4.夢ナンデス
たのしい! ジェットコースター!
――楽しくない。
すごいぞ! アクアツアー みずのたび
――すごくない。
ケンちゃんの! ミラーハウス
――ケンちゃんて誰よ。
てくてくおさんぽ! ドリームキャッスル
――おさんぽなんてしたくない。帰りたい。
くるくるまわるよ メリーゴーラウンド
――誰か止めて、助けて。
レイコもうれしい! かんらんしゃ
――レイコは、ケンちゃんの恋人なの? 疑惑。
アリサは悲鳴をあげそうになって口を押さえた。「ひっ」と、声に出したのは優衣である、後ろに後ずさりアリサの服を引っ張った。
たすケてくレ
ここから出して。出して……。
*
地球からは約3憶光年、僕は宇宙船に乗って、はるばるとやって来たんだ。
もし、いい惑星だったなら、ここに永住しちゃおうか、なんて。大人になった僕は、ワクワクしながら星間をワープした。
故郷にはもちろん、親や兄妹がいるけど、成人したら自立しないといけない決まり。
だから僕は旅に出たんだ。もう大人になったから。仕事をするために。
誰かの、役に立ちたい。誰かを、幸せにしたい。
そうそう音を上げて戻る事がない様に、遠くへ行かなきゃ。自立するために。
僕の故郷は、【スノーバキア】だ。
「なるほど。宇宙から出稼ぎですか」「はい。まあ、そんなもんです」
「【スノーバキア】さんね」「あ、いえ、それは星の名前で」
「履歴書は後で郵送しますね。この住所で間違いありませんか。槍ヶ岳鯖町。地球ですよね?」「はいそうです。アパート借りまして」
「この長所、って所なんですが、幸運をもたらす、って本当ですか」「われわれは、そう言い伝えられております」
「じゃあ採用です。不景気が深刻で」「大変だ、そりゃいけない」
「うちも商売なんでね。無茶しなきゃ、やってけませんよホント」「ご苦労、お察しします」
「ええと、それじゃ早速、明日から来てもらえる?」「もちろんです」
僕は遊園地で働いた。時給は、はじめ760円。何も食べなくても生きていけるんだけど、僕はとにかくやりがいのある仕事に就きたかった。
家賃がいるし、ガスも電気も使う。水だって要るよね、体を洗いたい。
僕に含まれる『幸運のエナジー』は、人のために使いたいな。
園長さんなら、あげてもいい。どうぞ僕を置いて下さい。
そうして僕は、檻の中でゆったりと寛いで、見世物になった。
開園時間中は外に出られないけど、閉園したら、自由に飛びまわっていい。
ある日僕はラーメンが食べたくなって、探しに出かけた。ラーメン何処だ。
気がつけば、夜の繁華街に居たんだ。僕と同じく変わった人達が居る。気持ちよくなる薬だって、そんなの売ってるんだ、へー。
そこで女の子に会った。とても可愛い女の子だった、アケミ、って呼ばれてる。
僕は運命の出会いをしたんだ。そう思ったのは、再会した時だった。
遊園地で働いていたら、アケミちゃんを見かけた。
僕は残念ながら檻の外には出られないから、僕の前を通りすぎていくアケミちゃんを、ただ黙って見ているしかなかった。
せっかく会えたのに、ガッカリだ。アケミちゃんはひとりなのかなぁ。気になってしょうがないよ。
どうしても我慢ができなくて、僕はついに、檻を抜け出してしまった。
アケミちゃんは、ジェットコースターに乗ろうとしていた。
並んでて、僕は声をかけようかどうしようかと、悩んでいた。
だけどそこに、とんでもないやつが現れたんだった。
アクマだ。
あいつ、知ってる。約2憶5千光年、地球から離れている星の住人だ。
何でやつが。学校を卒業したのか、きっとそうだ。
やつらは悪い事を平気でする。だから僕も誰もかも、やつとは関わりたくないんだ。
無視したいけど、それができない。だって、あいつ、何をするつもりだ?
見ていると、あいつ、ジェットコースターに近づいて、笑った。
あ、まずい。
人が、落ちていく。
曲がりくねったコースをジェットコースターがスピード上げて走っていったら、人が、子どもが、落ちた。
そうか、あいつは、固定ベルトをとったんだ。だから席から子どもが落ちた、何てやつだ。
許さない。
僕は飛んで、エナジーを放出した。間に合って。
だけど、助からなかった。
あの子は高い所から落ちて、死んでしまった。
あの子を助けるための幸運のエナジーが、足りない。
もう少しあったら、助けられたのに……。
大丈夫。
僕が、絶対に君を救ってみせる。エナジーを、集めたらいいんだ。
そして集めたエナジーで、君を復活させる。
だから待ってて。必ずここへ戻ってくるから。絶対だよ。
君の死体は、あそこへ保存しておこう。誰にも見られないようにしておくね。だって恥ずかしいかもしれないから。腐ってしまったんじゃ、女の子なのに、かわいそう。
そうだ、ひとりじゃサミシイかもしれないから、仲間を連れてこようか。
た、す、ケ、て、く、レ。これでいいかな。きっと気になって来る。
アクマは心配しないで、そこから出ない限り、やつは入って来られない。
やつは何を考えているのか知らないけど、どうせ気まぐれだ、理由なんか無いに決まっている。
アクマなんて、滅びちゃえばいいのにね。
アケミちゃん、待って。
僕は、アケミちゃんを追いかけて、遊園地を去った。
園長、有給下さい。
そう言えば、よかったのかな?
*
『もともと脳は物事を秩序づけて理解する傾向があるという。何の関連性もないような記憶が浮上してきても、それらを適当に結び合わせて、つじつま合わせをするのだ、って学者が書いてるよ』
藤川くん、藤川くん。わたし、アリサ。
宇宙人が出てくる夢を見たんだけど、わたし、宇宙人と何処かで会った事、あったかなぁ?
ますます謎が深まるばかり。でも何だろ、妙にスッキリした様な。不思議だね?