魔物達の宴
時刻は少しさかのぼる。
ローガはスラムで暴れていた魔物達を殲滅すると次に敵の気配が近い場所、商業区に向かった。
計画性も無く目についた魔物を殴り殺してところにその魔物を討伐しに来たのであろう冒険者達が現れた。
スラムの時と同様に初めは紅く発光するローガに戸惑っていたようだが、冒険者の1人が意を決してローガに話しかけてくる。
「なあ、アンタは俺達と同じでこの騒ぎを何とかしようと立ち上がった冒険者……で、合ってるんだよな?」
「ああ、そうだけど?」
「アンタかなり強いみたいだな。」
冒険者はローガが始末した魔物達の死骸を見ながら確認してくる。ローガの周りにはすでに3体の魔物の死骸があった。
「まあ、この辺りで暴れまわっている魔物に負けない程度にな。」
「それなら悪いけど向こうの方に厄介な魔物がいて苦戦しているようだから加勢に言ってやってくれないか?王国兵たちもようやく動き出したようだし、この辺りに残ってる魔物の掃討は俺達と王国兵で連携すれば何とかなると思うんだ。」
苦戦している他の冒険者達の元へローガが増援として加われば戦況を盛り返せるかもしれない。そう考えた冒険者はローガに提案する。
「別に構わないぞ。どうせ全部殺すつもりだし。」
「助かる。早速で悪いが行ってほしい。」
こうしてローガは冒険者たちと合流し、苦戦している戦域をたらい回しにされることとなった。
ローガが指示された方向へ向かうと刺激臭がするゲル状の蛇が3体暴れ回っていた。
「体が液体みたいんだな。世の中には奇怪な生物もいるもんだな……。」
スライムを見たことがなかったローガは、自分も紅く発光する狼男であり十分奇怪な生物といえることを棚に上げてそう感想を漏らす。
「体が液体なら打撃はあまり効きそうじゃないな。それになんか触るとマズそうな臭いもするし。となると攻撃手段は遠距離攻撃一択になるが俺、遠距離攻撃は飛翔拳ぐらいしか出来ないんだよな……。」
とりあえず攻撃してみるかと飛翔拳を放つ準備をしていると、それよりも先にスライム蛇と戦闘していた冒険者の1人が魔法を放つ。
「くらえっ!ファイヤー・ボム」
火の玉が冒険者の掌から飛びスライム蛇に着弾し小規模の爆発を起こす。しかし爆発の衝撃はゲル状の部分に吸収され弱点のコア部分まで届いていない。ゲル部分が飛び散るが数秒もしないうちに元に戻ってしまう。
「くそっ!やっぱりダメだ、コアまで届かない。複数の魔導士が同時に魔法を放たなければコアを破壊できそうもない。」
「しかし注意を引くことはできる。魔法が使える者が増援に来るまでヤツをここに引きつけておくんだ。」
そんな冒険者達のやり取りを聞きながらローガは1人考察していた。
(俺の飛翔拳は点での攻撃だ。液体の部分ぐらいなら貫通できそうだがそれだとすぐに再生されて効果が無いか。アイツの体内で飛翔拳のエネルギーを爆発させられたら効果的なんだろうけど……。)
飛翔拳は拳から衝撃はを飛ばし離れたものを殴る技術である。要は見えなくて戻ってこないロケットパンチだ。それを液体の魔物に放ったところで体を突き抜けるだけで致命傷にはならない。そこでローガはロケットパンチを何とかしてスライムの体内で爆発させられないかと考えたのだ。
なお、実際にはコア部分にさえ当てるとこが出来たら十分致命傷を与えることができるので飛翔拳でも十分倒せるのだが、ローガはスライムはコアさえ破壊できれば倒せるということを知らなかった。
(内部で爆発……飛翔拳同士をぶつけてみるか。)
ローガは何かをひらめき一番近くにいたポイズンスライムの変異体に向かって両拳で連続して飛翔拳を繰り出す。
飛翔拳の衝撃波が飛ぶスピードは拳を突き出した速さに比例する。その性質を利用し僅かな時間差とスピードの差を付けて放たれた拳はローガの思惑通りスライム蛇の体で丁度交差しぶつかり合って爆ぜポイズンスライムの変異体を爆散させる。
「おっ!中々いい感じに決まったな。」
爆発によりコアを破壊され活動を停止したポイズンスライムの変異体を満足気に見ながらローガは再起程の技を分析する。
「思った通り爆発させられたな。技名は爆発する飛翔拳だから爆翔拳ってところか?」
ここでようやくスライムの変異体の相手をしていた冒険者達がローガの存在に気が付いたようだ。
「……紅い狼?」
突如現れて自分たちが散々苦戦していた魔物を一撃で倒した紅い狼男に冒険者達は困惑する。
だがローガは周りの冒険者達の困惑など一切気にしない。
(何か色々試すのが面白くなってきたな。よし、じゃあ次は今のを足で打ってみるか)
新技の成功に味をしめたローガは今度はパラライズスライムの変異体に向かって続けて新しい技を試すことにする。
鋭く蹴りを二連撃。飛翔拳と同様に不可視の衝撃が飛ぶがコントロールに失敗し二つの衝撃は交差することなくバラバラにパラライズスライムに突き刺さる。
一撃目は鎌首をもたげていたパラライズスライムの首の部分を吹き飛ばし二発目の衝撃が空中に取り残された頭部に命中しコアを破壊する。
「むう……。足でやるとコントロールが難しいな。その分威力と攻撃範囲は上のようだが……。まあ、要練習ってところだな。」
結果的には魔物を倒すことができたが技自体は成功しなかったのでどこか不満げにローガは結果を分析する。
「足でやるのはまた今度だな。別に頭部を吹き飛ばさなくてもあそこに浮いてる丸いを壊せば倒せるみたいだし最後は爪でやってみるか!」
先程の攻撃でスライムの弱点に気づいたローガは最後に残ったアシットスライムに向かって今度は爪で飛翔拳を放ってみることにしたようだ。
爪に闘気を集め振り抜く。爪から飛んだ衝撃波は薄く鋭く集束されており衝撃波というより斬撃波と呼んだ方がいいようなものであった。
その結果、アシットスライムの変異体のコアは見事に両断され六つのスライムだった液体の塊に成り下がり、その背後にあった壁に5本の巨大な爪痕が刻まれることとなった。
「おおっ!思ったよりいい感じになったな!技名は……『気離裂き』いや……『飛気裂き』の方がいいか?」
思い付きで試してみた技であったが予想以上に使えそうな技であったため、ローガは上機嫌になりながら早速技名を考え始める。
一方の周りにいた冒険者や王国兵たちは突然現れて自分達が散々苦戦していた魔物を瞬殺していく紅い狼にド肝を抜かれていた。
「なあ、今の技の名前『気離裂き』と『飛気裂き』どっちがいいと思う?」
そんな周りの様子を全く気にせずマイペースにどっちの技名がいいか周囲の冒険者達の意見を聞こうとし始めるローガ。
当然ながらこの状況でその質問に答えられるものはいなかった。
貴族街。
本来そのエリアは一部の上流階級の者達やその身の回りの世話をする者達のみが足を踏み入れる場所であるが、現在は凶暴化した魔物達が激闘を繰り広げる戦場と化していた。
そう、魔物達が激闘を繰り広げる戦場である。この場所での戦いは冒険者や王国兵VS凶暴化した魔物ではなく魔物同士が争う戦場となっていた。
魔物達が凶暴化した直後は他のエリアと同様に魔物達は好き勝手に暴れまわるだけであったが、しばらくすると何かの気配を察したかのように全ての魔物達が一斉に商業区の方角を振り返りその後、示し会わせたように一斉に共食いを始めたのだ。
魔物達を倒そうとしていた冒険者達、王国兵、貴族に雇われた護衛らは皆、潰し合をしてくれるのならこれ幸いとコレを静観した。
魔物達の数が減ればその分魔物の討伐がやり易くなると判断しての静観であったたが、現在この場にいる者達はその判断を激しく後悔していた。
変化があったのは凶暴化した魔物が争っていた他の凶暴化した魔物を倒しその肉を貪った直後であった。一口食べる毎に凶暴化した魔物の体が音をたてて更なる変異をし始めたのだ。
そして、共食いの争いに勝利した魔物が次々と変異をし始める頃には、戦況はその場にいた者達で太刀打ち出来る範疇を超えたものとなっていた。
その後も結局その場にいたもの達は、最後の一体になるまで魔物達が共食いを繰り返すのをただ見ている事しか出来なかった。
結果、最強にして災厄の魔物の誕生を許すこととなってしまった。
ベースとなった魔物はレッサードラコン。劣等種ではあるが全ての魔物の中で最強と云われているドラコンの一種であり中級から上級の冒険者達でもパーティーを組まねば太刀打ち出来ない魔物である。
共食いにより一層の異常変異を遂げたレッサードラコンは純血種の上位ドラゴンに匹敵するプレッシャーを放っており戦場を絶望が支配する。
「ははっ、もう終わりだ………。」
冒険者の1人がその場にいた全員の心境を代弁するように呟く。
「GURAAAAAAAAA!!!」
レッサードラゴン変異体が蹂躙の幕を開けるように吠える。
そんな中、紅い輝きを放つ何かが猛スピードで死角から疾駆し、
「うるせえぇぇぇぇぇぇ!」
叫び声に何事かと振り向いたレッサードラゴン変異体を殴りつけ物理的に黙らせ、
「意味もなく吠えるな!耳がキーンってなっただろうが!」
ローガが戦場に乱入した。
待っていてくださった方。
大変お待たせしました。
転職やらなんやらで忙しく更新できない日々が続きました。
しかし、完結までの構想はあるのでエタることはないと断言します。
今後も不定期更新となりそうですがお付き合いのほどをよろしくお願いします。




