ファーストコンタクト
とりあえず山を降り町を目指すローガだが山の麓の森で重大な問題に気付き愕然とする。
(町って何処にあるんだ?)
彼は山から降りたことは一度もなく山以外の場所の地理をまったく把握していなかった。
(まずいな、ここは一体どこなんだ?っとそうだった。ババ様から地図を書いてもらってたんだった。)
荷物から地図を取り出し場所を確認しようとするが、なにやら地図を逆さにしたり角度を変えてみてみたり、はては裏側から地図を見ようとする。
(これ、どうやって見ればいいんだ?)
ローガは地図の見方さえも知らなかった。
ローガはもともとあまり考えるのは得意ではない。
(まあ、何とかなるか。)
地図をしまうと適当に歩き始めた。
しかし、いかに基本的何も考えていないローガでも今回は何も考えずに歩き出したわけではないようである。
(まあ、適当に歩いていれば何かしらの生物の気配がするだろう。人間とかのコミュニケーションが取れそうな者なら町の場所を聞けばいいし、魔物であれば狩って喰う。どっちに転んでも大丈夫。うん、完璧だ。)
訂正、 一般的にはノープランというそれを今後の方針として適当に歩き出しただけであった。
しばらく歩くと複数の生物の気配を感じた。どうやら、2つのグループに分かれて戦っているようだ。
(おっ、ようやく誰か発見!。早速いってみるか。)
ローガは気配に向かって走り始めた。
ところ変わってこちらはローガが感知した気配の源。
そこでは今まさに冒険者と魔物であるグレイハウンド達が熾烈な戦いを繰り広げていた。
冒険者3人に対しグレイハウンドが12匹、数で劣る冒険者たちが劣勢であった。
「ついてねえな、っとあぶねえ!」
冒険者の1人、3人の中で一番体格がいいゴンダが後ろから奇襲を仕掛けてきたグレウハウンドのとびかかりを盾ではじき返しながら悪態をつく。
「確かにクレイハウンドの群れに遭遇するとは運がなかったな。」
同じくの冒険者イワンが剣でグレウハウンドを牽制しながらゴンダの悪態に同意する。
「話してる暇があったら1匹でも多く倒してくださいよ~。」
杖を装備した最後の冒険者ワンダがへっぴり腰で杖を構えて魔法の詠唱を開始する。
ワンダを守るように2人は位置取りグレイハウンドを牽制した。
どうやら、ワンダの魔法で数を減らす作戦のようだ。
ゴンダが敵の攻撃をとめ、イワンが遊撃にまわり、ワンダが魔法で攻撃する。このパーティーの基本戦術のようだ。
あと少しでワンダの魔法が完成するという時にそれは起こった。
グレイハウンド達が一斉に攻撃の手を止めはじかれた様に同じ方向をむいた。
様子がおかしい事に気が付いた3人が訝しんでいると、グレイハウンド達が今度は一斉に逃げ始めた。
「どうしたんだ。まさか今頃になって俺様の強さに気が付いて逃げ出した…ってわけじゃ無いよな。」
グレイハウンドが自分たち有利な状態にもかかわらず獲物を無視して逃げ出だした、明らかに異常な事態にゴンダの軽口にもいつものような覇気がなかった。
「12匹の群れが一斉に逃げ出したんだ。明らかに何かあるってことだろう。」
イワンがグレイハウンド達が逃げ出す前に向いていた方向を警戒しながら応じる。
「グレイハウンドの次は一体何なんですか?もう勘弁してくださいよ~。」
ワンダに至っては既に涙目だ。
一同が警戒を強める中、何かが猛スピードで目の前を通り過ぎた。
3人で警戒していたにも関わらず、あまりに速く通り過ぎた何かに誰も反応すら出来なかった。
3人が何が起こったかわからず呆けていると、今度は逃げたグレイハウンドの悲鳴のような断末魔が聞こえた。
「おいおいおい、マジでいったい何なんだ。これってかなりヤバイんじゃねえか?。」
「ああ、確実に俺たちじゃ手におえない何かが近くにいる。早くこの場を離れよう。」
「異議なしです。とっと逃げましょう。」
3人は素早く方針を決めると撤退を開始した。
3人がその場を離れようとしている事を、3人の前を通り過ぎていった何であるローガは気配が遠ざかっていくことで知覚した。ついさっき狩ったグレイハウンドを担ぎながらつぶやく。
「しまった。軽食確保の前に挨拶ぐらいしといた方がよかったか。まあ、でも全然追いつけるし問題ないか。」
ローガは3人を追って再び走り出した。
町への道を急ぐイワンたちの耳に微かな声が響いた。
「おーい、待ってくれ~。」
「おい、今の聞こえたか?」
「なんか聞こえたような気もするな」
「気のせいじゃないですか?こんな辺鄙な場所にほかに人なんていませんよ。それより先を急ぎましょう。」
「それもそうか。」
気のせいだったと結論付けだ3人の耳に再度声が響いた。
「待って言ってるだろ~。おーい、聞こえないのかー。」
「やっぱり誰かいるみたいだな。」
「そのようですですね。しかし、こんな辺鄙な場所にいったい誰が…。」
3人が声のした方を振り返るとちょうど声の主が木々をかき分けて出てきた。
その姿を見て、3人は絶句する。
どう見ても魔物にしか見えない狼頭の大男が、グレイハウンドの死体を担いですごみのある笑みを浮かべながら手を振りながら近づいてきたからだ。
「「「なんかでたーーー。」」」
3人は叫ぶと一斉に走りだした。
「あっれぇー、なぜか逃げられた。」
ローガは脱兎のごとく走り出した3人を見ながらしばし、呆然とし何がいけなかっのか考えた。
(出来るだけ驚かせないように遠くから声をかけたし、警戒されないように笑顔を心掛けたんだけど何がいけなかったんだ?)
遠くから声をかけ笑顔で近づく。彼なりに気を使ったのであろうが、ローガの口元はグレイハウンドを仕留める時、とどめとして時喉笛に噛みついたためばっちりと血で濡れていた。
血まみれの口元に笑みを浮かべながら魔物の死体を担いで登場する巨体の狼男。3人がいかに冒険者とはいえビビッて逃げ出さない理由はなかった。
しかし、ツッコミ役不在の現状でローガがそのことに気づくことはなかった。