んだ方が縁起がいい気がしませんか、闇より…」


「そうかな…昔からそう呼ばれてるから…」


「…ですよね」


ゼッタは固い溜息を洩らした。


ゼッタは自分の中にある記憶を覗いていたので、魔力の属性については一応知識があった。

魔法が使える人は魔力を持っていて、その魔力は3つの属性に分けられる。

3つの属性には闇、黒、白と名前がついている。

そして持っている魔力の属性によって使える魔法が変わってくる。

闇属性の魔力持ちなら攻撃魔法が使え、白属性なら治癒魔法が使え、黒属性なら補助魔法が使えるのだ。


ラスボスになる予定のゼッタが優しい治癒魔法や頼れる補助魔法が使えるわけないから、どうせ攻撃魔法使いなんだろうなとは予想していた。

だから百歩譲って別にいい。

だが誰だ、攻撃魔法が使える魔力属性に闇なんてラスボス向けの不吉な名前を付けたのは。

まるでラスボスの為につけたようではないか。


……いやいや、それは言い過ぎかも。


そういえばアレスの将来の仲間にも、指輪を両手に腐るほど付けた魔法使いがいたなあとゼッタは思い出す。

彼女は水攻めや風攻めの魔法を使っていた。ということは彼女も闇魔法使いだったのだろう。

先ほどクラウドが眉一つ動かさず珍しいと呟いていたが、血液型がAB型くらいの珍しさなのだろうとゼッタは勝手に思うことにする。





「クラウドさんはなに属性なんですか?」


「僕は黒属性の魔力を持ってる…仲間強化したり…防御したり…敵弱体化したり…」


「そうなんですね。黒属性、いいなあ…」


心からそう言って、ゼッタは力なく手の指同士を引っ付けたり離したり足をプラプラさせ始めた。

羨ましがっても、使える魔法が変わるわけがないからやりきれない気持ちを逃がしているのである。


…人を傷つけなさそうな魔力、羨ましいなあ。

人を助ける魔力、いいなあ…




「君…魔法陣使えるってガークが言ってたけど…魔法陣使えば君でも補助魔法、使えるよ…ね?」


「え?」


手遊びをやめプラプラさせていた足を止め、ゼッタは聞き返した。


「え…?君、魔法陣使えるんでしょ…?」


「ええと、使えません。魔法陣は暗記してるだけで、使ったことはありません。

でも、私も補助魔法使えるようになるんですか?」


「…うん…たとえ君が闇属性の魔力しか持ってない魔法使いだったとしても…黒属性の魔法陣を発動させれば…君は黒魔法が使える…」


「え!

……イ、じゃなくて、それは誰も教えてくれなかったです」


なんとおばばから借りた魔法陣の本には、当たり前すぎるその事実がはっきり説明されていなかった。

イから名前が始まる精霊も教えてくれなかったし、将来のアレスの仲間に魔法陣を使う者もいなかったのでゼッタはその事実を知らなかった。



「あの、私、最初は魔法陣を使えるようになれば魔力の扱い方が良く分かるようになると言われて、それだけのために覚え始めたんです。だから、魔法陣の本当の役割をあまり気にしていませんでした」


「そっか…まあ…確かにいい訓練にはなる、かも…

魔法陣を発動させるために一番大切なのは…魔力をコントロールすることだから…」


クラウドは変わらない調子でゼッタに返事をした。

そして続ける。


「…訓練としてはいいんだけど…実は最近は魔法陣を暗記しようなんてする人は少ない…覚えるの、面倒だし…だからもしほかの属性の魔法使いたいなら…今は魔力変換具を使うのが主流…」


「魔力変換具?」


「…魔法陣と一緒のことができる魔法道具…闇属性の魔力持ちでも…それを使えば…補助魔法も治癒魔法も使える…楽…」


「すごいですねえ…」


感心しているゼッタは、後から紙と鉛筆を買ってきて忘れないようにメモしておこうと決めたのであった。





「僕の魔力変換具もよく売れる…ぼったくり価格でもよく売れる…」


「ぼったくり!

と、都会ではそういうの普通なんですか?!」


ゼッタは今度は息をのんだ。

驚いたので、先ほど教えてもらったことは頭の中から消し飛んでしまった。


ぬるい村人とは違って都会で生きる人は恐ろしいとゼッタが青くなったところで、クラウドが首をゆるゆる振った。


「ううん…冗談…でも高価なのは本当…特殊な材料を使うから…」


顔を上げたクラウドの指が、おもむろに商品棚の一点を示した。

首を傾げたゼッタはその指を辿って棚に近づいてみる。

そこには等間隔に陳列されたたくさんの指輪と腕輪があった。


たくさんある指輪と腕輪一つずつに「闇属性ファイア」「黒属性ウィンド」「白属性ヒール」「白属性ピュアリファイ」「黒属性タイム」「黒属性ブレイク」……などなど、丁寧にタグがつけられている。


ピンときた。

例えばこの「白属性ヒール」のタグをつけた指輪を装備すれば、ゼッタでもヒールが使えるということか。


ちらりと値段を見て、ゼッタはぎょっとした。

クラウドの言う通り価格はべらぼうで、およそ鹿30頭分に相当する。



「しかもね…それ、すぐ壊れるように作ってあるんだ…」


「ふ、不良品!?」


ゼッタは驚愕した。

クラウドは悪質な商売人なのかもしれない。

これから悪徳商売の片棒を担がされるのかと思ったゼッタは今度こそ身震いした。



「…嘘だよ…でもしっかり作っても、使ってるとすぐ壊れるのは本当…でも…魔法使いはちょっと依頼こなせばたくさんお金もらえるから、大丈夫…」


よかった、嘘だった。

まだ彼の唐突な冗談に慣れないゼッタは苦笑いをする。


「でも魔力変換具はすぐ壊れちゃうんですね。だったら皆魔法陣使えばいいのに…」


「魔法陣は…ちょっと古いし難しいから…人気ない…皆楽な方がいい…君は…それでも魔法陣続ける…?」


「そうですね、はい。魔法陣は魔力のコントロールの訓練としては良い手段なんですよね。だったらそのまま続けます。頑張って暗記した魔法陣もありますし」


ゼッタは特に悩むことなく首を大きく縦に振った。


「…そう…」


「あ、あの、もちろん魔力がコントロールできるようになったらそれで満足なのですが、私、あわよくば黒魔法の魔法陣も使えるようになりたいです」


ゼッタは鼻の頭をかいた。

ゼッタはただの村人だから流行に敏感なイケてる魔法使いになれるとは思ってないし、それよりなにより最悪なラスボスにならないようにしたいだけなので、今まで必死に地面に書いて暗記した魔法陣が無駄にならないのならそっちの方がいい。

そのついでに、可能ならばちょっと村に貢献できるような黒属性の魔法が使えるようになれたらいいなと思ったのだ。


白属性の魔法も捨てがたいが曲がりなりにも黒属性の魔法使いの弟子なのだし、黒属性の魔法陣を選んだのはゼッタにとって自然なことだった。








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