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Episode08 三人寄ればモンジュってどちら様ですの?

「皆々様方、わたくしこの度転校してまいりました。花ヶ前凛果(はながさきりんか)と申しますわ。お気軽に、凛果とでも呼んでくださいませね」


 ざわめく教室。いかにもお嬢様といった風貌、仕草にクラスメイト達は震えた。


 ――お前、転校する学校間違えてないか?


 実際にそう思ったかどうかは知る由もないが、とにかく生まれたての子羊のように震えた。凛果は堂々と自己紹介を終えると、その中にふと見覚えのある顔を見つける。


「あーら……? 佳奈? 佳奈じゃありませんこと? うふふ、お久しぶりですわね!」


 教室内がまたもやざわめく。そして佳奈はすべての注目を一瞬で集めてみせた。


『えっと、人違いじゃないですかぁ? 初めましてですよ、花ヶ……前さん、でしたっけ?』


 佳奈は立ち上がりそう答えると再び席につく。一方の凛果は「そうですの」と一言だけ小さく零したのであった。


「井吹さんって花ヶ前さんとお友達だったの~?」

『だからぁ違うってぇ。きっと、私と似てる人がいたんだねぇ~』

「そうなんだね。あ、でもたしかドッペルゲンガーは百八人居て、ダルメシアンと大晦日に鐘を突いて異能バトルを繰り広げるって言うもんね~」

『言わないよ!? てゆーか何か色々混ざってるよぉ!?』


 そして周りのクラスメイトが去っていった後。


「凛果、なんであんたがいるの……」

「あ、あれ。やっぱり知り合いだったの!? いででででで!」


 愛華は驚いて思わず佳奈の両の二の腕を掴もうとするも、即座に右肩を()められる。


「そのとおりですわ。えぇと、愛華さんと言いましたか。こう見えて幼馴染ですのよわたくし達」

「わぉ! 私の知らない佳奈ちゃんの歴史がまた一ページ!」

「知らなくていいわそんなの。さっさと破り捨てろ」


 愛華の肩は尚も極まっていた。それにも関わらず、何でこいつは何事もなく喋れているのだろう。佳奈は次第に彼女への恐怖を覚え始めていた。


「相変わらず口だけは悪いですわね。……で、なんなんですの? あの妙ちくりんな設定のキャラクターは?」


 大きく溜息をつくと、これまでの経緯を渋々ながら説明する佳奈。


「……って感じで成り行き? とりあえず、調子だけ合わせといてよ」

「ふふ、また可笑しな事になっていますのね。ま、安心なさいな。これも幼馴染のよしみ! きちんと最後まで付き合って差し上げましてよ!」


 凛果には昔から変に律儀なところがあった。これもお嬢様故の余裕なのだろうか。


「ところで凛果。あんたも魔法少女なんだって?」

「ええ、えぇ。それはもう。ようやくわたくしの才能が認められたと、喜んでいるところですわ」

「あの怪しげな……黒魔術?もどきの事を言ってる? でもあれ確か通信教育だっただろ。ていうか、魔法少女ってそんなにいいもんじゃないと思うけどな……」

「そうかな? 私は良かったと思うよ。だって佳奈ちゃんと出会えたしね!」

「だそうですわよ? 佳奈は良い友人に巡り会えたようですわね」


 うんうんと凛果は頷いた。


「いや、そこまでは良くない。毎日死んでって思うし今すぐにでも殺したい」


「そんな、ひどい! ううん、ひどくないっ! むしろもっと! 想像の中で何度も私を汚して!」


「まあ。大変に愉快な方のようですわね……」


 凛果は二、三歩後ずさりしていた。


「こいついつもこんなだから、あんまり相手にしなくていいよ」


「ゴクリ……。佳奈ちゃん公認の放置プレイ宣言……心躍る! 閃いた、何しても放置されるなら前から後ろから、揉み揉みし放題なのではないでしょうか……!」


 凛果は更に二、三歩後ずさりしていた。そしてこうも思った。

 これは危険人物に違いない。佳奈の貞操が危険で危なく果てしなくデンジャーであると。そうだ警察を呼ぼう、いやその前に……お勧めする場所がある。


「まあ。一度病院なりへと行かれたほうが、よろしいのではないかしら?」

「こいつはもう手遅れだよ。だから仕留めてやるのが優しさとも言える」

「私ぃ、佳奈病なのでぇ~。キラッ☆」


 バチッ☆


 関節技を諦め、直接打撃に切り替えた佳奈のデコピンがクリーンヒットした。これが思いの外効いているようで、愛華はしゃがみ込み悶絶している。


「勝手にアレンジ入れんな。あとそれ、お前の口から聞くと心底イラッとするな」



「でもあれだね。佳奈ちゃん今日は楽しそうで本当に良かった。最近全然元気なかったし」


 痛みから立ち上がり愛華はそう言った。


「あら、そうでしたの?」

「まあちょっと色々あって……疲れてたのが多分一番かな」


 凛果は少しだけ考えるような素振りをする。


「病み上がりに最適なものがありますわ。よろしければ愛華さんもご一緒に……いえ何でもないですわ」


 と、ある提案をするのであった。



 ケーキ屋は戦場である。

 正しくは、ケーキバイキング一時間二千五百円は戦場である。あるものは日常におけるストレスを発散しに、またあるものはその好奇心を満たしに、またあるものは単純に腹を満足させる為に、このバトルフィールドへとやってくる。


「ちょ、待てよ。何でうちの店なんだよ!」

「あら、ごめんなさい。そうだったんですの? ここが巷で評判のお店だと聞いていたものですから」


 この店、味はいたって普通、シンプル、素材の味を生かしている、基本に忠実であった。そして凜果の言う評判とは、他でもない佳奈のことである。まさか店員自体が人気なのだとは彼女も思うまい。


「まあまあ、いいじゃない。私はここのバイキング結構好きだよ」

「そもそもお前がケーキ食べてるの見たことないんだけど……」

「いやあ、バレましたかぁ。そうだよ、ボクが見てるのは佳奈ちゃんだけだよ! はぁはぁ」

「おっさんか!」

「折角ですし行きますわよ! お二人とも、準備はよろしくて? さあ、いざバイキングですわ!」


 凛果は燃えていた。何故なら、この時のために朝から食事を抜いていたからである。一方佳奈はと言うと、誘ったのだから奢るのも当然ではないだろうか。仕方ない、腹一杯食べてやるから凛果よ奢れ奢れよ凛果、などと都合の良い事を考えていた。ケーキなど貰い物以外は口にしない、井吹佳奈の家計には余裕と言うものがなかった。

 そして愛華は純粋なるストーカーへと進化を遂げていた。

 こうして魔法少女達は店内へと吸い込まれていく。熾烈な戦いの火蓋が、今か今かと切って落とされようとしている。



次回、魔法少女カナ

『人気ケーキ店に迫る足音!真夏の恐怖、生クリームに埋もれたストーカー!』

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