一章 プロローグ
不定期更新ですが、温かい目で見守ってください。
「……うっ。ど、どうして俺達がこんな雑魚なんかに?」
圧倒的な暴力により、為す術なく、致命傷を与えられた勇者達御一行は、地面に倒れ伏している。
現在、この状況で意識があるのは、地球から異世界に転移して来た勇者達の中でも、最初から“ステータスカンスト”というこれ以上成長出来ない憐れな男二人、女二人の計四人の英雄達。
彼らの目の前には、未だ無傷の邪王が立ち塞がっており、実は既に殺されているのではないかという錯覚を覚えてしまえるほどの途轍もない殺気を撒き散らしている。
その殺気に勇者達は意識を失いかけ、英雄達は失禁した。なんとも無様なことだろうか。
殺気でこのような事態を起こした邪王は、彼らを見下し、嘲笑い、そして──
──闇魔法の最終極点である“リーエル・ウェーラ”を放つ。その瞬間、時空が歪み、空から声が響いた。
「セナ、やれ」
「は、はい! “アンレンチェルング・ウェーラ”!」
セナと呼ばれた銀髪碧眼の少女が放った光魔法の最終極点である“アンレンチェルング・ウェーラ”が“リーエル・ウェーラ”を相殺する。
「よくやった、セナ。さすが俺の相棒と言いふらしてるだけのことはある」
「な、なんで知ってるんですか!」
「教えてもらった」
「誰に!」
「こいつ」
少年は着地ざまに人差し指で後ろを指差しながら言った。
そこには、彼が通っている学園の生徒が三十人ほどおり、その中の一人である金髪巻き巻き少女──ソーナ=フォン=グリアスが「私ですわ!」と主張しているかのように跳ねていた。
「あなたですか! ソーナさん!」
ソーナは生徒の中をかき分けて、セナと少年の間に入る。
「何なんですか! あなたはいつも私の邪魔をして!」
「おい、セナ。落ち着けよ。目の前にいる雑魚が困ってるじゃないか」
セナの頭を軽くチョップした少年は、邪王を見やり言った。邪王は今にも何かしてきそうな雰囲気を醸し出しているが、少年には、困っているように見えているそうだ。
数秒後、少年の右手に鋭い痛みが走る。
「いっ……てぇじゃねえか。チビ」
少年は顔を顰めながら、己の右手を見ると、そこには体長三十センチほどの豆柴のような子犬が噛み付いていた。
「こ、こら! やめなさい、バル!」
「くぅーん」
バルはその声に反応し、直ぐに噛み付くのをやめたが、少年の右手からは血が流れており、噛み跡がびっしり残っていた。
「セナ。ちゃんと躾くらいしておけよ。このチビ、その身なりでもちゃんとした聖獣なんだろ?」
「……うん。ごめんなさい」
主人であるセナが謝っているところを見て、「……くぅーん」と鳴くバル。
そこで颯爽として現れたメイド衣装を着ている黒髪ショートの少女──ユリが少年の右手に初級治癒魔法である“ヒール”を施した。
「ありがとう、ユリ」
「どういたしましてです」
頭を撫でながら感謝を述べられたユリは頰を少し赤らめながらそう言った。そこで、少年の肩を後ろから叩かれる。彼は、後ろを振り向くと、そこには赤髪の少年──バルド・ソナタがいた。
「お前も大変だな」
バルドは少年の周りにいる騒がしい女達を見て言ったが、少年もバルドの周りに群がる女達を見て、「お互い様だろ?」と言った。
その後、少年達は会話を終え、邪王の方を見やる。彼らの手には既に自分の得物が握られており、今すぐ戦闘できるよう、戦闘態勢に入っていた。
だが、そこで英雄の一人である小木沼勇気が口を挟んできた。
「轟だよな? どうしてお前が……こんなところに」
「……みんな! 準備はいいか? こいつは決して倒せない相手じゃない! 俺達が力を合わせれば倒せる」
少年は勇気を無視して、言葉を発し、己の得物である紫紺の剣を肩に掛けている鞘から抜き、邪王に向けた。
「行くぞ、お前ら! 勝って祝杯をあげるぞ!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」」」」
少年達が邪王に向かって走っている中、再び勇気の声が聞こえてくる。
「待て!」
──少年は止まらない。
「待てと言っているだろ!」
──少年は立ち止まらない。
「……待てよ! 轟 悠斗!」
──少年は声を荒げる。
「お前等はそこで見ていろ! お前等が無能だと馬鹿にした俺が……いや、俺達がこいつをぶっ飛ばすところをな!」