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冒険者ガーク



「ど、どう考えても怪しいだろ!こんな夜中に山の中で!」


アレスのうしろでしりもちをつきかけていた村人が、その場にいる者すべての意見を代弁するように二人の男に向かって叫ぶ。


二人の男は体格が良く、威圧感がある。

身なりも村人のそれとは違っていて少し高価な感じがするし、山の田舎者ではない雰囲気がにじみ出ている。


黒髪の大柄で鍛えられた太い腕をした男が一歩進み出て、アレスやその場に集まってきた村人を眺めて言う。

「いやいや。それを言ったらあんたたちも怪しいなあ。こんな夜中に山の中で何をやってるんだよ?男6人、銃も背負ったりしてさ。人食いの獣でも追ってるのか」



「いや、人を探している。女の子を二人と、もしその子たちが誘拐されているのならその犯人をだ」

茂みからゼッタの父親が進み出て、アレスを庇うように男とアレスの間に入って言った。

ゼッタの父親はそう言いながら、黒髪の男とその後ろにいる金髪で細身の男の様子を抜かりなく観察している。


アレスも同様に二人の男の出で立ちを観察していた。


薬師に扮した男は一人だったらしいが、犯人が二人以上のグループでも何らおかしくない。

むしろ二人以上の犯人の方が納得がいく。


彼らの持ち物は何の変哲もない鞄に、腰に下げた剣に、山登りにはあまり適さなそうな靴…

薬師っぽい服装ではないが、山で脱ぎ捨てて着替えればいくらでもごまかしはきく。


だが何となく、黒髪の男の豪快そうな顔からも、金髪の男の寡黙そうな顔からも悪い感じはしない。

しかし人は見かけによらないと言うし、まだ何も明らかになっていないのでアレスはそのまま警戒の姿勢をとり続ける。



しかし黒髪の男の方はゼッタの父親の言葉に、大きく反応した。


「誘拐と言ったか…?

もしかして、攫われたのは精霊使いの女の子か?」

急に黒髪の男の声色が変わり、その言葉に熱がこもって聞こえる。


「確かに二人のうち一人は精霊使いだが…」


呟くように答えるゼッタの父は、ゼッタが精霊を宿していることを知らない。

ゼッタはおばばの言いつけを守ってあの夜あの場にいた人以外に秘密を明かしてないし、アレスももちろんゼッタの秘密を守っている。


「誘拐犯は薬師に化けてなかったか?」

黒髪の男は顎に手を当ててゼッタの父親を横目で見る。


その何気ない動作が妙にサマになって見えたのは、その男の雰囲気が豪快なのにどこか品のあるものだったからだろう。


「ああ…見知らぬ薬師を見た者が村にいたので、そいつが誘拐犯なのではと思っている」



「ビンゴだ。

その薬師が誘拐犯のうちの一人だよ。そいつらは最近フェデラルの周りにある山間の小さな村に代々受け継がれてる精霊使いの家系の女の子ばかりを攫って集めてる。奴隷にして売るつもりらしい」


「奴隷…!?」

男の言葉に、村人たちはいっせいに口をあんぐりと開けた。

アレスも絶句している。



奴隷と言えば、貧しすぎる村でどうしても立ち行かなくなった時に自分や子を売って食つなぐ術で、ここではないどこか遠くの地で昔行われていたかも、くらいにしか聞いたことがなかった。

村から出たことのないアレスや村人たちは外の情報に疎い。



「そ、それは確かな情報なのか…?」

ゼッタの父親も動揺を隠しきれていない。



「ああ。そういうちょっと珍しい子供を攫って奴隷競売にかけるんだ。いい商売なんだってさ。

冒険者ギルドフェデラル支部に依頼があって、俺らはそいつらを追ってるんだ。もう既にフェデラル周辺のいくつかの村が被害に遭ってる」


村人が唖然として声も出せない中、男は冒険者登録証である銀の腕輪を見せながら続ける。

男のうしろの金髪の方も無言で腕を差し出し、銀の腕輪を見せてくれた。


「そういや、名乗ってなかったな。俺はガーク。で、こっちは相方のジェリコ。

俺たちは次の標的になりそうな村に先回りして奴らを待ち伏せしたやろうと思ったわけだが、どうやら遅かったみたいだな。ちょっと詳しい話を聞かせてもらうよ」


ガークはそう言って村人たちに、ゼッタとセリカの特徴や、消えた時間、薬師を見た者の証言、捜索状況をテキパキと質問する。





一通り話を聞き終えて、ガークは顎をさすりながら呟く。

「ふーん。でも、その精霊使いじゃない方の子は分かんないな…

いやね、そいつらは金持ちの奴隷用に精霊使いの女の子ばかりを集めてて、普通の子が攫われたって話はないからさ。もしかしたらそのゼッタちゃんは普通に山で迷ってるだけかも…」


「いいえ、山で育った村の子が山で迷うはずはないんです」

ゼッタの父親が静かに首を振った。

ふむとガークが首をひねる。




「あの。ゼッタは魔法陣の勉強をしています。精霊使いではないけれど、魔法陣が使えると思われたのではないでしょうか。だから珍しいと思われて攫われた…」

アレスがゼッタの父親のうしろから声を出した。


村人たちは魔法というものにはとことん疎いし、文字も読めないのでゼッタが読んでいる本の内容を把握していない。

だが事情を知るアレスの中でゼッタが攫われたのは既に確実なので「山で迷うはずないけど迷ったんじゃないか」とトンチンカンなところに捜索隊を出されても困る。

ゼッタもセリカ同様奴隷化の危機にあることを知らせつつ、ゼッタの秘密をできるだけ守るため言葉を選ぶ。



「おいおい、魔法陣術師の少女かよ。そりゃ連れ去られたで確定だな。高く売れるだろうからな」

ガークはアレスの期待通り意見を翻して、更に最近の村には魔法陣術師もいるのかよと驚いていた。



村人の方はといえば、一連の不穏な会話にゾッとしたりムッとしたりしていた。

他の村人と同じように険しい顔をしているゼッタの父親を押しのけるようにして前に出たアレスはガークと向かい合う。


「だから…早く助けなきゃ」


弓を限界まで引き絞るような張り詰めた強さを湛える空色の瞳を見て、ガークの顔はふっと緩む。

「ああ、早いとこケリつけなきゃな」


それを聞いたアレスは静かに拳を握り締めた。



…早く無事を確認したい。一刻も早く。

早く安心した顔が見たい。

早く助け出してあげたい。









「一度我々の村に来ますか?他の捜索隊も何か情報を持っているかもしれません」

見知らぬ二人の冒険者と利害が一致したということで、ゼッタの父親がガークたちに提案する。


「いや、もう攫われたってんなら誘拐犯どもは一直線にフェデラルへ向かうと思う。俺らは村には寄らずにフェデラルへ戻る。だがもし他の捜索隊が有用な情報を持ってたって言うんなら急いで俺らを追いかけてきてくれ」


がークとジェリコはもう既に体を半分フェデラル方面に向けている。

が、思い出したように手をパンと打って聞いた。


「あんたらのところにも村を束ねる精霊使いがいるだろ?攫われた娘の家族が。その精霊使いの力はなんだ?捜索に向いてたりするのか?」


「おばばの精霊の力は水をきれいにしたり土を豊かにするだけだ。人の捜索には残念ながら向かない。セリカの精霊とも連絡は取れないと言っていた」


「なるほどな、わかった。そりゃ捜索向きじゃねえわな。じゃ、俺らは行くよ」

ガークは手を小さく上げて山道を下り始める。



ザッザッザッ…


アレスは黒髪の冒険者と金髪の冒険者が山を下る大きな背に振り返る。

二人の姿はすぐに闇に消えて見えなくなる。








二人の冒険者から得た情報を共有する為に急いで村への道を引き返し始めるアレスたちの捜索隊。


暫く来た道を戻ったところで、拳を握ったままだったアレスは意を決したようにくるりと身を反転させて隊列から飛び出した。


「アレス、どこへ…?!

あっ、いくらあの二人が信用できそうだからと言ってもそれはやめておけ。村について報告を済ませたら俺たちもすぐにフェデラルへ向かうつもりだ!」


予備動作なしに跳ね出たアレスが凄い勢いで山を下り始めたのを見て、行動の意味を理解したゼッタの父親の慌てた叫びを振り切ったアレスは、もう草むらの中に姿を消していた。












「待ってください、僕もフェデラルへ連れて行ってください!」


後ろからの突然の大声に、ガークとジェリコが振り返った。

声の主、アレスはガークの目の前まで滑り込むように山の斜面を降りてくる。



「僕らが村に帰ってる間にも、ゼッタは危険な目に遭ってるかもしれない。僕は一刻も早く見つけてあげたい」


「坊主か…驚かせやがって。

えっと、ゼッタちゃんは…魔法陣術師の方だったな。坊主はゼッタちゃんの姉弟か何かか?」


「いいえ。ゼッタは僕の大事な幼馴染です」

アレスはキッと眉に力を入れて、長身のガークを見上げる。


ガークはしばらくアレスの顔を舐めまわすように見ていた。




「ほーう。ほうほうほうほう。なるほどなるほど。ゼッタちゃんはそんなに可愛いのか」

そう言ったガークは何かに気が付いた顔をして、ニヤニヤしながらアレスを覗き込んでくる。


「えっ」

いきなりの言葉に、アレスは少し顔を赤くしてビクッとした。


「すっごい可愛いんだな?」


「ええ、はい…」

アレスはしどろもどろになって言う。

誤魔化したくてもできないアレスであった。

それを見て満足そうにニヤニヤするガークは大げさに頷いている。


「なるほどなあ、それなら居ても立っても居られないよな、うんうん。お兄さん、その気持ちすっごいわかるわ。男ならそうなるよなあ、うんうん。

…よし。絶対お兄さんの言うこと聞いて怪我したり死んだりしないっていうんなら一緒に来い。ゼッタちゃんやセリカちゃんの顔が分かる奴がいれば探すのも楽になるかもだしな」


「止めておけ、ガーク。こいつに何かあっても俺たちは責任はとれない」

ずっと黙ったままだった金髪の細面の男、ジェリコが口を開いた。


「はい。僕の行動の責任はすべて僕にあります。僕が責任を取ります。僕はもう狩りにも出ているし、あと少しして13になればもう大人です」

怪訝な顔のジェリコに首を振り、アレスがはっきりと言う。


「僕は暗闇でも山の案内ができます。剣も使えます。もし獣が出ても一人でとどめを刺せる。それにいくら街に人が多くてもゼッタのことなら多分見つけられる」

アレスが畳みかけるように言う。

ジェリコはまだ眉間にしわを寄せている。





「いいじゃんジェリコ。俺らもこのくらいの歳の時は散々大人に迷惑かけたぜ?少しくらい面倒見てやっても罰は当たらねぇさ」

アレスとジェリコの顔を交互に見たガークはからりと言って、小さく片方のくちびるを吊り上げて見せた。







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