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契約

作者: 結城亜美

契約




 中小企業の営業マンである柏原祐介は今日も仕事先へ立ち寄ってから喫茶店でサボっていた。

 時刻は午後二時、やや遅くなってしまったがここで昼食をとる事にして大好きなオムライスを頼んだ。


「あとアイスコーヒーもね!先にコーヒー持ってきて!」


 そして、運ばれてきたアイスコーヒーを飲むと祐介はスマホを取り出しツイッターをやり始めた。


「うわ!65件もリツイート来てるよ!そう言えば朝からやってなかったもんな」


 祐介は趣味で小説を書いている。

 その作品の宣伝の為にツイッターをしているのだが、最近奇妙なコメントに悩まされていた。



 私と契約をすれば必ずLOTO7の一等が当たります!


 アカウント名は沙淡。


 一日に何度もこのようなコメントが入ってくる。


「あー、来てるよ、今日もあるよ。何なんだよ、こいつ」


 薄気味が悪いのでずっと無視をし続けているのだがいっこうにやめる気配はないようだ。


「どれ、ひとつリプしてやろうかな?」


 LOTO7の一等が当たる証拠はありますか?



 祐介のコメントにすぐにリプが送られてきた。

 画像付きのリプだ。

 その写真には銀行の一室とみられる場所で山と積まれた一万円札を前に笑顔でVサインをする女の子が映っていた。


「ヤラセじゃねえの?これ?」


 するとまたすぐに次のリプが送られてきた。

 またもや写真付きで今度は中年の男性が笑顔で札束を前に映っている。


 確かによく見ればその男性の背後には大手銀行の名前が書かれている看板が映っていた。


「マジで?もしかして本当に当たってるのかよ!」



 この写真は本物ですか?


 祐介はコメントを返してみた。

 すると返事がきて、どれも本物だからもし信用できないならまだ他の写真を見せると書いてよこした。



 写真はもういいです。

 それで?

 契約とはどんな契約をすればいいのですか?


 祐介がコメントを入れるとすぐに返事が来た。


 あなたの余生が終った時に私にあなたの魂をくれればいいのです。


 あなたは賞金を好きに使って余生を楽しみ寿命がつきた時に私にあなたの魂をくれればいいのです。


「魂?薄気味悪いな!まるで悪魔の契約じゃないか?もしかして!沙淡って……!サタンかよ!嘘だろ!マジかよ!ヤバいよ!こんなのヤバ過ぎるだろ!あれ?でも待てよ……。寿命が尽きるまでは生きられるんだよな……。俺はまだ二十二歳だからあと六十年くらいは生きられるよな……。LOTO7の最高賞金は八億円だ……。八億円あれば一生働かなくてすむし遊びまくれる……」


「はい!オムライスです!」


 思案する祐介の前にオムライスが運ばれてきた。

 祐介はじっとそのオムライスを見つめていた。


「よし!決めた!やる!やってやる!」


 

 契約するにはどうしたらいいのですか?


 祐介はコメントを返した。

 返事はすぐに来た。


 簡単です。

 あなたの本名をDMに入れてください。

 そして、すぐに宝くじ売場に行ってクイックピックで一枚LOTO7を買ってください。


 クイックピックとは機械が勝手に選んだ番号の事だ。


 祐介にもう迷いはなかった。

 D M に本名を書き込み送信するとスマホをしまい、オムライスを急いで掻きこんだ。


 そして、会計を済ませて喫茶店を出ると近くにある宝くじ売場に行き指示通りにくじを買った。

 奇しくも今日は金曜日である。

 LOTO7の抽選は今夜だ。


 祐介は高鳴る心臓の鼓動を押さえながら月曜日を待ち朝九時になると会社へ向かう前に宝くじ売場にやって来た。

 震える手で一枚のくじを差し出すとくじは当選番号が判明する機械に差し込まれた。

 


 ピーポー!ピーポー!ピーポー!

 


 いきなりサイレンが鳴り当選番号の枠に当たり1と出ると賞金八億円と表示された。


「お客さん!一等ですよ!お客さん!一等八億円です!」



 当たった。


 本当に当たった。


「お客さん!すぐに銀行へ行ってください!」


 アタリと記されたくじを突き返しながら売場のおばさんが叫んだ。




 こうして、祐介は見事に八億円を手に入れた。

 そして、会社をすぐに辞め毎日を贅沢三昧に過ごす日々が続いていた。


 しかし、祐介にはひとつ気がかりな事があった。

 それは朝起きると……。


 

 ハッピィバースディトューユー!

 ハッピィバースディトューユー!

 ハッピィバースディ、ディア祐介ー!

 ハッピィバースディトューユー!


 誕生日でもないのに毎朝このメロディーが祐介の頭の中で響き渡るのだ。


「何で毎朝鳴るんだろう?あ!そうか!八億円当たったからおめでとうの歌なんだな!」


 祐介はその朝も頭に鳴り響いた曲に合わせながら自らも鼻唄を歌った。

 メロディーが鳴りはじめて今日で三十日目になる。


 この日は祐介は付き合いだした彼女とドライブへいくために、買ったばかりのポルシェに乗り込んだ。


「さあて、今日も豪快にいっちゃいましょうか!」


 彼女との待ち合わせ場所へ向かい祐介はポルシェを飛ばした。

 大きな交差点に差し掛かった時信号機が黄色になっていたが祐介は構わずポルシェを飛ばした。

 しかし、反対車線から飛ばしてきた大型トラックが祐介の視界を塞ぐ。


「うわぁああああー!」


 大型トラックは祐介のポルシェの横腹を直撃しポルシェは大破した。


 祐介は即死だった。




「はい。魂をひとつ獲得……。ハッピィバースディの歌は今日で三十日。祐介君、あなたは三十年歳をとりましたからね……。寿命はもう尽きました」


 交差点の信号待ちをしていた一人の背の高い男はニヤリと笑うと言葉を続けた。


「次の契約者は誰でしょうねぇ……」


 男はスーツの内ポケットからスマホを取り出した。










「完」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 祐介の日常が微笑ましいですねえ。どこにでもいそうです。 祐介の寿命はもともと短くて、8億円あっても使い切れなかった。というのがオチでしょうか。
[一言] 最後までオチが分かりませんでした。 元々寿命が短い人が狙われたのかって思いながら読み進めたら、強制的に歳をとらされていたとは。 私もロト7にはまっているから旨い話しには気をつけよっと。…
[一言] まさかの詐欺のお話しw
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