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迷宮娼婦と町泥棒  作者: 桜ジンタ
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少女達は楽しげに、死者を笑い話のネタにする

 四人は二階へ辿り着き、教室が並ぶ廊下を歩き始める。


 すると、廊下にたむろって雑談に興じている、三人の女生徒達の会話が、四人の耳に入る。


「いい歳したオッサンなのに、オタク臭いコスプレしたまま死ぬとか、マジうけるんですけど」


「死んでまで笑い者にされるとか、有り得ないよねー」


「コスプレしたまま殺されてるんだから、やっぱオタクなんじゃないの? 好きなキャラのコスプレしたまま死ねて、むしろ本望みたいな」


 少女達は楽しげに、死者を笑い話のネタにする。


 犠牲者を出した風目学園高等部の生徒達ですら、事件の余りにも特異な性質のせいか、「月曜日のコスプレイヤー殺し」の犠牲者を、こんな風に笑い者にする事は、珍しくは無い。


 犠牲者を出した学校の生徒ですら、そんな状態なのだから、マスメディアによる興味本位の報道や、ネットでの語られ方などは酷い物だ。


 下世話であるのを自認している顕達ですら、死者を嘲笑する様な、「月曜日のコスプレイヤー殺し」に関する報道や、ネットでの言説に対しては、「反吐が出る」と言い切る程に。


 不愉快そうに半目で一瞥しつつ、少年と顕達は、死者を嘲笑う少女達の傍らを通り過ぎる。


 そして、会話を再開すべく、勇気と如矢の方に目線を戻した二人は、驚きで表情を凍り付かせる。


 二人の目に映ったのは、明らかに怒りが込められた目で、通り過ぎた少女達を睨み付ける、勇気と如矢の表情。


 二人が知る限り、勇気や如矢が見せた事が無い、殺意すら感じる程の怒れる目。


 何故に勇気と如矢が、そこまでの怒りの感情を、目に宿したのかが分からず、少年と顕達は、戸惑いの表情を浮かべる。


 少女達の会話は不愉快ではあったが、少年と顕達には、余りにも怒りが過ぎる様に思えたのだ。


 これまでも色々と、妹の勇気と親友の如矢に対し、引っかかる違和感はあったのだが、少年は触れずにいた。


 でも、流石に今回は見過ごす気にはなれず、意を決して二人に訊ねる。


「――どうかしたのか、お前等? 何か凄い目で睨んでたけど」


 問われた勇気と如矢は、やや焦った感じで、気まずそうに顔を見合わせる。


 そして、何事も無かった風を装い、普段通りの目と表情に戻る。


「何でも無いよ、気にしないで」


 そう言い残すと、勇気は逃げる様に、教室の中に入って行く。


 何時の間にか四人は、勇気と如矢が所属する、二年四組の教室の前まで来ていたのだ。


「少しイラっとしただけだ、ホント何でも無いから、気にするなよ」


 如矢も勇気同様に、そう言い残した上で、教室の中に姿を消す。


 教室の中に入った勇気と如矢は、クラスメート達と挨拶を交し合う……普段通りに。


 はぐらかされた気はしたのだが、勇気と如矢に「何でも無い」と否定されてしまえば、それ以上は少年としても、追求しようが無い。


 具体的な証拠や根拠がある訳でなく、少女達を凄い目に睨んでいた程度の事や、何となく引っかかり続けている違和感が根拠では、二人を問い質したところで、同じ答を返されるだけだろうと、少年は思ったのだ。


 教室の出入口の前で立ち止まり、勇気と如矢の姿を覗いていた少年は、二人の事が気にはなりつつも、この場での追求は無理だと諦め、自分のクラスの教室に向って歩き出す。


「――何でも無い様には、見えなかったがねぇ」


 少年と共に、歩き出した顕達も、ぼそりと呟く。


「ここんとこ、『何か変』なんだよ……あの二人」


 曇った表情で、少年は言葉を続ける。


「何か問題抱え込んで、悩んでるんじゃないかと思ったから、それとなく何度か訊いてはみたんだけど、はぐらかされてばかりだ」


「何が原因か、思い当たる事は?」


 少年は首を横に振った上で、顕達に訊ねる。


「お前んとこには、何か勇気と如矢がトラブってる的な情報、入って無いのか?」


「あの二人は、健全過ぎて面白みが無いくらいに、何も入って来ねぇよ。たまに妬んでるっぽい奴が、捏造もろバレなデマ、広めようとしてたりする程度で」


「そっか……お前が知らないんじゃ、他の奴に訊いても、知らないんだろうな」


「お前のトラブルの情報なら、入って来てるが」


「俺の? 何だよ?」


 自分のトラブルに関する情報が何なのか気になり、少年は顕達に問いかける。


「美化委員会の活動中、『凛々(りんりん)先輩が御堂みどう先輩に、口説かれてましたー』的な情報が……複数の一年女子から」


 顕達の言葉を聞いて、少年は気まずそうに、渋い表情を浮かべる。


「その様子だと、この情報はマジだったみたいだな」


 呆れ顔で、顕達は続ける。


「御堂の奴、まだお前の事、諦めてなかったんだ」


「――俺はノーマルだから、男と付き合う気は全く無いって、あいつには何度も言ってんだけどね」


 げんなりとした表情で、女顔の少年……天城凛々(あまぎりんりん)は、愚痴を吐く。


 一年生の時にクラスメートだった、御堂慕みどうしのという少年に、凛々は何度も交際を申し込まれ、その度に断わっていたのだ。


 二年になってからは、クラスが別になったので、一年の時とは違い、凛々が慕と関わる機会は減った。


 でも、義務である委員会活動で、同じ美化委員になってしまったせいで、今でも無関係という訳ではないのである(ちなみに、勇気も美化委員なので、天城兄妹は区別の為に、美化委員会では名前の方で呼ばれている)。


「御堂も何で、わざわざノンケのお前に、こだわってるんだか?」


 訝しげな口調で、顕達は言葉を続ける。


「報われる訳も無い相手なんて諦めて、同じ性的嗜好の相手を探した方が、幸せになれるだろうに」


「――そうだよな」


 顕達の言葉に同意する、凛々の口調は微妙に弱い。


 報われる訳が無い相手を想い続ける経験が、凛々自身にもあるが故に、諦める方が正しいとは思いながらも、そう出来ない慕の気持ちも、分からないでは無いからだ。


 雑談を交わしながら、廊下を歩き続けてる内に、凛々と顕達は自分達のクラスである、二年一組の教室の前に辿り着く。


 二人が賑やかな朝の教室の中に、足を踏み入れた直後、朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが、風目学園中に鳴り響いた。



    ×    ×    ×






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