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闇に包まれた少女

作者: 中村剛
掲載日:2015/07/18

「おはようございます!」


店のスタッフ梶山が大きな声で挨拶してくる。


「あぁーおはよう。」ダルさ全開でとりあえず挨拶は返しておいた。


昨日は仕事が休みだったので、久しぶりに目覚ましもかけずに寝てしまい夜には全く眠れなくなっていた…結局眠りについたのは外が明るくなってからだった。

かろうじて2時間程寝ることはできたが頭はまだボーッとしている…


店の一番奥にある自分専用の机に腰をおろし、タバコに火をつけた



俺は谷本慎二、渋谷にあるホテヘル【エンジェルローズ】の責任者だ

年は28歳、大学を出て普通にサラリーマンをしていたが刺激のない毎日に嫌気が差して2年程で退職…その後は1年間スロットで食いつないでいたのだが、何となく見つけた求人誌で風俗の仕事に興味を持ちこの店で働く事にしたのだった

それから3年…グループ全5店舗の中で最速、最年少で店長になった



部下の中には年上も多く、俺の事を面白く思っていない奴もいることだろう…自分の後輩、しかも年も若い人間に先を越されたのだから



副店長の鈴木聡もそんな中の一人だったに違いない…

俺よりも2年先輩で、年は確か7歳くらい上だったと思う



パソコンを起動し前日の売上、入客数、出勤人数などを確認しているとその鈴木が俺の方にやってきた…


「昨日なんですが…ラムちゃんが無断欠勤しました、メールしたんですが返信がありません。」


「後アリスちゃんが彼氏にバレたらしく、店を辞めたいと言ってました。」


「それと…本日15時から面接が1件入ってます」


一通り報告を聞いてからまずはラム、アリス、それぞれに自分の名前を入れてメールを送る。


決して出勤の話はせずに、まずはメールを返させるような文章を送っておいた…後は返信を待つだけ、もし来なければ次の手を考える



店長自らがこまめにケアしてあげないと女の子は店に定着しない

時には優しく、時には厳しく、誉める事も、怒る事もする


これが出来るか、出来ないか、それはセンスであり、腕の見せ所だとお世話になった以前のこの店の店長に教えられた


でもどんなに頑張っても女の子には裏切られる…


そんな事をいちいち気にしていても仕方ないのだが、可愛がっていた子

特に指名が取れるような子に辞められた時はやっぱりショックだった



2本目のタバコに火を付けた…



だいぶ頭も冴えてきたので、たまっていた事務仕事に手をつける


11時を過ぎると徐々に客も多くなって来て、スタッフも忙しそうに動き回っていた


休憩も回さなければいけないので、事務仕事を切りの良い所で一端中断して受付に入り客の前に出て接客をした


その間に1時間づつスタッフを休憩にいかせる


全員が休憩から戻って来ると、もう面接の子が来る時間も近くなっていた、これは計算通り


15時になろうとしていた頃、求人専用の電話がなった…


副店長の鈴木が電話にでる、「それではお迎えにいきますので、少しお待ちください。」


「梶山!面接来たからローソンまで迎えに行てっこい!」


鈴木が平のスタッフ梶山に強めの口調で指示を出す

ここが鈴木が店長になれない所でもあるのだが、自分より立場の弱い人間、下の人間には物凄く偉そうで、強気なのだ


社長はそれをしっかり見ている、鈴木は女の子や若いスタッフからの評判もすこぶる悪かった



10分くらいで梶山が女の子を連れて戻って来た


女の子が座った対面に俺も座り、面接シートを書くように伝えて、一旦自席に戻る


第一印象はとにかく地味で暗い、何か影を感じる…そんな印象だった

決して可愛いとは言えない


手が止まったので再び女の子の前に座り、名前を名乗り軽く挨拶をする

しかしその子はずっと下を向いたまま目も合わせようとしない…


一応「よろしくお願いします…」と小さな声で言ったのは聞こえてきた


名前は黒崎友美

面接シートを見ると風俗の経験はないようだ

年は19歳で昼間はコンビニでバイトをしていると書かれている


「どうしてこうゆうお仕事しようと思ったの?」


給料や仕事内容などを一通り説明した後に、この仕事を始めようと思った動機を訪ねてみた

特に未経験の子はどれくらい稼ぎたいのか?を知るためにはこの答えは重要なのだ


「大学に行きたくて、学費を稼ぎたいんです…」


相変わらずうつ向きながら小さな声で言った


俺はこの時点でこの子を不採用にしようと思っていた、ルックスもそうだがそれ以前にこの感じじゃ客とまともに話もできないだろう

そして未経験、男性経験があるのかすら怪しかった…



ここ渋谷【エンジェルローズ】は回りのライバル店に比べても女の子のレベルは高い、それは社長の方針であり他店よりも女の子のバックを高く設定し質の良い女の子を集めていた、もちろん客が払う金額も他店より高い


グループ内でも2番目に売上があるドル箱店、そんな店の責任者がこの子を採用して客からの信用を失う訳にはいかないと思っていた



「大学の学費、親は出してくれないの?」


何となく断る方向に持っていこうと思っての質問だった


「お父さんいないんで、お母さんは学費出せないと思います…」


話を聞いていると、高校はアルバイトをしながら定時制に通っていたらしく学費も自分で払っていたらしい…



かなり訳アリのようだ


そしてだんだんこの子が可哀想になってきてしまった…


情で動いてはいけないは分かっている、あくまでも店の売上になるか、戦力になるか、稼がせる事ができるかで判断しなければならない


しかし俺はこの子を採用してしまった…


完全に情に流された…人間のやる事だから仕方がない、たまにはこうゆう事もあると無理に自分を納得させるしかなかった


付けた名前はキラリ、こんな暗い子には全く合っていないのは分かっている


でもちょっとだけでいいからこの子が明るくなってくれれば…恥ずかしくてそんな事は誰にも言えなかったが俺の思いを少しだけこの名前に入れておいた



「今日からこの店ではキラリちゃんだからね、自分の名前を言うときもキラリって言うんだよ…」


未経験の女の子はこれくらい初歩的な事から説明しなければならない場合もある、この子の場合も例外ではない



「で?いつから働きたい?」


「今日から働きたいです…」


口数は少なく大人しいながらも覚悟だけは感じられる

ここに面接に来るまでも色々と悩んだことだろう…

今も泣きそうなくらい緊張しているのかもしれない…

しかしそんな素振りは見せない強さみたいな物が伝わってきた


「大丈夫だよ、じゃあこれから講習と撮影してそれからお仕事だからね。」


すぐに専属のカメラマンに連絡を取り、撮影の段取りを済ませてスタジオに連れていき、撮影をしている間に事務所に戻って講習に使うホテルを予約し、準備をしておいた


それから1時間も経たないうちにカメラマンに連れられ下を向いたままのキラリが戻ってきた


「すません…なかなか笑ってくれなくて…」


耳元でカメラマンがキラリには聞こえないように言ってきた


「手間かけちゃいましたね…あの子は仕方ないですから気にしないで下さい」


予想通りだったので何とも思わなかった、すぐにキラリを連れてホテルへと向かう


回りの人から見れば俺は援助交際をしているようにでも見られているのだろう…それくらいキラリは幼く見えていた


部屋に入ると、ベットにキラリを座らせて話をした


この仕事での気遣いや、心配り、プレイ以外の部分についての大切さを時間をかけて話した


風俗で働く女の子はこの部分に関して勘違いしている子が多い

ただ客を射精させればばいいと思っている、だから稼げない子はいつまで経ったも稼げない、そして地雷嬢が出来上がる

自分で工夫し、客を心から満足させようとしている子は多少ルックスが悪くてもやはり売れていくのだ



「じゃあこれから実際に教えていくからね」


「…」


キラリは声も出さずにうなずいた…


「じゃあまず服を脱いで」


無言のまま服を脱ぎ始める…


そのまま全裸になった状態で恥ずかしそうに下を向いたまま立っていた


色白で華奢な身体、小さな胸、お世辞にも色気があるとは言えない


見る人によっては中学生でも通用するのではないか?

これはロリ系中○生!で売るしかないかなぁ…


そんな事を考えながらシャワー室へ移動し、体の洗いかたから順番に教えていった


結局なんだかんだで3時間位はかかった、処女ではなかったのでそこはは一安心、最後に客の目を見て話すことプレイ中はもっと声を出す事をキツめに言って事務所へと戻った


その日は1人だけ客がついた…未経験の子が入るといつも予約を入れてくる40代半ばのキモオタ親父


頭はハゲあがり、無精髭を生やした小太りの親父だ


他の子から聞いた話では相当な変態らしく、女の子の体臭を嗅いで喜んでいるらしい


いつもはそんな事はないのだが、キラリがプレイ中の間はずっと心配だった…キモオタ親父に嫌な事を強制されているんじゃないか?無理矢理本番されてるのでは?やはりこれも情なのだろう、常に時計を気にしていた


夜12時になり受付時間が終わった、10分程で給料の清算の為にキラリは事務所に来た


「お仕事大丈夫だった?嫌な事されなかった?」


「大丈夫です…」


「お仕事続けられそう?」


「…」


またキラリは無言で頷く…


そして今日の給料1万2千円を受け取ると、小さな声で「お疲れ様です…」と行って逃げるように帰っていった



次の日からキラリは毎日出勤してきた、朝の10時から、夜24時まで毎日、生理の日以外はほとんど休まない


絶対に遅刻もしないし、途中で帰りたいとも言わない


しかし予想通りあまり稼げてはいなかった、可愛い子がたくさんいる中でキラリは写真でほとんど選ばれないのだ


たまに、ロリ系素人系が好きなマニアな客に選ばれるくらいだったので、他のか子が6万、7万と稼ぐ中でキラリの給料は多くて3万程


エンジェルローズではあり得ないのだが日によっては客が付かずに給料が0円の日もあったくらいだ


それでも文句1つ言わずにオープンからラストまで毎日出勤し続けたのである


たぶん客からの本番強要も断れずに必死に頑張っているはずだ


まぁ本人に聞いた所で何も言わないのだろうが…




キラリが入店して2ヶ月がたった頃、仕事が終わってから行きつけの寿司屋で梶山と二人酒を飲みながら飯を食っていた


梶山が受付でキラリを必死に客にオススメしている事は知っている


俺からは一言もそんな指示は出していないのだが、梶山は心が優しい人間なのだ

文句も言わずに毎日出勤してくるキラリに同情しての行動なのだろう


俺もそんな梶山が好きで可愛がっているし、こうして飯を食いに連れていくのも店のスタッフでは梶山だけだ…



「店長…実はこの前店長が休みの日、鈴木さんがキラリちゃんのこと怒鳴ってたんですよ…」


「一応報告しておいた方がいいかと思って…」


梶山が言うには自分と目も合わさない、口数の少ないキラリにイライラしているような事を鈴木がボソッと言っていたらしいのだ


「そうなんだ…まぁお前から聞いたとは言わない、鈴木には遠回しに俺から言っておくよ、また同じような事があったら教えて」



オープンからラストまで馴れない仕事をしている未経験の19歳の女を怒鳴りつけた鈴木には怒りを覚えたが、まぁキラリにあんな対応をされイライラする鈴木の気持ちも解らなくはなかった



それから更に4ヶ月が経った…


キラリが入店してから半年だ、未だにほとんど休みもせずに出勤し続けている


俺は毎日キラリに話しかけ続けた…何度も何度も無言で頷かれていたがそれでも諦めずに話しかけていた



そして日が経つに連れて徐々に本当に少しづつではあるが、キラリが自分の事を話すようになっていった


エンジェルローズで働いてすぐにコンビニを辞めたこと、妹がいること、コンビニはファミリーマートが好きだということ、待機中には受験のため勉強をしていること


ちょっとづつ、本当にちょっとづつではあるが心を開いてくれているような気がした…


別にキラリに恋愛感情があったわけではない…


ただ自分で大学に行くと決め、この仕事を選び弱音も吐かずに必死になっているキラリに頑張ってほしかったのだ


徐々にではあったが指名客も付きはじめ、稼ぎは増えていった

目立って人気があったわけではないが1日に4万、5万と稼ぐ金額が増えていったのは凄い事だと思う


同時にキラリを採用した自分への自信にもなった



そして入店してから1年半がたった頃、キラリから学費が貯まったので店を辞めて勉強に集中したいという話があった


もちろん引き留めるつもりなど一切ない、俺には何もできないが応援したい気持ちしかなかった


二人で話し、その月の月末を最後の出勤日に決めた



キラリが出勤する最後の日、受付が終了し続々と女の子が帰って行ったがキラリはなかなか事務所に来ない…


スタッフも全て帰り1人事務所に残って待っていたのだが、1時間近くも来ないのだ…最後だから荷物をまとめているのだろうと思ってはいたがそれにしても遅すぎる


電話しようかと思っていたその時キラリが来た…


「荷物まとめてたの?遅かったね…」


「違うんです…店長に話があってみんな帰るの待ってたんです」


もう面接に来た頃のキラリはそこには居なかった、俺の目を見て話し

自分の状況を自分の言葉で伝えてくる


たったそれだけの事が凄く嬉しかった…


「じゃあ最後だし飯でも食いに行くか!」


「何でも好きなもの奢ってあげる、何が食べたい?」


「いいんですか?じゃあ…焼き肉!」


満面の笑みでキラリが言った…



酒を飲んだせいなのか、キラリは最後に色々話してくれた


母親は子供が嫌いでほとんど家にはいない事、妹の食事を朝に作って冷蔵庫に入れてくる事、昔友達の先輩数人にレイプされてからは男性恐怖症だという事など…


今まで誰にも言えずに自分一人で抱え込んでいたのだろう


その歳でそれだけの辛い事があれば、人の目を見て話せなくなるはずだ


でも帰る頃には大学に行ってたくさん勉強したいと笑顔で話していたキラリの顔が凄く可愛く、愛おしく見えた




次の日俺は休みだったし、終電もなかったので近くのラブホテルに入る事にした、別にキラリとHがしたかったわけではなかった


不思議とそうゆう気持ちにはならなかったのだ…


キラリは相当疲れているのだろう…それはそうだ、毎朝早起きして妹の飯の用意までしてきていたのだから


シャワーを浴びてベットに入りしばらくすると、キラリは眠ってしまった…


俺の腕を抱き安心したような寝顔をみているとキラリには絶対に幸せになってほしいと心から思えた


今まで苦労した分、人の何倍も幸せに…


そんな事を思いながら頭を撫でた時、キラリの目から涙が1滴こぼれた…









朝目を覚ますと隣にいたはずのキラリがいない…


ふと枕元を見ると手紙が置いてあった


紙には3行分の文字が書いてある


不器用なキラリなりの精一杯だったのだろう…





「店長、毎日話しかけてくれてありがとうございました。」


「店長の事は一生忘れません。」


「本当に本当にありがとうございました…」







入店してから俺の前で流した初めての涙


この綺麗に光った涙がキラリという名前の本当の意味だったのかもしれない…





完結


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