消化試合
双方互いに勝ち点は2以上。
この試合を引き分けで終えれば、両者とも晴れてトーナメントへの出場切符を得ることになる。
当然、もとから真面目にやり合うリスクを負うつもりなどない。
別に示し合わしたわけでもなく僕たちは最終ラインでパスを回し続けるが、敵も分かっているとばかりにノロノロと距離を縮めてくるだけ・・・
誰もがこのまま試合は終わることを望んでいるはずだった。。
・・・彼らを除いて。
グランドの傍には試合が無いはずなのにユニフォーム姿で僕らを応援する声。
同じく勝ち点は2。
もし僕たちが相手チームに打ち勝てば、得失点差でトーナメントの出場切符を手にする第三のチーム。
彼らは僕らを応援する。
いや、応援と言うよりは懇願に近い。
点を取ってくれと、全力で戦ってくれと。
だが、どんなに頼まれてもその声には答えられない。
ここで無駄に消耗するよりは、トーナメントの初戦の為に体力を温存する方が何倍も賢い選択だから。
そのまま前半は0:0で終わり、後半に差し迫った。
声は留まる事を知らない。
分かっている。
無名の弱小校がここまで来るのにどれだけの情熱が必要だったか。
でも、だからこそ分かってくれ。
僕たちだってそれに負けないくらいこの大会に懸けていることを。
頭の中でそう言い訳を続けて、僕はサイドにパスを回し続ける。
でも、無意識のうちに体が反応しているのか?
残り10分を迎えたところで、周りの様子がおかしいことに気づく。
最終ラインだけで回していたはずのボールは少しずつ縦にも流れ出し、必要もないのに一対一を仕掛けるプレイヤーが現れた。
皆、葛藤している。
これでいいのかと・・・
次第にパスのスピードは速くなり、縦横無尽に動き始める。
そして、その時が訪れた。
チームメイトが何気なく縦へとロングパスを走らせた時、僕らの中で何かが弾けた。
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結局、僕たちはその試合1:0で勝利した。
応援してくれたチームは僕たちに駆け寄ってきたが、彼らと僕たちは未だ敵同士。
目だけで「決勝で合おう!!」と挨拶を交わした。
そして迎えた決勝戦。
僕らはコートの片隅で彼らを応援する。