プロローグ
新しいのです。今回のは十数話程度で終わらせます。
春ですが冬が肝なお話になります。
暫くの間、よろしくお願いします。
――ねぇ、もしもあの時に私が『―――』と言えたなら、貴方は私を見てくれたのでしょうか?
それとも、なにも変わらなかったのだろうか。
もう私には何も分からない。
こんなことなら、優しい言葉もいらなかったのに。
期待なんて最初からしなければ良かった。
この胸の痛みを感じることも無かっただろうから。
もっと早く出会えていたなら。
糞みたいな私の世界だって、変えられたかもしれない。
だから、自分で選びたい。
流されて、流れ着いた場所でまともな選択が出来るなんて思わないけど、自分で選んだということに意味があるんだと、私は信じたいのだ。
*・*・*
真白な雪の絨毯に散らばった黒い髪。白く滑らかな肌に六花が触れ溶けていく。
その姿を満月が煌々と照らしていた。
みずぼらしい布切れを身に纏い、少女は白い森の中に倒れていた。
ぼんやりとした意識の中、迫りくる死の影を感じる。
(やだ。死にたくない。)
戦禍など国外のことだと思っていたのに、国境が落とされたという話が広まって直ぐに住んでいた町も、赤く燃えてなくなってしまった。
死に物狂いで燃え盛る町を抜け出した時には、振り返っても家族は誰一人居なかった。優しくて厳しかった両親も、甘えん坊の妹も。
町の外で人買いに捕まって、同じように戦場となった故郷から逃げ出し捕まった人達と励まし合いながら、薄暗くて埃っぽい荷馬車の中でいつ売られるのかと怯えながら生きていた。
一人、また一人と売られて消えていく中、どこかの峠で操作を誤ったのか、荷馬車ごと崖から転げ落ちた。幸いにして落ちた先が川だった為、ぐちゃぐちゃになることはなかった。
ただ、真冬の川に落ちるというのは死を意味する。
川岸に辿り着いて這うようにして森に進入した時、力尽きてしまった。唇は震えて、身体は凍って。凍死するのだろう。
心は冷えきって、身体も雪の中で冷えていく。
食事だってまともなものを与えられずに。
こんなことなら、あのとき家族と一緒に死にたかった。
幸せなまま、終わらせてしまいたかった。
ざわざわと風が葉を揺らして、葉に積もった雪を落とす。
(眠い、なあ……。)
ここがどこかも分からない。知らない国かもしれない。
助けなんて来ない。そんなもの期待していない。
そして少女は、そっと目蓋を閉じた。
眠る寸前に誰かの声が聞こえた声がした。
――大丈夫?
手を伸ばそうとしたけれど、凍りついた身体は動かなかった。
それでも、優しい誰かの温かい腕の中に包まれたような気がして少女は微かに笑んだ。
三日に一回、午前0時更新になります。(予定)
基本的に三日に一回更新ですが、いずれ四日か五日に一回になりそうです。おそらくそうなります。