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人狼村開拓記  作者: やまぐ
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田舎者の初仕事

 

 冒険者となった翌日、ローガは朝早くから冒険者ギルドに向かっていた。

「ふあ~眠い…にしてもギルドってこっちの道でよかったけ?」

 ローガがこんな朝早くにギルドに向かっているのは色々と理由があった。

 

 結局昨日は冒険者登録後ガッデムの家に招待されそこで一晩宿を借りることとなった。(その際に森の中で遭遇したガッデムの娘と再開し再度盛大な悲鳴を上げられた。)

 そこでボディビルのポージングを教わりながらガッデムと冒険者の先輩としてアドバイスを受けていると、話の中でこの町では獣人は珍しくはないが自分のような人狼の先祖返りは非常に珍しくこの町には他にいないこと、自分のビジュアルが普通の人にとってはインパクトが強すぎることなどを知った。

 人通りが多い時間帯に出歩くと要らない騒ぎの種になりかねないので、人通りが少ない朝に冒険者として活動を始めることにしたのだ。

 ちなみに眠そうなのは遅くまでポージングの指導を受けていたこととベッドが体に合わなかったからだ。(彼の村には当然ながらベッドなどはなく、フカフカのベットなどに寝たことはなかったための慣れないベットで寝付けず結局床で寝ることとなった。)


 おぼろげな記憶を頼りにギルドに向かいなんとかたどり着くと早速依頼を受けようとリストを閲覧し始める。

(む~、やはりランク1では受けられる依頼はショボイのばかりだな。仕方ないから適当に薬草集めでもしようか。)

  そう考えて薬草類の採取系の依頼を見ていく。

(お、南の森での採取依頼があるな、内容は食用キノコの採取か…確かガッデムさんが調査依頼を出したのも南の森だったな。ガッデムさんには借りがあるしこの依頼のついでに軽く調べてくるか。)

 ローガは受ける依頼を決めると受付へ向かう。

「採取依頼ですね。現在南の森では大型の魔物が縄張りを移した可能性があり、深部まで行くのは危険ですので注意してください。」

 昨日とは違う受付嬢が若干狼顔にビビりながらも対応する。

 ローガは受付嬢にビビられたことに落ちちこみながら南の森へ向かった。




 南の森に着いたので早速食用キノコを探し始める。

 依頼のキノコはローガも村にいた頃からたまに食べていたキノコであったので、どういう場所に生えやすいかもわかっていた。

(確か水辺にある木の根本に生えやすいんだったな。となるとまずは水辺を探すか。)

  水場を探すために耳に意識を集中しながら森を進む。

(む、微かにこっちから水音が聞こえるな。他にも近くに魔物の気配がするな…数はおそらく五匹と言ったところか、まずは狩って飯にしよう。)

 魔物の気配を捉えたローガは森の中を走り出した。


 ローガが気配を捉えた魔物はアーマーラットたった。

 この魔物は文字通り頭部から背中にかけて鎧のように硬化した皮膚を持ち、ちょこまかと動き回りながら体当たりで攻撃してくる魔物だ。小型の魔物(小型と言っても兎ぐらいの大きさ)でありながら好戦的で常に数匹で群れており、この辺りに生息している魔物にしては珍しく連携を行うため、新人の冒険者殺しとして恐れられている魔物であった。

 

 気配を消しながら音もなく走るという矛盾した芸当をやってのけながら森を進む。

 村で狩人として生活していれは自然と身に付く技術だ。

(だいぶ近付いたな、そろそろ姿が見えてくる距離だ)

 走るのをやめ木々に隠れるようにして移動するとやがて五匹のアーマーラットの群を目視で確認できた。

 何か不穏な空気を感じたのか一匹が後ろ足で立ち上がり辺りを見回している。

(見つけた…こっちにはまだ気づいてないようだな。それなら、まずは奇襲で一匹仕留める。)

 狙いを先ほどから後ろ足で立って警戒している一匹に絞ると姿勢を低くしながら慎重に忍び寄る。

 ある程度近づいたところで警戒していない別のアーマーラットの一匹に一瞬だけ殺気をぶつける。

 群れの仲間に警戒をまかせくつろいでいたところに、突然殺気をぶつけられたアーマーラットはビクッと体を緊張させ一瞬パニックに陥る。

 警戒しているアーマーラットの意識が突然パニック状態になった仲間に向いた一瞬の隙を見逃さず残りの距離を一気に詰めるべく走り出した。

 

 猛烈な勢いで疾駆するローガに気付き慌てて迎撃の姿勢をとろうとするが、後ろ足で立つているいじょう迎撃の姿勢をとるにはどうしてもワンテンポ遅れてしまう。

 そのワンテンポの遅れは歴戦の狩人であるローガを前ではあまりに致命的過ぎた。

 走りこむ勢いをそのままに無防備な喉笛を駆け抜けるようにして爪で切り裂く。

 その一撃であっさりと一匹を仕留めたところでようやく残りの四匹が迎撃の姿勢をとる。

 ローガを囲むようにして四匹が散らばると正面の一匹が、地面を蹴り勢いつけ体を丸め生ける砲弾となり襲い掛かる。それに合わせるように絶妙な時間差を付けて残りの三匹も連撃の体当たりを繰り出す。

 囲んで多方向からの連撃。アーマーラットが新人冒険者殺しと恐れられている所以であるが、ローガはこの連撃受けても冷静だった。

 正面のアーマーラットの体当たりを右手で掴むようにして受け止め、空いている左手で同様に左側から体当たりしてきた一匹掴むと、その場で一回転し回し蹴で残り二匹をまとめて迎撃する。

 蹴り飛ばす方向もちゃんと考慮して近くにあった木の幹にぶつける。

 両手で掴んだ二匹が拘束を逃れようと暴れるが、無視して握力任せに硬化した皮膚ごと握り潰し致命傷を与える。

 蹴り飛ばされた二匹は今頃になって勝てる相手ではない事を理解したのか逃亡を試みる。

 しかし、蹴り飛ばされた影響で三半規管がやられていたのかフラフラとおぼつかない足取りでしか動けずあっさりローガにとどめをさされた。

「よし、飯確保。」

 即席で丈夫そうな木の枝を加工し木の棒を作ると狩りの成果を吊るして(吊るすのもその辺にあった植物の蔓を使った)水場を目指し移動を開始した。

 

 森の中を進むと小さな泉にたどり着く。

「さて、まずは飯だな。」

 手早く薪を集め火を熾すと慣れた手つきでアーマーラットを解体し焼いていく。

 ちなみに、火を熾す道具(火打ち石)と解体用のナイフは村で狩りをしていたころから愛用している品だが、ナイフに関しては獣の骨を加工して作った物で戦闘には使えない。

 前回、魔物を生で食べて騒ぎになったので今回はまともに調理して食べるようだ。

 

 アーマーラットを三匹ペロリとたいらげると依頼の品である食用キノコを探し始める。

 食料に乏しい村育ちであるため食用キノコを探すのは初めてではない。特に問題なくすぐに必要数採取できた。


「さて、これで依頼は達成出来るな。後は晩飯用にもう何匹か魔物を狩って帰るか。」

 誰に聞かせるでもない独り言をつぶやき魔物の気配を探り始める。

 そこで、初めてソレに気が付いた。

(なだ、コイツ……何か妙な気配の魔物がいる。)

 ローガが気配感知を感じることが出来るギリギリの距離にソレはいた。

(何がおかしいのかはわからないが、コイツは絶対何かが変だ。そして、これまた何故かはわからにが……気に入らない。俺はコイツのことが気に入らない。)

 ローガはしばし間思案する。

(さて、どうするか……恐らく気配からしてガッデムさんが言っていた魔物はコイツのことだろう。様子を見てきてもいいが、もし見つかった時は確実に戦闘になるな。)

 自分が気配の主を気に入らないように、この気配の主も自分の事を気に入らない。故に出会ってしまえば確実に殺し合いになる。ローガには何故かそういう確信があった。

 幸い気配の主はローガほど気配の感知に長けていないようでこちらのことにはまだ気づいていないようだった。

 思案している間に事態は進展する。森の入り口の方から冒険者らしき気配が五つ森を進んでいるのを感じた。

(ガッデムさんの依頼を受けた冒険者か?だったら俺が無理して調べることもないし今日のところは情報提供だけして帰るとするか。)

 そう決めると冒険者達と合流すべく歩き出した。




 冒険者達の近くまでくるとわざと大きな音を出しながら近づく。

 下手に気配を消して近づくと話しかけた時に驚かせてしまいトラブルにつながるおそれがあるとガッデムから教わったからだ。

 今回は前回のような血みどろの恰好ではないし(食後に泉で身だしなみを整えた)ギルドカードもあるので魔物と間違われる事ない………と思う。

 音の気付き警戒しているところにゆっくりと姿を現す。

「おい、魔物だ。」

 努力も空しくいち早く気がついた冒険者の一人から魔物認定された。

 一斉に武器を構え牽制し始める冒険者たちに深いため息をつく。

 どうやって誤解を解くか思案していると冒険者の一人が思い出したように声をかける。

「待て、コイツはもしかしたらギルドの受付嬢が言っていた冒険者じゃないのか?」

「いやでもコイツはどう見ても魔物だろう。」

 冒険者達が話し合いをしているところにこれ幸いとローガは話かける。

「そうだ、その人言っているとおり俺は冒険者のローガだ。魔物じゃないから攻撃しないでくれ。」

 ローガが喋ったことでようやく冒険者達が武器を降ろす。

「やはりそうか。依頼を受けるときギルドの受付嬢から人狼族の先祖返りの冒険者が、南の森で採取の依頼を受けているから出会ったときはうっかり攻撃しなようにと言われていてな。」

「そうだったのか。後でお礼を言わないとな。」

「おい、俺達はそんな話聞いてねえぞ。」

「お前達はギルド側の詳しい説明を聞いていなかったではないか。」

「うるさい。そんなのは誰か一人が聞いてりゃいいんだよ。」

「ギルド側の説明を聞かないのはお前達の勝手だが、こちら側に八つ当たりされても迷惑だぞ。」

 なにやら冒険者同士で言い争いが始まった。

 なぜか蚊帳の外に置かれてしまったローガに別の冒険者の一人が話かけてきた。

「すまないね。僕はソーヤ、こっちの女の子はレンそしてあっちで言い争いをしてるのがグレンだ。向こう人はダンさんでグレンと言い争いをしてるのがドムさん。僕たちは普段グレンとレンの三人でパーティーを組んでるんだけど今回は依頼を受けれる最低人数が五人だったからそっち二人と共同で依頼を受ける事にしたんだ。」

「そうなのか。」

「だけどグレンとドムさんはどうにも馬が合わないみたいでね、ご覧の状況になってるんだよ。」

「なんか大変そうだな。ところで、アンタ達はもしかしてガッデムさんの依頼を受けて調査に来てるのか?」

「そうだよ。領主様の依頼は報酬もいいしギルドからの評価もおいしいからね。」

「そうか。なら調査対象の大型魔物はたぶん向こうの方に居ると思うぞ。」

 そう言って先ほど気配を感じた方角を指差す。

「なに、魔物に遭遇したのか?」

 グレンがドムとの会話を放り出し話に加わる。

「いや、直接は会ってない。単に気配を感じただけた。」

「おいおい、そんなヤツの情報が信じられるかよ。だいたいお前はランクはどのくらいだよ。」

 ドムまで話に加わり今度はローガに絡みだす。

「ランク1だけど?」

「はっ、雑魚じゃねえか。そんなヤツの情報なんざ到底信用できねえな。」

「信じないなら別にいいよ。それじゃ俺はもう行から調査頑張ってくれ。」

 ローガとしては無理に信じてもらう必要はない。あっさりと踵を返しその場を去ろうとする。

「待ってくれ。詳しい話を聞きたい。」

 グレンが呼び止めてくる。

「距離は…俺なら30分も走れば着くぐらいだけど、アンタ達だったらたぶん1時間半ぐらい行った所にだな。」

 ローガが詳しい位置を話すとまたドムが絡んでくる。

「おいおい、ランク1のお前がランク4俺達より速いっていうのかよ。さっきからテメエは俺らをなめてるのか?」

「よせ、ローガ殿は人狼族の先祖返りだ。通常の人狼族よりも感覚が鋭いはずだから十分根拠がある情報足り得る。」

 グレンが割って入りドムを諫める。

 聞いてもいないのにソーヤが補足を入れる。

「グレンは実は人虎族のクオーターなんだ。だから獣人族特有の感覚を理解出来るんだよ。」

 話がひと段落したので最後にローガはずっと疑問だった事を聞いてみることにした。

「なあ、さっきから俺のこと先祖返りとか言ってるけどそれって何のことだ?」

 最近ようやく自分の事を客観視出来始めたと思ったが、やはりローガは自分の事をなにも知らないままであった。

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