あなたが誰かを疑うから
『芸能界に広がる麻薬汚染 アイドルのAも……』
そんな週刊誌の見出しを受けて、ネット上では様々な憶測が書き込まれていた。
あの人気グループの誰それじゃないか、いやグラビアアイドルのアイツだ、待て待て男という可能性もある等々。そういった書き込みをまとめサイトが記事にすると、また別の疑いが書き込まれていく。
捕まったアイツの交友関係を考えればコイツだ、危ない連中との繋がりがある事務所が怪しい、舞台挨拶で目がイッていたあの子に違いない……。
匿名で書き込まれる“アイドルのAは誰か”の予想を見ながら、青年もまた怪しいと思うアイドルの名を書き込んだ。
一ヶ月後、とあるアイドルが麻薬所持により逮捕された。怪しいという書き込みがあったアイドルになる。
逮捕される一週間前には、アイドルAの疑惑を報じた週刊誌が、捕まったアイドルがクロだという記事を書いていた。
「スゲーな、この週刊誌。ここの編集部に行けば、色んなネタがあるんだろうな。誰よりも早く、噂の真相を確かめられるかもしれない」
ゴシップ好きの青年は閃いたとばかりに、その編集部のバイト募集に応募した。
二週間後、青年は編集部で働くことになった。
雑然とした社内の端にある席をあてがわれ、そこで作業するようにとバイト担当に言われる。
席に着くと、バイト担当がパソコンの画面を指して説明を始めた。
「これ、うちの会社でやってるサイトでね、各社の飛ばし記事に関する書き込みを拾い集めて、記事にしているんだ。これが君の仕事だよ」
アイドルAの疑惑の時に見た“まとめサイト”だった。
「どうして、こんなことを? 広告で稼いでるんですか?」
疑問に思って訊いてみる。
「広告収入もあるけど、一番の狙いはターゲットの選定だよ」
「ターゲット?」
「例えば、この“芸能界に広がる麻薬汚染 アイドルのAも……”って記事。これのお陰で、クロに近いアイドルの情報が集まった。ほとんどが使い物にならない情報だが、中にはこれはってものが、あるもんなんだよ」
「そうなんですか……」
「だから、目星を付ける為にやってんのさ。闇雲に探すより効率がいいし、一般人の情報網も馬鹿に出来ないからな。アイツらの方が、俺らよりネタを持ってんだぜ」
そう言ってバイト担当は、青年の肩に手をまわした。
「ちなみに今は、コイツを狙っている。この書き込みをした奴、なかなかの情報通と見た」
バイト担当が褒めたのは、青年の書き込みだった。
色んなネタを持っているのは編集部ではなく、疑いの目を持った一般人だった――