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Episode06 バトルは食事のあとで

「……ご注文は?」

「なーににしようかなぁ。どうしようかなぁ。うーん困った困った。海老ピラフと海老グラタン、どっちにしようか迷うなぁ!」


 なにやら長々と喋りだす男。


「それではお決まりになりましたら、こちらでお呼び下さい」

「いや、もう決まるからまっててよ! うん、そろそろ決まる予感してるから! あぁでもカレーピラフもいいなぁ。あー迷うなぁ!」


 ――バーン。

 テーブルに何かを叩きつける音が店内に木霊(こだま)した。何事かと周りの客たちはこちらを見つめる。


 井吹佳奈(いぶきかな)はウェイトレスである。

この店はアルバイト先のファミリーレストラン、ジョナ村。例によって愛想だけは良い佳奈目当てでやってくる男性客も多く、また真面目な勤務態度と合わせて彼女のこの店への貢献度はかなり高い。働き始めて三ヶ月ほどではあるものの、店長からはバイトリーダーを任されている。

 そして、今日はなぜこんなことになっているのか。


 わざとらしく注文を長引かせている男は、ある意味では佳奈目当ての客である。

「大きな音を立ててごめんなさい(さっさと決めやがれ)、落としちゃいました~(死にたいのか?)

「おう、怖い怖い。ダメじゃないですか、魔法少女とあろうものが死ねとかいっちゃあ」


 男は敵対しているあの悪の組織のリーダーである。

 実はこの男、佳奈がここでアルバイトをしているのを知っていた。さすがに勤務中なら手は出せまいと考えたのだろう、ここぞとばかりに調子に乗るのであった。

 会計をすべて10円でだしてみたり、組織の者を大勢連れてきてドリンクバーのみで大騒ぎしたり、メニューにはない馬刺しソーダを来店毎に頼み続けたりもした。


 いくら悪憎しとは言え、アルバイト先を消し飛ばしてしまっては元も子もない。佳奈としては給料源がなくなるのは、文字通りの死活問題である。そして、最近はというとリーダーと言うのにもそれなりにやりがいを感じつつあるところである。

 よって、店内では手を出せない。奴と外で出くわした時に、原形が残らないくらいに全力で叩き潰せば良い。

 本来は来店などさせたくはないが、やりたい放題を止める手立てはそれ以外にないのだ。


「はーい、かしこまりましたぁ……」


 佳奈の感情を抑えた渾身の接客。

 今は敢えて生かしておいてやる。強い殺意を秘めたそれにその男は気づくはずもなく、この後も調子に乗りに乗る。そして悪意のフルコースをひとしきり楽しむと、無礼千万なる客人は満足して帰っていった。

 そのお会計、実に320円。毎回ワンコイン以内で済ませるのが定番となっていた。


 佳奈はお手洗いを装い店の外の人目につかないゴミ捨て場に行くと、廃棄物の入ったゴミ袋を人目を憚らず蹴りに蹴った。袋が破れてしまっても、その中身が激しく撒き散ってしまったとしても、お構いも容赦も情けも慈悲も無い一方的な虐殺ショーは終わらない。それは見るも無惨なものであった。

 こうして佳奈は大きく溜飲りゅういんを下げると、颯爽と店内へと舞い戻っていく。


 彼女が立ち去ったそこには、元通りの姿となったゴミ袋が一つだけ佇んでいた。

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