VSジェイド③
ひとまず一件目の宿屋でのテロを阻止したロイドは一旦バステラルと合流することにした。
「それで、どれぐらいの冒険者たちを巻き込めたんだ?」
「そうだな。だいたい3、40人は扇動出来たと思うぜ。宿屋の6件ぐらいならこれだけいれば事足りるだろう。テロを阻止したら一度王都の中央広場に集まるように言っておいたからみんな集まってるはずだ。」
というわけで王都の中央広場に移動する。
中央広場につくとすでに何人かの冒険者たちが来ておりバステラルが来るのを待っていた。
「遅いぞバステラル。」
集まっていた冒険者の1人がやって来たバステラルに気が付いて声をかけた来る。
「すまん。他に酒場を回ってたんで遅くなった。それで、首尾の方はどうだ?」
「俺たちを誰だと思ってるんだ?この程度のガキのお使いのようなもん失敗するものかよ。〈渡り鳥の止まり木〉でのテロはちゃんと防いできたぜ。」
「〈安楽亭〉もな。」
口々に集まっていた冒険者達が報告してくる。
報告を聞いている間にも宿屋でのテロを阻止した冒険者達は次々と広場に集まって来ていた。
「報告を聞く限りではどこも問題ないみたいだな。7件中すでに6件が阻止に成功している。」
報告をまとめたバステラルが現状をロイドに告げる。
「あと戻ってきてないやつらはどこに向かった連中だ?」
「〈ウサギの雨宿〉に向かった連中だな。」
話しているうちに〈ウサギの雨宿〉へ向かった冒険者達も広場にやって来る。
「おっ、戻って来たな。どうだった?」
「……ダメだった。」
「なにっ!」
バステラルとロイドの間に緊張が走る。
「『蛇神の四肢』の妨害を受けたのか?」
「いや……看板娘のナナちゃんは好きな人がいるって……。嫁には貰ってこれなかったよ……。」
「なんだそんな事か。テロはちゃんと阻止できたんだろうな?」
「そっちは問題ねえよ。しかしバステラルてめぇ、なんだとはなんだ!?こっちは真剣だったんだぞ!」
どうやら宿屋でのテロは全て阻止できたようだ。バステラルが現在進行系で失恋した冒険者に絡まれているが概ね問題なく事態を収拾できたようである。
そんな中、広場に集まっていた1人の冒険者がポツリと口を開く。
「そういえば、貴族街とか裏市とかは確認しなくて良かったのか?」
「ん?」
「ほら、この前貴族街には調教した魔物を売るペットショップが出来ただろ?他にも裏市とかには珍しい魔物の違法な取引とかやってるとこもあるしさ。」
「なん……だと……。」
その言葉を聞きロイドは慌てて時間を確認する。
すでに時刻は8時数十秒前であった。
「マズイぞ……バステラル。ヤツらが同時多発テロを企んでいたとしたら宿屋以外の場所も宿屋と同じ8時に餌を与えるように指示していた可能性は高い。」
その言葉を証明するように遠くで大音響の魔物の咆哮が響き渡る。
「なんだ!今のは!?」
「貴族街の方から聞こえたぞ!」
その咆哮を皮切り王都のあっちこっちで魔物の咆哮が響き始めた。
8時を知らせる鐘の代わりに響いた咆哮。それはこれから始まる狂乱の宴の始まりを告げるものとなった。
ローガは炎と爆発に飲み込まれていた。
しかし、死んでいなかった。それどころかピンピンしていた
(あれ?なぜか全然熱くない。ひょっとして俺もう死んじまったのか!?)
そう思って腕を抓ってみる。普通に痛かった。
(どうやら死んではいないようだな。もしかしてダメージが大きすぎて痛覚がマヒしてるんじゃ……。)
しかし、先程自分を抓った時にしっかり痛かったことを思い出す。
(一体何がどうなってるんだ!?)
自分の体に何が起こっているかを確かめるために体のあっちこっちを調べる。
(別にどこも焼けたり焦げたりはしてないみたいだな。)
再度周りを見渡してみるが一面の炎で赤い。結界に阻まれて行き場を無くした爆風と炎がローガの周りをひたすら焼き尽くしていた。
(そういえば、爆風も感じないな。)
その言葉の通りローガの周囲の物は爆風により蹂躙されているがローガ自身にはなんの影響も与えていなかった。
(ん?なんか体が熱くなってきたような……。)
何が起こっているのか思案しているとローガの体に変化が起こり始める。
良く見るとローガの灰色の毛が毛先の方から紅く染まり始めていた。
(なんじゃこりゃ!?毛の色が変わり始めた!)
その変化は急激に全身に広がりローガの全身の毛は瞬く間に紅く染まっていく。
全身の毛が完全に紅く染まりきった瞬間にローガは体の中で何かが変わったのを自覚した。
(なんか良くわからないが気分が高揚し始めてきた。今ならこの炎も全部喰えそうだ。)
ローガ自身なぜ炎を喰うという発想に至ったのかわからない。しかし、ローガはそれが出来ることを確信していた。
深呼吸するように大きく息を吸う。酸素の代わりに炎を吸い喰らう。瞬く間にローガの周囲を蹂躙していた炎はローガの腹の中に収まった。
「なっ……!何が起こって……!」
炎が消えたことで周囲の視界がクリアになる。ローガは視界の端に驚愕するジェイドを捉えると一気に駆け出す。
この時ローガは高揚感のせいで自覚していなかったが体の傷が全快していた。
駆けるローガは今までに無い程の体の軽さと漲る力を高揚感の中で感じていた。
事態の変化に未だ付いて行けていないジェイドのがら空きの腹に今までの鬱憤を晴らすように拳を叩きこむ。
「ガハッ」
腹部にキツイのをくらいたまらず血を吐きながら吹き飛ぶジェイド。
ローガは反撃の隙を与えず追撃を叩きこむべく吹き飛んだジェイドを追走する。
ジェイドが廃屋の壁に激突したところで追いついたローガはそのまま今度は顔面に拳を見舞う。
ローガの拳はジェイドが背にしていた壁ごとジェイドの顎を粉砕し、そのまま再びジェイドを廃屋の奥へ吹き飛ばす。
吹き飛んだジェイドはそのまま大きな柱に激突する。それが元々廃屋となりガタが来ていた建物に止めを刺してしまったのであろう。廃屋は柱が折れて倒壊をはじめる。生き埋めになるジェイド。
「ヤベッ、やりすぎたかも。」
割と全力で殴ったがまさか廃屋とはいえ倒壊させてしまうとは思っていなかった。その結果にローガは内心冷や汗を流す。
「参ったな……。元々廃屋みたいだったから多少壁を壊してもいいかと思ってたけど全壊は流石にマズイよな……。後でこの廃屋の持ち主に怒られるかも。それにこれじゃちゃんと仕留めたか確認するのがちょいと手間だな。」
敵の息の根はきっちりと止める主義のローガは廃屋を倒壊させてしまったことはとりあえず棚に上げて、瓦礫に埋もれたジェイドが死んだか確認するために瓦礫を掘り返そうとする。
その時どこか遠くで魔物の咆哮が響いた。
その咆哮を聞いた瞬間ローガは敵がいると本能で理解した。
(あの時の蛇や百足とおんなじ感覚。………気に入らねぇ気配が複数、ギャアギャア吠えてる声も耳障りだし……先にあっちを潰して回るか。廃屋をぶっ壊しちまったことは一旦忘れて………。)
ローガの本能があの気に入らな気配の発生源を殺せと訴えかけてくる。元々本能には忠実なローガはもちろんそれに逆らう気はなくジェイドの生死の確認を止めて魔物達を殺して回る事にした。
日が沈み、暗くなった王都の中をローガは紅い残光だけ残し疾駆した。
「バステラル。向こうで元気に吠えてるアレがお前の言っていたテロってゆうわけか?」
魔物の咆哮を聞いた冒険者の1人が代表してバステラルに問う。
「ああ、そうだ。すまない情報不足で完全に防ぐことは出来なかったみたいだ。」
「いや、本来アレは俺達でどうにかしなきゃいけないもののはずだ。お前1人に背負ってもらうすじあいはねぇ。それよりも今はアレをどうするかだ。」
「王国軍の主力は国境近くの砦に散らばって常駐してるから、今王都内にいる兵だけでこの事態を収拾のは難しいんじゃないか?」
「これヤバくないか?逃げた方がいいかも。」
「とにかく被害が大きくなる前に何とかしないと。」
「いや無理だろ。王国軍が何とかするだろうから俺達一般市民は下手なことしないで早く避難したほうがいい。」
冒険者達が口々に意見を言い合う。
冒険者達が騒然とし始めたのを見てバステラルが口を開く。
「おめぇら!今王都は危機に瀕している。止められるのは俺達冒険者だけだ!おめぇらも知ってると思うが俺は正直この国の人間じゃねぇ。だがこの国の冒険者だ!だから俺はこの国の危機に立ち向かう!おめぇらはどうする?尻尾巻いて王都から逃げ出すか?一般市民面して真っ先に避難するか?そうじゃないよな!俺が今日までつきあってきた馬鹿ヤロー共は頭は底抜けに悪いがこんな時にでビビるヤツは1人もいなかったはずだ。そうだろ!」
この煽りを受けて冒険者達は口々に声を上げる。
「あたりめぇだ!」
「そうだそうだ!つうかバステラルおめぇも俺等と同じで頭悪いだろうが。」
うまくたきつけられたようで冒険者達を事態を収拾す方向へ誘導できたようである。
やる気になった索敵系の種族特性を持つ冒険者達が手分けして現在の状況を調べはじめる。
「どうやら、魔物達が暴れてるのは大きく分けて貴族街、商業区、スラムの3ヶ所みたいだ。」
「貴族街の方は貴族達の私兵や用心棒達が魔物の相手をしているみたいだ。善戦はしているみたいだが押されてるみたいだ。」
「商業区の方は……ダメだな。まとも対応出来てない。このままだとマズイぞ。」
「スラムの方は魔物は暴れてるようだが近くには全く人気が無い。流石はスラムの住人だな。危険を察知してとっくに避難しているみたいだ。」
口々に得た情報を報告してくる。
「わかった、とりあえず商業区の対応を最優先にした方がよさそうだな。とりあえず、住民を避難誘導するメンバーとそれまでの時間稼ぎをするメンバーに別れて何人かに行ってもらおう。あとは王都の冒険者達の中でも腕利きを集めて討伐部隊を編成したいところだな。」
こうしてバステラルが指揮を執るかたちで冒険者達も動き始めた。
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