7話
どうやら俺の心配は杞憂だったらしく、軽く深呼吸をする。
斜め前の席の勇徒がこっちを見て何故か誇らしげな顔を向けているが、俺はあえて目を合わせようとはしない事にした。
そしてその分の視線をその雲並雨糸と名乗った転校生の方へ向ける。
その風采は先ほども少し語ったが、フルーシアよりも一回り、具体的には身長は女子の中でも決して高い方ではなく、薄紫色のフレームをした眼鏡がなんとなく落ち着いた印象を与えた。
転校生という看板によってクラスの視線は必然的に雲並雨糸に向けられる。
外面は内面の一番外側。なんて言うがその理屈で言うと雲並雨糸の次の言動はまさにその言葉を体現しており。皆からの視線から逃げるようにして教師にこう発言した。
雲並雨糸「あの……すみません先生……席は……? 」
なんにせよ"普通の転校生"だと分かり俺の気持ちは穏やかだった。
そしてそこからは何事もなく、転校生にとっては初の昼の休み時間が始まる。
転校生の周りに集まるいつものクラスメイト、オドオドしてしまっており少しかわいそうにも思えたが、まあ通過儀礼とでも呼べるだろう。早くクラスに慣れてくれると嬉しい。
そう俺は考えていた。
「嗚呼……かわいいなあ雨糸ちゃん……」
そう、俺は。
俺が色々と喜怒哀楽を脳内で駆け巡らせていた間に田中勇徒は本日一貫して雲並雨糸の容姿の話だけをしていた。
田中勇徒「なあ〜翼ァよぉ、オマエもそう思うだろ? 」
そんなに飢えているのだろうか、同性である俺から見ても軽く引いてしまう。昔から沈黙は肯定と捉える奴だ。勘違いされても嫌なのでハッキリと言っておく
佐藤翼「オマエ女子になら誰にでもそうなのか……? 」
田中勇徒「なんだよ〜ノリが良くないなあ。実際かわいいだろ? 雨糸たん」
佐藤翼「クラスメイトにたん付けはマズくないか? ……いや、実際かわいいとは思うけど……」
田中勇徒「オイおいオイおぉい! もっと素直になってくれよ! 今日は良い1日だなあ! 」
佐藤翼「……キャラが迷走してるぞ勇徒……」
田中勇徒「なんだよおノリが宜しくないぜ!? それでも我が友か? 」
田中勇徒「それとも……」
そう言うと勇徒は一瞬チラッと雲並雨糸以外の方を向く、その先にいる人を見て俺は次に田中勇徒が言うであろうセリフをなんとなく察した。
田中勇徒「やっぱり黄未寺ちゃん一筋かあ? 」




