怪奇、辺境の森で踊り狂う狼男をみた!
呆けていても何も始まらないので、3人の後を追うローガ。
もともと身体能力に差があり過ぎるためすぐに追いつく。
(さっきの対応に落ち度はなかったはずだ。ならなぜ逃げだしたんだ?…っそうかそういうことか!)
3人が逃げ出した理由が分かったのかローガは何かに気が付いたようだ。
彼もようやく自分を客観視することが出来たようである。
「ダイジョブ。オレコワクナイ。オレチョウアンゼン。」
なぜか突然カタコトで話始めボディーランゲージで懸命に敵意が無いことをアピールし始めた。
どうやら、田舎特有の訛りのせいで言葉が通じていないと考えたようだ。
ちなみに、ローガの言葉は確かに訛りがあるが意志の疎通が困難なレベルではない。
しかしローガよ、君はやはり今の自分を客観視できていない。
血まみれの口に笑みを貼りつかせ、カタコトでしゃべり魔物の死体を担いだまま2m近い巨体を激しく動かす狼男。
心の弱い者なら気絶しそのまま悪夢を見るレベルである。
「くそっ、グレイハウンドの群れに遭遇した時がらツイてないとは思っていたが極めつけはこれかよ。」
「新種の魔物か?人語を話しているようにも聞こえるが…。」
「なんにしても逃がしてはくれなさそうですね。」
「やるしかないか。二人とも戦闘準備だ。」
やはり3人にはローガの訴えは届かなかったようだ。
各自が武器を構え戦いの火蓋が切って落とされた。
「くそったれがー」
ゴンダがやけくそ気味のに斧で切りかかる。
その後方でワンダが魔法の詠唱を開始した。
イワンはゴンダの攻撃に合わせて追撃の姿勢をとる。
その様子を見てローガもようやく意思の疎通ができていないことを悟ったようだ。
(馬鹿なっ!俺のボディーランゲージが通じないだと。なぜだ…っそうか!魂か!俺のボディーランゲージに魂が足りなかったということか。)
ゴンダとイワンの連撃をあっさりと躱し、頼みの綱のワンダの魔法すら難なく躱したローガはさらに激しくボディーランゲージを開始した。
攻撃をひらひらとかわしながら激しく踊り狂う狼男。さらに激しく動いたことで担いでいた、グレイハウンドの死体から流れた血が次第を全身を染めていき、口もとに不気味な笑みを貼りつかせうわごとのようにひたすら「ダイジョウ、ダイジョウ、オレタチトモダチ」とカタコトで繰り返す。
…その姿はもはや、グレイハウンドを生贄とし気持ちの悪い踊りと不気味な呪文で邪悪な儀式を行う謎の怪物にしか見えない。
懸命に攻撃を繰り出すもかすりもせず、かといって反撃されるわけでもなくただひたすら邪悪な儀式を粛々と行う怪物を相手に3人の顔は次第に疲れと絶望に歪んでいった。
(もっとだ!もっと彼らに俺の魂を伝えるんだ!)
ローガのほうはそんな3人の様子に気づくことなくひたすら邪悪な儀式…ではなくボディーランゲージを続ける。
収拾がつかなくなったこの事態は結局冒険者3人の体力が無くなるまで続いた。
体力が尽き座り込んでしまった3人にローガもようやく気が付きその動きを止める。
(よし、ようやく俺の魂が通じたようだな)
盛大に勘違いしているがようやく話が進みそうである。
「………。」
「………。」
両者の間に沈黙が広がる。
方やローガは魂のボディーランゲージで自分の言いたいことは全て伝わっていると思っており、方や冒険者のほうは、邪悪な儀式が一段落しとうとう自分たちを殺すつもりになったのかと身構えていた。
やがて、沈黙に耐えられなくなったゴンダが僅かに回復した体力と気力を振り絞り再度攻撃を仕掛けようとし、それを見たローガがボディーランゲージを再開しようとする。
もはや無限ループかと思われた事態を解決したのは、疲れと気力がつきたことで一周回って冷静になったワンダの一言であった。
「もしかして貴方しゃべれます?」
「うん。」
こうして、どちらにとっても不毛な時間は終了した。