始まりはとある出来事2
広告は相変わらず。これとか他の方の作品には表示されてないから理由が本当にわからない。
「脳内キーボード入力」
VR技術が導入されて間もない今の時期だからこそ存在しているであろうソレは、ヴァーチャルリアリティが導入される前のゲームでキーボードを使用しチャットしていた人たちのための補助システムだ。身に着けた器具であたかも自分の身体を動かしているかのようにゲームのキャラを動かせるのがVRMMOの売りだが、VR技術が導入される前の操作に慣れ親しんだプレイヤーにはしっくりこない者も居た。
「自転車に乗れるようになるまでに補助輪が必要なように、キーボードでの会話に慣れ親しんだお客様が段階的に今の技術に移行していただけるようにこの『脳内キーボード入力』を設けました」
そう、公式は説明する。このシステムのおかげで今までキーボードでチャットを打っていたプレイヤーはまるで今までのチャットの様に会話することが可能となり、副産物としてボイスチャットでは不可能な記号などの発言が可能なことが発見されて一時期は大騒ぎになったものの、このシステムはプレイヤーたちに受け入れられ、今も愛用者が多数いるのだが。
「問題は、なぜかタイプミスの様なモノまで再現してしまうという点」
これと予測変換機能よるあの女の誤字が私のキャラ名を貶めた。
「何がアーッニスさんだ!」
どこから出現した、「ー」と短い「つ」。二回目のあれはキーボードの文字位置を見るとタイプミスだと思うが、二回続けてやらかすとか、もはや私に対する挑戦だろう。
「くっ」
だが、効果的な復讐をするのであれば、一時の感情に任せて動くのは愚かとしか言いようがない。入念な計画を立てた上で、完ぺきな準備を行った上でなくては何とかの手からも水が漏れる。
「そうだな、出来れば私が全く悪く思われずあの女だけが酷い目に遭う様な感じがいい。今だと、開催中のイベントがらみか。あの女も周回に飛び込んできたということは参加している様だし、キャラの名前は控えてある。キャラクターの検索機能を使えば、探し出すのは難しくない」
探し出してどのような手段で復讐するのかについてはまだ決め手はいないが、こう、行き場のないやるせなさを感じるようなモノが良いと思う。
「偽情報を掴ませて、散々無駄な努力をさせてからネタばらし。私も騙されていたことにして回数は少ないながら同じ様なことをしていれば、あの女も責めるに責められずモヤモヤするに違いない」
うまく行けば私の気も少しは晴れるというモノ。
「うん? そう言えば、良さそうな掲示板の書き込みがあったな……そうそう、『アイテム集めなら、丘陵のクエストがオススメ』、これだ」
この書き込み、日付が先週だったなら間違いではないのだが、今週は報酬と敵の強さが変わっていて今回のイベントとは何の関わりもないクエストに変えられており。
「報酬を確認すれば一度で嘘はバレるが、報酬の確認と受け取りはマイホームで無ければ出来ないからな。周回するつもりなら、いちいちマイホームに戻るのは不便極まりない」
よって、周回した場合、大半のプレイヤーは二ケタ回数のクエストをこなしてから報酬を確認しに行くこととなる。
「その時の、周回が無意味だったと知った時の顔を是非見てみたいところだが、まぁいい。それにしても我ながらなんとえげつない復讐方法を思いつくモノだ。私が私であってクランメンバーやフレンドでなくて良かったとつくづく思う」
逆に言うならそんな私の恨みを買ったあの女はその愚考を後悔しせいぜい呪えばいい。
「楽しみだ。さてと、どうやって徒労のクエストにあの女を誘導するか……そうだな、オンラインかどうかとどのサーバーにいるかはプレイヤー検索で調べられるし、クエストアイテムの納品NPCの側で待っていればいいか」
若干ストーカーっぽいかなと思わなくもないが、これも復讐の為。些細な感傷はゴミ箱にでも捨てておけばいい。
「さぁ、始めよう、復讐を!」
現実側で厳かに告げた私はキャラクターの私を納品NPCの元へと向かわせたのだった。