VSムカデ盗賊団③
「ん?なんか今轢いたか?……まあいか。」
ローガはすでにトップギアで走っておりいまさら確認に戻るのは面倒なのでスルーすることにした。
洞窟の中を走ると程なくしてテントか何かを加工して作ったであろう仕切りが見えてきた。
盗賊団のボスだけあって自室として使う空間のみは外から見えないように工夫していたようだ。
もちろん、所詮布で作られた仕切りなので壁としての役割は果たせるはずもなくローガはあっさりと爪で引き裂くと中に侵入する。
一見すると行き止まりのように見える盗賊のボスが自室として使っていた空間は略奪した机や椅子といった家具や絨毯などの装飾品で飾られていた。
わかっていたことだが中はすっかりもぬけの殻であり、パッと見ただけではどこから逃げたのかはわからないように工夫されていた。
しかし、そんな工夫も普通の冒険者が相手なら多少は時間稼ぎができたであろうが鋭い五感を持つローガ相手には何の意味もない。
ローガの耳は抜け道の入り口から微かに響くドドコルの足音を捉えており音の発生源がどこなのかをすぐに特定した。
(絨毯の下だな。うまい具合に机を配置して入口の上に人が来ないようにしているみたいだけど足音が聞こえてるからバレバレだ。)
ローガは邪魔な机を放り投げると絨毯を引っぺがす。予想通り絨毯の下には人が1人通れるような穴が開いており奥に続いていた。
(明らかに人為的に作られた穴。ここから逃げたとみて間違いないな。にしてもこの穴、ムカデに掘らせたのか?……まあ、どうでもいいか。)
ローガはふと頭をよぎった疑問をあっさりと放棄し追跡を始めた。
ドドコルは追手が抜け道に気づきこちらに迫って来ていることに気づき焦っていた。
(やべぇ、さっきからとんでもねぇ速さで足音が近づいて来やがる。このままじゃ追いつかれる!)
危機的状況の中ドドコルの脳裏をよぎったのはかつての自分の盗賊団を壊滅させた2人の女冒険者の事だった。
逃げ惑う仲間の盗賊たち/悲鳴/喜々とした笑いを浮かべながらハルバートを振り回す女冒険者/女冒険者の笑い声/もう一人の女冒険者から放たれた信じられないような威力の魔法/鳴りやまない轟音/今まで強いと思っていた自分がなにも出来ずただ蹂躙される
それは新たな力を得た今でもドドコルを蝕み続けるトラウマとなった光景のフラッシュバック。
(違う!俺はもうあの頃の俺じゃない!俺は新しい力を手に入れた!)
その光景を振り払うように己の中で何度も繰り返す。
(早く、早く|俺の力(ムカデ達)と合流しないと!)
逃げるため、そして何より自分自身が安心するためにドドコルは抜け道をひた走る。
しかし、ドドコルは全く気づいていながった。あの頃とは違うと繰り返す自分がムカデを操る能力を得た以外に何一つ変わっていない……それどころか|便利な道具(ムカデ達)に頼るあまりむしろ以前よりも弱くなっている事に。
獲物を追うローガはついに目視でその背中を捉えた。
(いた。けどこれはちょっとだけ間に合わなかったか……。)
距離的にはまだ少し離れているがローガの脚力なら瞬時に追いつく事ができる。ではなにが間に合わなかったかというとそれはジャイアントセンチピートとの合流だった。
どうやら盗賊の親玉はジャイアントセンチピート達に命令を出せる距離まで近づいた瞬間に自分の方に来るように命令していたようだ。
近づてきたジャイアントセンチピートに新たに追手の足止めをしろとでも命令したのであろう。盗賊の親玉はジャイアントセンチピートとは合流せずそのまま出口に向かう。
(はっ、躊躇無く足止めのための駒にしたか。これじゃ、命令に従っているムカデ達も浮かばれないな。しかし、舐められたもんだ。たった一匹で足止め出来ると思われてるとはな!)
先ほどから所領本能全開でテンションが上がりまくっているローガはもはや定番となった獰猛な笑みを浮かべながら一気に足止め役のジャイアントセンチピートとの距離を詰める。
すれ違い様に自慢の爪を閃かしジャイアントセンチピートの外殻ごと引き裂き瞬時に絶命させる。
「ヒッ!」
足止め役のジャイアントセンチピートがほとんど何の役にも立たなかった事に気づいた盗賊の親玉は短い悲鳴を上げながら出口に向かった必死に走る。
(遅い。これで終わりだ!)
その背中に追いついたローガは一撃で勝負を決めるべく爪を閃かせようとした。
しかし、不意に僅かに振り返った盗賊の親玉が勝利を確信したような笑みを浮かべていたのを見てとっさに攻撃を中断し走るスピードを緩めた。
直後、このまま進んでいれば自分がいたであろう通路の天井が崩れた。
(殺ったか?)
ようやく抜け道の出口までたどり着いたドドコルは念のため出口付近に放していたジャイアントセンチピート達を呼び寄せながらつい先ほどまで自分が通ってきた通路を振り返る。
通路の出口は途中から天井の崩落によりふさがっており奥の様子を窺うことはできない。
(切り札のコイツがたまたま近くに居たんで助かったぜ。)
ドドコルは抜け道の天井を崩壊させた一匹だけ外殻の色が違うジャイアントセンチピートを見ながら胸をなで下ろしていた。
このジャイアントセンチピートは変異種であった。変異種は通常の魔物の中にごく稀に生まれるもので通常種が持たないような能力に目覚めたいわゆるユニークモンスターである。
このジャイアントセンチピート変異種は魔物でありながら土系統の魔法を使うことができた。(ちなみに、知性高い魔物は魔法を覚えたり出来るが知性が低い蟲型の魔物が魔法を覚える事は通常ではありえないのでこのジャイアントセンチピート変異種は非常にレアな個体である。)
一連の抜け道の崩落劇の真相はこうだ。
ドドコルのジャイアントセンチピートに命令する能力の詳細は、自分を中心に半径20メートルほどが有効射程であり、その範囲内にいるジャイアントセンチピートに対し命令することができた。また、一度命令するとドドコルが止めない限り約一日ほどはその命令を実行させ続けられるというものだった。
もともと、ドドコルはこの能力を使い万が一に備えて数匹のジャイアントセンチピートを抜け道の出口付近で【ここからあまり遠くに行くな。それ以外は自由行動】と命令を出しいた。
必死に抜け道を逃げるドドコルがもうダメだと諦めかけた時、たまたま出口付近に居たジャイアントセンチピートの変異種の存在を感じ取り何とか能力の発動有効範囲まで近づけたドドコルは即座に土魔法で追手が突っ込んでくる場所の天井を崩壊させるように命令した。
結果ギリギリのところで追手を通路の天井の下敷きにすることに成功し何とか逃げおおせたわけである。
「はっ、ざまーみろ。いくら強い冒険者だろうと新たな力を得た俺様の敵じゃねーんだよ。」
自分に言い聞かせるようにそう呟きその場を去ろうとしたドドコルだが、崩落したはずの通路が轟音とともに吹き飛んだのを見て慌てて足を止めた。
モウモウと土煙が立ち上る中、塞がった通路を吹き飛ばした人物が中から悠然と出てくるのを絶句する。
「ずいぶん派手にやってくれたな。軽く、死ぬかと思ったぞ。」
一度は生き埋めになっておきながら余裕そうな様子でそう言った追手を見て無意識のうちにドドコルは呟いていた。
「バケモノか………コイツは?」
狼顔に殺気を漲らせたその姿は確かにバケモノと呼んでも差し支えないような有様だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ちなみに、ドドコルが使った抜け道は例のジャイアントセンチピート変異種の土魔法で作ったものです。
次回も読んでいただければ幸いです。




