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一章 五話 出会い ①

 月が雲に隠れ、草原を照らす光は無く、闇がこの世を支配していた。その中に一人、ポツリと座っているのは、数時間前にこの世界に転生し、この国の王であるバルタ、そしてクラスメイトである勇気に“無能”呼ばわりされた、轟悠斗、その人であった。


 彼は孤独感から、この先どうするのか、考えることを既に放棄しており、ただ一人、風が揺らす草原の上で座り込んでいる。


 静寂と闇が支配している中、草原を踏みしめる音が悠斗の鼓膜に伝わった。足音は一つ……いや、二つだろうか。


 その足音はこの暗闇の中、一切の迷い無く、悠斗がいる方角に近づいていた。彼はその足音の方へ顔を向ける。


 そこには、顔は見えないが、二人の女性のシルエットがあった。それは足音ともに大きくなっていき、そして──


「あなた、そこで何をしてるのかしら」


 その声は、月が雲から顔を出し、再び草原を照らした直前に発せられた。その為、声の主が誰だか分からないが、彼の目の前で止まった女性のどちらかだろう。


 悠斗は二人の女性を交互に見やり、俯き言った。


「……追い出されたんですよ。王都から」


 ──笑われた。何かが二人のうち、一歩手前に出ている紫紺色の髪の女性──クルシュ・ペナパルトのツボに入ったのか、長い間笑われた。


「追い出されたって……あなた、一体何をしたの?」


 微笑を含めながら言ったクルシュ。俯いた顔を上げ、彼女の顔を見ながら悠斗。


「別に僕が何かをしたわけじゃないんです。ただ……僕が“無能”だったから、追い出されたんです」


 悠斗はそう静かに告げた。それを聞いたクルシュは表情一つ変えずに彼の瞳を覗き込む。


「何ですか?」

「……何もないわ。それじゃあね」

「……」


 そう言ってクルシュは踵を返し、歩き始める。もう一人の黒髪黒瞳の女性──ユリは悠斗に一瞥し、その後をついていった。


 彼はクルシュ達の後ろ姿を見ながら、無意識のうちに口を開いていた。


「……待ってください。僕も連れて行ってください」


 クルシュは歩みを止め、後ろに振り向く。ユリもクルシュと同様に後ろに振り向いた。


「あなたを連れて行って、私に何かメリットがあるの?」

「……」


 悠斗がクルシュについて行っても、彼にはメリットがあっても、彼女には何一つない。


 だから、悠斗は押し黙り、俯いてしまった。クルシュはそんな彼を見て、ユリに命令した。


「ユリ、やりなさい」

「はい」


 ユリはクルシュの『やりなさい』の一言で、操られたように、悠斗の方へ歩み寄ると、彼の顔に蹴りを入れた。


 悠斗は鼻血を出しながら、地面に後頭部をめり込ませた。彼は痛みに耐えながら、体を起こし、意味が分からないと言った表情でクルシュ達の顔を見る。


「……何……で」

「やりなさい」


 次は腹に蹴りを入れられ、悠斗は後ろに倒れこむ。今回の蹴りは相当堪えたのか、蹲る彼にユリは容赦なく、かかと落としを頭に打ち込んだ。


 それで悠斗の意識は刈り取られたが、ユリは彼を仰向けにして、顔、胸、腹を力強く踏みつけ、最後の一撃に腹に拳を入れた。


「ユリ、ご苦労だった」

「……クルシュ様。彼にあそこまでする必要があったのですか? 」


 クルシュはユリに労いの言葉をかける。本来であれば、ユリは立場上その言葉にやり甲斐を感じなければならない。


 だが、ユリは悠斗の方を数秒見て、クルシュに向き直り、反論を口にした。それを聞いたクルシュは、声のトーンを幾分か低くして言った。


「……私に刃向かうな。私に刃向かえば、どうなるか。ユリ、お前には分かるな?」

「……はい」


 クルシュに殺気を向けられたユリは体を震え上がらせ、言葉を発することを忘れるが、すぐにそのことに気づき、応答した。


 後、数秒ユリが応答するのを遅れていれば、クルシュはユリを魔法で殺していただろう。


 クルシュとユリは、主人とメイドという関係であるが、その前に主人と奴隷という関係でもある。その証拠に、ユリの首には首輪が着けられている。


 それに、クルシュはユリの他に、百を超える奴隷を保有しており、ユリ一人殺しても、クルシュにとって、何の問題も無いのだ。


「……先に帰る。ユリは彼を屋敷まで連れて来い」

「分かり……ました」


 クルシュは、ユリを置いて先に転移魔法を使い、自分の屋敷へと帰って行った。残されたユリは恐怖そのものであるクルシュがいなくなったことに安堵し、緊張して固まっていた体が緩んでいくのを覚えた。


 それで、ユリはすぐに悠斗の存在に気付き、急いで彼の側まで行く。膝をついて、すぐに悠斗の容態が良くないことを悟った彼女は、治癒魔法の中で最も簡単な“ヒール”を使って、クルシュの背くことの出来ない命令で、仕方なかったとは言え、自分自身で傷つけた彼の体の損傷(脳内出血、鼻骨骨折、前歯損傷、胸骨骨折、臓器損傷)を一つ一つ治していった。


 悠斗を治癒し終えたユリは、魔力を相当使ったのか、彼の右横に寝転び、眠った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……う」

「起きましたか?」


 悠斗より先に目覚めていたユリは、彼が目を開けて、太陽の眩しさで思わず出た声に気付き、言った。


 悠斗はしばらくの間ボーッと空を眺めていたが、ハッ! と何かを思い出したかのように、体を起こした。


「どうかしましたか?」


 ユリの声にようやく気付いた悠斗は、彼女の方を向き、睨みつけて言った。


「お前、どういうつもりだ? 何故お前がここにいる? あいつはどこだ?」

「だ、駄目です! クルシュ様のところに行っては駄目です!」


 ユリは悠斗がクルシュに連れて行ってくれ発言をしていたことを思い出して、不安になり、彼の手を握ると同時に、声を張り上げて言った。


 だが、ユリの不安は杞憂に終わる。


 

 

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