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一章 六話 出会い ②

「行かねぇよ。誰があんな何を考えてるのか全く分からない奴のところになんか」

「で、でも。あなたはあの時、クルシュ様に……」

「何を言ってんだよ。確かにあの時連れて行ってくれとは頼んだが、ずっとついて行くなんて一言も言ってないだろ?」

「え? 意味が分かりません。もう少しだけ、詳しく説明してください」


「まだ分からないのか」と肩を竦めて悠斗。


「俺はあの時、クルシュだっけか? そいつに連れて行ってもらわなければ、ここで野垂れ死ぬことはほぼ確定していた。だから、安全な場所までついていくだけついて行こうと思ってただけなんだよ」

「な……なるほど」


 ようやく悠斗の意図に気付いたユリはそう溢した。だが、そこで彼女は彼に対して、変な違和感のようなものを覚えた。


 まだ悠斗と出会って数時間しか経っていないユリが違和感を覚えるほどだ。よほどのものでないと、説明がつかないだろう。


 彼女はその違和感が何なのか激しく気になり、つい口を滑らせた。


「あの……私が言うのも何なんですけど、あなた、気絶した前とどこか、変わりましたか?」

「あぁ? 変わったとこなんて無いだろ?」


 ユリは悠斗の言葉に流されず「いえ! 絶対変わりました!」と言った後、自分の世界へと入り、自分が抱く違和感の正体を探ろうとする。


 しかし、彼女はすぐに自分の世界から現実へと帰還した。何故なら、悠斗に頭をチョップされたからだ。


「……な、何するんですか!」

「いや、別に。ただ、いいところに頭があったから」

「それだけで私の頭を叩いたのですか!」

「そんなわけないだろ。ちゃんと叩いたのにも理由はある」


 ユリは視線で悠斗にその理由を話すことを促す。すると、彼は今までにない真剣な表情で、言葉を発した。


「俺は、どうやらお前のことが好きらしい。よく言うだろ? 好きな人にはちょっかいをかけたくなるって」


 ユリは俯き、プルプルと体を震わせる。数秒後、彼女の動きが止まったかと思うと、いきなり顔を上げて、顔を真っ赤にして、叫んだ。


「す……好きなんて冗談でも言わないでください! 恥ずかしいじゃないですか! あなたみたいにずっと無表情なわけじゃないんですから!」


 叫び終えたユリは、ふと何かに思い至ったようだ。出会ったばかりの悠斗は、無表情でまるで感情がないようだった。でも、今の彼は、少し恥ずかしいのか、頭をポリポリと掻いている。


「そうです……そうですよ! どうして気付かなかったんでしょうか」

「あ? 急にどうした?」

「私、あなたに言いましたよね? どこか変わりましたかって。でも、あなたは変わったとこなんてあるか? と言いました。あなたが言うのだから、私の思い違いだったのかなと思ったんですけど、今、やっと答えに至ったんです!」

「お、おう」


 ユリの勢いに、若干引き気味の悠斗。しかし、彼女は彼の様子など知ったことじゃないと言うように、声高々に言った。


「あなたは、人格そのものが変わってるんですよ! 私、最近知ったんですけど、どうやら人には多数の人格を持つ者がいるんだって。もしかして、あなたもそれなんじゃないかなって」

「惜しいな。お前のその人格そのものがってやつは当たってるんだが、俺は別に多重人格者じゃない」


 悠斗はいじめられていた時、少しずつだが、人格が崩壊していっていた。そして、彼が自殺した日。


 悠斗の幼馴染である奈々子に裏切られたことが人格の崩壊にとどめを刺したのだ。それ故に彼はアルトリアに暴言、暴力を振るったかと思えば、わびたりした。


 そして、ユリに暴力を振るわれた時に、過去に振るわれていた数々の暴力を思い出し、このままでは駄目だと思い、今の悠斗の人格へと変貌したのだ。


「お前だからな? 今の俺にしたのは」

「え? 私?」

「あぁ、お前だ」


 ユリは悠斗に抱く違和感が何なのかが分かり、一段落つこうとしていたのだが、彼が覚えのないことを言ったので、再び彼女は、自分の世界へ入ろうとする。


 だが、悠斗はそれを許さず、ユリにある重要な質問をした。


「お前の首に着いてるの、首輪だよな? ……そういう趣味でもあるのか?」

「そんな趣味、私には無いです。これは……」


 悠斗が自分に同情を多分に含めた視線を送っているのを感じたユリは否定して、首輪の正体を話そうとするが、出来なかった。


 しかし、彼は彼女のそれが何かなど、とうに分かっていた。だが、念のため確認をしていたのだ。


「お前のそれは、奴隷首輪だろ? お前の顔を見りゃ分かる。主人はクルシュだろ?」

「……はい」

「クルシュの奴隷は嫌か?」

「……はい」

「お前、メイドなんだよな?」

「はい」

「なら、さ。クルシュの奴隷なんかやめて、俺のメイドになれよ。メイドになって、俺に尽くせ」


 悠斗の俺のものになれ宣言に、瞳を揺り動かすも、首を横に振るユリ。


「無理です。クルシュ様からは逃げられない。万が一、逃げられたとしても、クルシュ様はどんな手を使ってでも私を捕まえる。そして、あなたを……」


 ユリの震える声に悠斗は、彼女にある提案をした。その提案とは──


「クルシュに強くしてもらい、クルシュ様を殺す? そんな恩を仇で返すような……正気なのですか」

「あぁ。正気だ。俺は一目惚れしたお前を救いたい。もし、お前が遠慮するなら、仕方なくお前を諦める。……どうだ? 乗るか?」

「私は、あなたをボコボコにしたんですよ?」

「俺は人には敏感なんだよ。お前の目を見りゃ、好きで俺をボコったわけじゃないって分かる」

「そ……それでも……」

「私がボコボコにしたことに変わりはないって? そんなこと知るか」

「……」

「そんなにそのことを気にしてるんなら、それがチャラになるくらい、俺に尽くしてくれればいい」


 強引な悠斗の言葉に、ユリは彼になら身を委ねてもいいと思った。だが、クルシュがどれほどの強さなのか分かってる以上、彼をそんな危険な相手と戦わせるわけたくない。


 ユリは悠斗を見た瞬間、ドクンっ! と心が弾むのを感じた。そして、どれだけ拒絶しても彼は何度も何度も自分を口説いてくるだろう。そう思った時には、既に口は動いていた。


「はい……!」


 悠斗はユリの満面の笑みを見て、鼓動が早く、うるさくなっていき、体温が上昇していくのを覚えた。


 そして、彼女の為なら、何だって出来るような気さえしてくる。彼は気分が高まっていくのを感じながら──


「じゃあ、ユリ。行くか。クルシュのところへ」

「……はい!」


 こうして、悠斗とユリの旅は始まった。


 

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