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霧の中手探りで前を進んでいたらいつの間にか、霧が晴れていた。
目の前には、大きな洋館が1軒。きっと、ここがあの看板にあった死食レストランなのだろう。
「あの……誰かいますか?」
恐る恐るエントランスに足を踏み入れると真っ暗な空間に怪しいロウソクの光がついた。
「お客様ですか?ただ今準備中でしてもう少しでオープンさせますので……おや、人間ですかこれは珍しい」
ロウソクを持っていたのは、黒髪でオールバックのイケメンな男……多分、オープンとか言ってるから従業員なのだろう。イケメンだけど、どこか恐ろしい。
「ようこそ、死食レストランへ」
彼が、お辞儀をしたと同時にお店のライトも同時についた。
「おや、すいませんね光に目が眩んでしまいましたか瞳さん」
「なんで、私の名前を知っているのですか?」
「霧が教えてくれたのですよ」
……意味が分からなかった。というか、この人おかしいよ。
「おや、失礼ですね。私、ライ・ロバートは貴女の味方ですのに」
「どういう意味なのですか?」
「貴女、ここが何処だか分かります?」
「……少なくとも東京よね?」
迷ったと言っても、そんなに歩いた覚えはないし隣県に近い所にいた覚えもない。だから、そう答えたのに目の前の男は首を横にふった。
「ここは、魔界と人間界を繋いでいる道の1つといった所でしょうか」
単語の意味は分からないけど、何となく目の前の人が人間じゃないんだろうなというのが分かってしまった。
「魔界の住人には特殊な能力を持った者がいます。私も、その1人でしてね。その力を使い貴女の手助けをしましょうという話なのですよ復讐したいのでしょ?」
何も言えないでいる私に、目の前の男は続ける。
「と言っても、私が出来るのは復讐した後の手助けですがね。私は、私の1族の者がもつ能力を得られなかった変わりに対象の人物の記憶を多少弄る事が出来るのですよ。それにより、対象者の存在をあるのに無かったことと同じようにできるのですよ。……おや、分かりにくいですか?例えば子供を産んだ人を貴女が殺したとします。私が弄る事が出来るのはこの場合母親だけです。母親の存在は無かったことにされますが、元々あったものを隠している状態なのですから子供は存在してることになるのですよ。子供にとって、母親とは空白になります。いたのは、確かだけど誰も知らない、そんな感じですね。勿論、条件はあります。これを、やると暫く動けなくなるのでね。貴女にもリスクを負って貰わないといけません」
矢継ぎ早に言われたけど、何となく分かってきた。ようは、殺したことすら無かったことにすると言いたいのだろう。
「私は、料理人でもありましてね、作った料理を完食してもらうのが好きなのです」
「……何が言いたいのです?」
「食材は、動植物だけではないのですよ?知ってますか?人間も食材になるのです」
「……私を食材にするつもりなのですか?」
「どうしたら、そうなるのですか」
目の前の男、確かライ何とか名乗った人では無いものは心外だとも言うように大袈裟な動作で頭を抱えながら言った。
「同族を殺すのは、大罪なのですよ。ましてや、貴女は私の手をとり対象の者の存在すら消そうとしているのです。誰が、その対象の者を覚えていなくてはいけないのか、それは貴女です……殺してしまった場合ですがね」
私の手を取り、続けた。
「対象を食す事で、貴女は永遠に対象がいた事を忘れることは無いでしょう」
その事は、貴女を苦しめる枷になるかもしれません。しかし、それは貴女が負うべき罪でもあるのですよ?もしもの話ですがね。
そこまで聞いて確かに、咲を食べてしまったら私を構成する一部になるのだろうと考えた。そう考えると、嫌でも忘れてしまうことは無いのだろうなとも。
「フフフ、もし出した料理を残す事があるならばショックで記憶を中途半端に残してしまいますよ、多分残した分と同じ位の記憶を」
さて、どうします?初めて笑ったその口から覗いたのは、鋭く尖った犬歯。それを、見てたらもうこれ以上の寒気はないだろうと思っていたのにさらに寒気に襲われて返事を出さないといけない気になってしまう。
「わ……私は、」
浮気をしたと言っても智の事が大好きで殺したくなんてないし、咲……ちゃんも、憎いけど一番可愛がっていたのだそう簡単に殺す事なんて出来ない。……なんで、殺す事前提で考えているのだろうか私。多分、ここの雰囲気とライさんに流されているのだと思う。
殺人なんて、犯したくない。そんな、愚かな女に成り下がりたくない。そんな、思いで左足を後ろに動かし遅れて右足を動かした。
ようは、逃げたのだ。
「ご来店ありがとうございました。またのご来店をお待ちしています」
後ろでそんな声が聞こえた。




