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Lv.1のチートな二人  作者: RYO
7/9

災害級のと出会い



森を駆け抜け、赤いアイコンの集まる場所へ向かう。

近付くにつれ、生臭い匂いがして来る。この匂いが人間じゃない事を祈って、とにかく走った。

目的地に辿り着くと、その光景に吐き気がする。一つ目の巨人が狼達を喰ってやがる。

思わず口を押さえて吐き気を沈めた。昔からグロいのだけはどうしても苦手だ。



「!リアン助けて!クロエが!!」



声の方を見ると、クロエが腹から血を流して倒れている。シロナが泣きながらリアンに助けを求めた。

HPがだんだん減っている。急いで回復しないと命が危ない。

リアンも先程の回復薬をクロエに飲ませるが、クロエのHPでは回復量が足りない。



「そんなしょぼいのじゃなくて、ちゃんと上級回復薬使ってよ!」

「っ…。」



悔しそうなリアンを見て、これ以上手がないのだと分かった。俺はティアに目配せする。

全ての魔法が使えるティアなら、回復魔法も出来るはずだ。



「リアンくん、私にやらせてくれないかな?」



落ち込んでいるリアンの肩に手を置いて、ティアが微笑む。



「ちょっと、アンタなんかに何が出来るって言うのよ!」

「…回復魔法は、光属性の力を込めるんだよ。身体に光を感じるんだ。出来るかい?」

「やってみる。」



ティアは前世で、農業高校に通っていた。農作物を育てたり、鳥や牛等を捌く授業があるので、ある程度グロ耐性が付いている。しかし、こんなに間近で怪我人を見たのはきっと初めてだろう。

震えるティアの手をリアンが握った。ティアの魔法に期待しているんだろう。

怪我人は二人に任せておけば大丈夫だ。俺は目の前のデカブツを眺めた。クエストの討伐対象であるクレセントウルフが怯んで動けなくなるほどの魔物だ。



[トロール:巨人の魔物。武具の素材、錬金素材、食料として希少価値が高い。

特徴:皮膚が厚く、再生能力が高い

弱点:火属性魔法

コア:首]



「?コアってなんだ?」

「コアは魔物の核だよ。破壊すれば魔物は死ぬ。トロールは皮が硬いから、普通の剣だと斬撃はなかなか通らないと思った方が良い。」



トロールのコアは首。

弱点が火属性魔法の為、討伐は焼いて仕留める。すると素材として売れない為、希少価値の高い代物って訳か。

斬撃が効かないのは困ったな。何か対策はないか練っていると、トロールがこっちを向いた。

一個しかない大きな目が俺を見る。



「チッ…。」



リアンが小さく舌打ちしたかと思うと、この場所を取り囲んでいる木にガンマで魔弾を撃ち込む。すると、撃った所から赤い光が伸び繋がって行く。

さっきの結界はこうやって作ってたのか。原理は分からないが、凄いな。



「トロールはLv.70以上のパーティが束になってやっと倒せる魔物だ。焼くか一発で仕留めるか、二択だよ。」

「へぇ…どうしてほしい?」

「出来れば、素材として高く売りたい所だね。」

「リアン、何言ってんの?!」



シロナはティアの魔法を見ても、まだ俺達を信じていないみたいだ。

ティアのお陰で、クロエの傷は完全に癒えている。やっぱり魔法って凄いな。

ティアのスキルは神の盾。そしてリアンも防護壁が造れる。クロエとシロナを守るには充分過ぎるサポーターだろう。

俺は、なんとしてでもトロールを倒す。



「ゼロ、無理しないでね。」



可愛い女の子が心配してくれるってのは、やっぱり悪くないな。百合属性はないが、この気持ちは、こうして男に生まれ変わったからこそなんだろうな。


トロールの長い腕が伸びて来る。軽くジャンプすると、かなり高く飛べたので、デカイ拳を跳び箱のように飛び越える。

なるほど、普通の身体能力はかなり上がっているみたいだ。

身体強化を選択し、1~10段階の3を選択した。

身体が硬い何かに覆われた感覚がする。今なら、何を殴っても痛くない気がした。

でも痛かったら嫌だから、試しに殴ってみよう。

俺はジャンプしてトロールの腹を軽く殴る。


ブワッ


その瞬間、トロールは物凄い衝撃を受けたかのように吹っ飛ばされた。リアンの防護壁のお陰で寸前で結界にぶつかったが、そのまま飛ばされていたら森が半壊していたかもしれない。

リアンとシロナは驚いて声も出ないようだ。いや、自分でもこれには驚いている。まさかここまでの威力とは。

任侠一家の話にハマって、殺陣や格闘技の動画を大量に観た時期があった。その甲斐あってか、剣を握る感触や殴る蹴る等の動作も頭でイメージしやすい。

しかも嬉しい事に、今の俺の身体はイメージ通りに動けるんだ。

女の体の限界とか、身体が固いから無理だとか、体力がないとか、色々な面で無理だった技も、今では簡単に出来てしまう。



「なんだ、武器使うよりこっちの方が楽でいいじゃないか。」

「うそ…素手でトロールを吹っ飛ばすなんて…。」

「だけど、それだけでは倒せないよ。」



トロールはすぐに起き上がって、俺に向かって来る。しかし、戦うコツを掴んだ俺には子供の相手をしているようなものだった。

真っ直ぐ走ってトロールの腕を避けて股を潜り、背中を思い切り蹴ると、地響きがする勢いで地面に転がる。



「コアは首だったな…。」



そのまま背中に降りて、コアの位置を確認した。集中してトロールの首を見ると丸い石が見える。そこを狙えばいい。

深呼吸して動悸を抑える。大丈夫。相手は魔物だ。

自分に言い聞かせて、無限収納から取り出した槍でコアを狙って首を刺した。



「…ありえない…災害級の化け物を、こんな簡単に…。」



シロナの呟きが聞こえた。

このトロール、災害級だったのか。コアだけを破壊したし、状態としては文句ないだろう。あとはクエストをクリアするだけだ。

トロールを無限収納にしまって、クエスト対象のクレセントウルフを見る。トロールが居なくなった事で、敵意が剥き出しになった狼達に睨まれた。

そういえば、今俺が居るのは敵のど真ん中。これは流石にヤバいかもしれない。敵が一体ならなんとかなるが、コイツら何匹いるんだ?そんな事を考えている内に、狼達は一斉に動き出した。



「っ…。」

矢雨アローレイン!」



リアンが頭上にガンマを撃った。すると、弾丸が頭上で破裂し、矢が複数降って来た。それらは俺を避けて、次々と狼達を仕留めていく。よく見ると、俺の知る木で出来た矢ではなく、レーザー光線のような光で出来た矢だった。

それに当たった狼は、皆溶けて出来たような穴が空いている。



「…すげぇ…。」

「これでクエストは終了。ステータスプレートの裏を見てごらん。」



言われた通りに見てみると、ゼロのプレートにはトロール×1と書かれている。

プレートには討伐した記録が残るようだ。リアンのプレートにはクレセントウルフ×38とあった。

それだけの数を一撃で倒したのか。敵の中央に居た俺は擦りもしていないし、討伐対象のコアを確実に狙ってある。

やっぱりコイツは只者じゃないな。



「このプレートを見せたら、それに見合った経験値を得る事が出来るよ。」



パーティを組むと、そのメンバー全員にクエストの経験値がプラスされる仕組みだ。しかし、クレセントウルフはそんなに強い敵ではないので、大した経験値にはならないと言う。



「だけど、今回は災害級の魔物を討伐しちゃったからね。経験値もかなりもらえるはずだよ。」

「授業でも、こんな危険な目に会う事があるの?」

「いや。ここはエレメントの加護を受けた領域のはずだから、Sクラスがクエストを受けやすいLv.50前後の魔物しかいないはずなんだよ。災害級の魔物は、入って来られない。」



だったら何故こんな所に出没したのだろうか。そもそも、どうして彼女達はこんな所に居たんだ?

初めにマップを確認した時、二人は敵を左右から追い込んでいた。討伐は30匹なのだから、少しずつ討伐していてもその内終えていただろうに。敵を一か所に集めて一気に討伐する作戦だったのだろうか。

それにしてはクロエの武器は刀で、シロナも籠手という物理専用武器だ。二人は何故ここに敵を集めたんだ?



「何か考え事かい?」



気絶したクロエを横抱きにしてリアンが訊ねる。



「さっきは助かった。お前、凄かったんだな。」

「そう?オレは素手でトロールを討伐した、キミの方が凄いと思うけどね。帰ったらレベルが楽しみだよ。」



そうか、このクエストの成果でレベルが上がるかもしれないのか。まぁ、レベル表示が1と決まっている俺達には関係のない話なんだが。

来た時と同じようにエレメントを囲み、元の教室に戻って来る。

祭壇にいる教員に、プレートを提示する。



「!トロールが出たのですか?」

「はい。場所は風の領域、南東の森ヴァルト。トロールは一匹でしたが、現れたその原因は分かりませんでした。」



そう報告をするリアンの印象は、どこか討伐慣れしている感じだ。



「それで…トロールはその、あなたが討伐されたのですか?」



なんだその疑った目は。教師がそんな目で生徒を見るなよ。…まぁ、そんな事は言えないとして。Lv.1が、災害級の魔物を倒したなんて、俺が他人なら信じない。だからこの反応も間違ってはないんだろう。悲しい現実だな。



「オレ達がトロールを瀕死まで追い込み、最後の一撃を彼に委ねました。倒したのは彼なので、問題ないはずです。」

「そうなのですか…それでしたら問題ないです。」



俺が一人で倒したら問題なんだろうか。いちいち腹立つ言い方して来るな。

しかし、リアンは俺達をよく庇ってくれる。Lv.1でSクラスに転入して来た俺達を疑わず、親切に魔法や戦闘方法まで教えてくれて、敵に狙われたら助けてくれた。そして今も、教師が納得行く理由を提示してくれている。

何か企んでいるんだろうか。

…けど、リアンは良い奴な気がする。俺がそう思いたいだけかもしれないが。



「では、皆さんに経験値を付与します。」



ステータスプレートを水晶に翳すと、そこから光が溢れて五つに分かれる。そしてその光達は、俺達一人一人の胸に飛び込んで来た。俺とティアは特に変わった所はなかったが、リアン達はレベルが上がっていた。


[リアン・ミル・インフィニート 17歳

羽人族 Lv.80 エスポワール学園 2年 Sクラス

HP/28420 MP/26900

スキル:魅了、錬金術、調合]


[クロエ・オン・ターナー 17歳

魔人族 Lv.65 エスポワール学園 2年 Sクラス

HP/21041 MP/25025]


[シロナ・ユキ・ユニティア 17歳

擬人族 Lv.63 エスポワール学園 2年 Sクラス

HP/26300 MP/14000]


レベルの上昇、HP、MPは比例している訳ではなく、個人差があるようだ。

でも、三人共確実にレベルアップして強くなった。



「二人は変わらないんだね。」

「おかしいですね…経験値はちゃんと5人分にしたはずなんですが…。」

「なんででしょうねぇ、あはは。」



レベル表示1のバグは、何があっても変わらないようだ。

ティアが困ったように笑っている。こうなったら正直にバグだと言ってしまおうか。



「もしかして…バグ?」

「!」



俺の心を読んだかのように、リアンが呟いた。



「“バグ体質”という特殊スキルを持った人間族を、オレは知ってる。」

「バグ体質?」

「…ユン・トゥーヴァ・ネクロン…アナスタシアの、元国王だよ。」



リアンがその名前を口にした瞬間、クロエや教員は少し呆れた顔でリアンを見た。

まただ。何か違和感を感じる。



「インフィニートくんの冗談はさて置き、本日の授業はここまでです。お疲れ様でした。」

「え、終わりなの?」

「普通のクエストなら、クリアするのにもう少し時間がかかるんだよ。」



たしかに、リアンが手出しせずにクロエとシロナの二人で討伐していたら、もっと時間がかかっただろう。

寧ろ、その二人にレベルを合わせているのだから、彼女達が倒さなければ意味がない。

今回は予定外のトロールが現れたから、リアンも手を出さざるを得なかったんだろう。



「これがSクラスの授業。1日に受けられるクエストは1回まで。」



早く終わると、それだけ自由に動けるって事か。とりあえず、今日はやり残している事もたくさんあるから、その方が助かる。

出来れば装備を整えたり、学園やアリーヤについても情報が欲しい。



「クロエは大丈夫そう?」

「シロが連れてく。またね。」



クエスト中さえ塩対応だったシロナが、今ではニコニコと手を振って去って行く。

やっぱり猫耳娘は可愛いな。だけど、やっぱり態度が変わり過ぎな気がする。



「それじゃ、今日はゆっくり休んで。明日もよろしくね。」



そう言ってリアンも背を向ける。

残された俺達も講堂を後にして、少し廊下を歩き回る事にした。





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