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日常の瑣末

聖女暗躍編の辺り。




本日3度目の「物体X」には、喚くしかない。

「だあああ!!」

くそう、何かがダメなんだ?

何が原因かがさっぱり分からない。

だけど、後ちょっとで完成の気も・・・・・・・。

こんな時に無理やり続けても、「物体X」を量産するだけだ。

「よし、今日はここまで!」

荷物を乱雑にバックに直し込み、扉を開ける。

いつものように立っていたその2は、私の顔を見るなり溜息を吐く。

「止めちゃうの? 折角今日一日平和で終わりそうだったのに?」

失礼な。

私が毎日毎日騒動を起こすみたいに言うんじゃない!

「つーか、今日寒い! なので鬼ごっこする。暇なオッサン達集めて」

「あのね? 今残ってるのは非番と訓練日の・・・・・・・・・はい、分かりました。皆で鬼ごっこね」

嫌そうな顔で、その2は確り私の手を掴んで歩き出す。

「なぜに私も連行?」

「今日は、部屋に篭るって聞いてたから、ロイドは別の仕事してんの。今は俺しかいないの。目離すわけにはいかないんです」

失礼な。

3秒後には迷子になる問題幼児じゃあるまいし。

ここで、その2を撒いた本格鬼ごっこを始めるのも面白そうだが、その2はその1と違って淡々とキレる。

鬼ごっこなんて子供の遊びなのに、魔法武器使用が当たり前になるのだ。

さすがに最初から、ハードモードは遠慮したい。

仕方がないので、その2に連れられるまま皆に声を掛けつつ訓練場に行く。

訓練場では非番や訓練日で剣だのの稽古をしているオッサンがうじゃうじゃ。

「メイが鬼ごっこ希望してるので、今すぐ辺りを片付けて」

その2のやる気のない声に、呻く声や溜息が聞こえる。

ぶつぶつ言いながらでも、動いてくれる皆さんが結構好きです。

ということで、邪魔なもの避けた広い訓練場に大満足。

「今日のルールは、今この訓練場の囲いの中。鬼は私やるんで、本気で逃げろ。心配しなくても魔法もアイテムもナシでやるから。制限時間は、私が疲れるか、皆が捕まるまで。最後まで逃げ切るか、捕まえた逆順の5人以外は、新薬の実験台ね」

「やっぱりそうくるのかよ!!」

「絶対、逃げ切ってやる!」

その心意気はありがたいんだがねぇ。

殺気でも撒き散らすように剣を抜く、槍を構えるのは、鬼ごっことしておかしいだろうがっ!!

「武器持つなや。5歳児相手に物騒でしょっ」

「「「「「「「「「「お前が言うな!」」」」」」」」」」

失礼な。

そっちがそうくるならもういいもん!

「んじゃ、開始!」

見事な大音響に声を被せつつ、手近なオッサンに蹴りを入れようとして逃げられた。

「っ!」

転がるようにして体制を崩したその姿に腕を伸ばし足を伸ばし、追撃の手は緩めない。

「ずるいぞ!!!」

「そんなん知りませーん」

逃げ惑う中年親父達。

見た目には大変暑苦しい鬼ごっこだが、雪がチラつくこの季節には、大変心身暖まるハートウォーミングな遊びなのだ。

多分。




残りは2人。

いつもやる気はないくせに、妙に負けず嫌いなところがあるその2に見習い君が残っていた。

見習い君は若さか?

なんて思いつつ、標的を確認。

その2は卑怯にも、武器ならぬ盾持っての逃走。

そんなんじゃ、体力削ってイイ的と思いきや、こっちの攻撃を全部盾で跳ね返してくるので、上手く攻撃が決まらない。

見習い君は、まだ小柄ですばしっこく反射神経がいいのか、ギリギリ避け続けている。

その2人が更に卑怯なことに、手を組んで連携取り出したので、上手く攻撃をいなされてしまうのだ。

つーか、鬼ごっこで石投げるとか卑怯だと思う!

「子供相手に石投げ攻撃とかおかしい!!」

「跳び蹴りかます幼児に言われても」

今も、伸ばした腕を盾ではじかれ、その後ろから小石が飛んできた。

その小石を避けて動こうとすれば、進路を盾で塞がれる。

くそうっ。

全部、動き読まれてるし。

疲れたというより、手詰まりで飽きてきた。

もうギブアップしようかなと思った時、すっごい速さで演習場を突っ切るルークの姿が見える。

「あれ、何?」

「さあ」

その2の気の抜けた声に、もしや・・・と考えてしまう、おばあちゃんとハンナさん。

「私これでギブ! ルーク追いかけるから」

色々へたばってるおっさん連中は無視して、ルークが走っていった正面玄関に向かえば、ルークが誰かとギャンギャン言い合っていた。

「だから、今は警備隊敷地内に、関係者以外は立ち入り禁止だ!」

「なんでよ!? 今までは入れてたじゃない!!」

「今は厳戒態勢で」

「私はこの警備隊長の娘よ! 十分関係者でしょ!!」

「身内ってだけで、特別扱いは出来ねーんだよ! 帰れ」

「嫌よ!!」

「ばあちゃんに頼まれた荷物は渡しとくから」

「嫌ったら嫌!!」

「いい加減にしろよ!!」

「なんで、私が犯罪者みたいに締め出されるのよ!!」

「だから今は!!」

「今は今はっていつまでよ!? お父さんもお兄ちゃんも全然帰ってこないじゃない!!」

「だから、今は忙しくて」

「忙しいって何!? 今は特別物騒な事件なんて起きてないじゃない! スラムの犯罪組織縮小されたって、皆話してたよ!? なんで、そんなに忙しいのよ!!」

「だから」

「どうせ、あの偽聖女の我が儘なんでしょ! 知ってるんだから! 対した力もないくせに、偉そうに振舞って、やりたい放題で暴れてる乱暴者だって! 手が付けられない悪党だって!!」

「いや、だからっ」

「何が聖女よ!? 誰一人治したことない癖に!! どうせおばあちゃんの怪我だって、魔法じゃなくて特別な薬でも使ったんでしょ! 有名な話だもん! 黒の閃光が持つ回復薬は神秘の薬で、その薬をギルドに降ろしてるのも彼だって!! その薬を騙し取って持ってただけなんでしょ!? 皆騙されてるって、警備隊、今、すっごく馬鹿にされてるんだからっ!!!」

へえぇ、そんな話になってたんだ・・・・・・。

「もおおおっ、最低! 誰も、その我が儘馬鹿ガキに何にも言えないってんなら、私が言ってやるわよ! 調子に乗るな! 勘違いしてないで、さっさと出て行けって!!!」

「だからっ!」

うーん。

言われたい放題だな。

兄弟喧嘩に家庭不和。

その原因の元と思われる人物は、噂を聞く限り、悪人としか思えない所業。

確かに、まあ、嫌われるのも仕方がなかろう。

荷物も揃ってるし・・・・・。

「よし、私、このまま出て行くよ」

その2に振り返って言えば、ものすごく嫌そうな顔をされた。

「止めれ。お願いだから止めて。ソニアちゃんは奥さんに似て、思い込んだら一直線なところがあるだけだから」

その2の情けない言葉に首を振る。

「いや、何一つ間違ってないじゃん。私の所為で家族バラバラになるってんなら仕方ないでしょ」

言われてることに、何一つ間違い・・・・・・・おばあちゃんの怪我はちゃんと治したけど、それ以外は概ね正しい。

「いやいや。そうじゃないから。ルークはお袋さんと婆様に頭上がんない上に、口から生まれてきたような妹の口撃が嫌で、休みでも彼女もいないくせに、家に帰らないだけ。隊長は普通に家に顔出してるよ。ソニアちゃんのアルバイトと、タイミング悪く重なってるだけで」

へえぇ、人様の家のことに詳しいじゃんとその2を見ていたら、いつの間にか静かになっていた。

「なんで、お前がいるんだよ・・・・・」

そしてルークは頭を抱えて唸っている。

今にも泣きそうな顔で。

「走ってくルークが見えたから?」

「なんで、こんな時ばっかタイミングイイんだよ・・・」

なぜにそんなに嫌そうかな?

そんな暢気な会話に割り込む、目を血走らせた、ソバカス浮かせたルークそっくりな少女。

間違いなく、どこをどう見ても兄妹だ。

「もしかして、アンタが生意気な聖女語った糞ガキ?」

見事なお言葉の悪さだ。

一応貴族の端くれだろうに、見事なまでの下町仕様。

顔は、ルークの妹だけあって、結構可愛いんだけど・・・・・・相容れる要素が全くない。

ふんっと鼻を鳴らして、胸の前で腕組んで見下ろされても、だ。

「やっぱり、思った通りじゃない! どこに聖女らしさがあるって? 女にすら見えない、不細工な糞ガキ。その上生意気そうで、頭も悪そう。どうせ、回復術なんて名前だけで、対した事出来ないんでしょう? 勘違いしてんじゃないわよ! さっさと出て行きなさいよ」

「ソニア!!」

ルークの怒鳴りにも、つんと顎を突き出して胸を張るその姿には、怒鳴られて反省する姿はない。

自分は間違っていない。

正しいことをしたんだとばかりの堂々とした態度。

まあ、気の強い事で。

人の事は言えんけど。

「うん、分かった。出て行くから、門番、開けて」

「「「「メイ!!」」」」

なんででしょうねぇ?

おじさん達の方が大騒ぎ。

そのおじさん達の慌てる態度に、言い出したルークの妹の方が慌てたように目を泳がせる。

「はっ、今更しおらしい振りしてもっ」

「ルーク、王様の弟と隊長とおばあちゃんにはきっちり、そこの娘さんに散々ぼろ糞言われて追い出されたって、報告宜しく」

「なっ! 言いつける気!?」

目をむいて怒るとか、ちょっと勝手過ぎやしないかね?

「言いつけられて困ることなら、最初から言わなきゃイイのに」

「なっ!! なんなのよ、アンタ!!」

質問の意図がさっぱり分からない上に、仲良く質疑応答する関係でもないし。

「初対面のヒステリーババアに答える義務ないもん」

「ババアって!!」

おおぉぉっ、キンキン煩い声ですこと。

「私からすれば、立派なババアでしょ? そんな、状況理解も出来ないような、自分の言ったことに責任も持てないような、自分の頭の悪さが全く分かってない分、本当の年寄りより尚質が悪い、歩く騒音」

「なんですって!!?」

真っ赤な顔で、今にも倒れそうだよね。

可愛い顔が台無し。

「なんで、人って真実突きつけると腹立てるんだろう?」

「ソニア!」

「「「メイ!!」」」

なんで、私を止める人の方が人数多いのか?

その2に口押さえて抱き上げられ、檻握って威嚇するゴリラのように、真っ赤な顔して唸る少女をルークが睨む。

「ソニア、とにかく帰れ」

「だからなんで!!」

「今日の事は全て、お前が悪い。メイの言った通り、全て報告する。親父の説教で済むと思うなよ?」

ルークってば、ちゃんとお兄ちゃんしてんじゃん。

妹のコト嫌いみたいなこと言ってたくせに。

「なっ! お兄ちゃんまで!!」

「ソニア! 今は帰れ!!」

びしっと怒鳴るルークに、真っ赤な顔で涙を一杯溜めた妹さん。

完全に、私が悪者だ。

もう大丈夫だと判断したんだろう。

その2は口を押さえていた手を外し、身体も下ろした。

なので、ついつい、口をついて言葉がポロリと出てしまったのだ。

不可抗力。

「うわぁ、都合悪くなったら、泣いてダンマリとか感じ悪ぅ」

「「「メイ!」」」

オッサン達の咎める声に、自分でも仕舞ったと思った。

だけど、出てしまった言葉は戻らない。

思ったこと垂れ流しは、さすがにいかんと。

「な・・・・・何よっ! 何よ何よ、何よ!! 皆最低!!!」

そういってポロポロ大泣きで駆け出す少女。

うん、この微妙な空気、完全に私が悪者ですよね?

その自覚はあります。

言われてることはもっともで、言い返したことはもっともだ。

確かに、絶対相容れないだろう嫌いなタイプの女の子。

けど、まだこっちの世界でも未成年確実の少女の揚げ足とって追い詰めるのは、さすがにやりすぎだ。

それも、お兄ちゃんの前で、見知ったオッサン達の前で叩き潰すとか・・・・・・。

「本当に、出て行こうか?」

「メイ!」

その2の手がまた私の口を押さえて抱き上げる。

黙って大人しくしてろと?

まあ、気持ちは分かるが。

そんな微妙な空気の中、こっちを見たルークは深々と頭を下げる。

「妹が悪かった! お願いだから、出て行くとかは言わないでくれ!」

えっと、いつになく真剣なルークの姿に、私の方が反応に困る・・・・・・そう焦っていた時、一際大きな叫び声が。

「きゃあああああああああ!!」

あれ?

ルークの妹の声じゃね?

そう思っていたら、その辺で農作業でもしてきましたって感じのオッサンが2人。

そのうちの1人は、ルークの妹の口を押さえて後ろから抱き込む形で首に包丁当てて歩いてくる。

「せ、せ、聖女をっ、出せ」

震える包丁が首に当たる度冷や冷やするんだろう。

ルークの妹は青褪めた顔で、喉を引きつらせながら泣いている。

そのあまりの事態に、その2もびっくりしたのか、私を地面に降ろし、なんでか私を隠すように前に立つ。

「聖女を連れて来い! この女がどうなっても構わないのか!?」

お約束な台詞だよね。

だけどさぁ、それでなんで、当たり前に自分の主張が通ると思うんだろうか?

「うん。どうでもいいよ」

「メイっっ!!!」

なんでそこで、その2が怒るの?

「だって、その子は私とは赤の他人。殺すでも犯すでも好きにすればイイじゃない。そっちの子だって、今散々私の悪口並べ立てたばっかなんだよ? 今更助けて貰えるとか・・・お馬鹿な都合イイ事は、思ってないでしょ?」

にっこり笑って言えば、ルークの妹は怒りなのか恐怖なのか、真っ青な顔で震えている。

そして、包丁構えただけのおっさんが血走った目で睨んでくる。

「なっ! こいつはこの警備隊の隊長の娘だと!」

なるほど、盗み聞きして、人質物色中だったと。

「それが何? 私とは関係ないじゃん」

「関係って、お前、隊長には迷惑かけっぱなしなんだから、もうちょっと隊長の心情を察するとか」

門番のおっちゃんの嗜める言葉が尚空しい。

ダメじゃん、警備隊員!

「そんなことで犯人の要望一々叶えていたら、隊長の家族誘拐すれば、なんでもやりたい放題になっちゃうじゃない。こういう時は相手しないのが一番なの。私、食堂でオヤツ貰ってこようっと」

ちょっと小腹が空いたし。

「メイ、非道だ」

「さすがメイ、最低だ」

「ルーク、隊長を」

そんな警備隊おっさん達の会話に、ルークの妹を人質に取った馬鹿が吼えた。

「いいのか!? 本当に刺すぞ! 殺すぞ!」

うっさいなぁ。

大声出さなくても聞こえてる。

こっちは、耳は悪くないのだから。

「だから勝手にどうぞって言ってんじゃん。だけど、その直後に、あんたも死ぬよ?」

その言葉にオッサンの顔から血の気が引いていく。

「言っとくけど、素人が一撃で人殺すのって結構難しいよ? 少しでも息があるんなら、私が治せば無事解決だし。無駄死にしたくないんだったら、ここで謝って捕まるか、宣言通り、私が手出しできないくらいきっちりすっきり、その子一撃で殺すことだね。問答無用で、ここにいる、その子のお兄ちゃんが、一撃で殺してくれるよ。見習いとはいえ、訓練受けた公的人殺しのプロだし。ということで、遠慮なく殺っちゃって。はいどうぞ」

にっこり笑って言えば、人質とってない男の方が門を掴んで暴れだす。

「お願いだ! アンタが回復魔法使えるって子供なんだろ? 一緒に来てくれ! あんたを連れてこないと、俺の家族が!!」

誘拐の誘拐だぁ?

「それこそ、私には一切関係ない。勝手に死ねよ」

家族もろとも、てめぇが。

「う、うわあああああああ!!」

ガシャガシャ門掴んで暴れられても、こっちは煩いだけだし。

ああ・・・・もう、面倒臭い。

仕方がないかとアイテムバックに手を入れる。

取り出した「毒玉LV1」を門掴んで暴れてる男に投げつけ、続けてルークの妹抱えている男にも投げつける。

見事に顔に当たって割れた玉から溶液が流れ出し、男だけじゃなく人質になっていたルークの妹まで確り浴びることになった。

何が起こったのかわからない顔の面々。

やりやがったと頭を抱える面々もいる。

だけど、「毒玉LV1」をぶつけられ、毒に犯された3人は、その痛みと苦しみで地面に転がる羽目になる。

一応、間違っても人間には使わないで下さい・・・効果だもんねぇ。

体力ないのは即解毒しないと、本気ですぐに死んじゃうし。

一応、一番LV低いの選んだんだよ?

今じゃほとんど作らない、実験品だし。

「ハーイ、今です。皆、確保!」

私ってばイイ仕事してんじゃん。

安全確保とか、流れまで完璧!

「相変わらず、容赦ないよね? 非道だよね?」

その2は溜息吐きつつ、ルークと門番3人で飛び出して、毒で悶える男を縛った。

ルークは毒で苦しんでいる妹を動かさないように髪を撫でた後、溜息交じりにこちらを振り返りつつ言い放つ。

「それで、「毒消し」は幾らで売ってくれるんだ?」

あらぁ、さすがルークは分かってる。

無駄に、私の世話係を押し付けられていない。

こっちから今言おうとしていただけに、渡りに船?

「ギルド買取は5百Gで、市場価格は千G。お友達価格の1本3百Gで手を打とう」

お友達から、ぼったくったりとかしませんがな。

犯人のオッサンからはぼったくっても構わないんだけど、見るからにお金なさそうだし。

そうなると警備隊予算の負担が増えるだけ。

そんな非道できません!

「分かった。3本くれ」

唸るようなルークのお疲れ顔。

なんでだろうね?

無事解決なのに。

「毎度あり!」

まずは1本ルークに投げて、その2と門番のオッサンにもそれぞれ投げる。

それを受け取った皆は、それぞれ瓶の薬を口に宛がって飲ませていた。

毒に犯されて苦しんでるので上手く飲めないのに、わざわざ少しずつ、懇切丁寧に飲ませるとか・・・・・・。

「それ、かけても効くけど?」

「この色の薬なんてかけたら、服がダメになる! 後が、酷い臭いになるだろうが!」

さすが、ルークとその2は、散々実験台にされた経験者だけに、良くご存知で。

あの紫緑の混ざった色合いからして、美味しいはずはない。

だけど、かければあの色が肌にまで定着して一週間は消えないのだ。

どんなに不味くても、緊急事態じゃない限り、あの薬は飲むことをお勧めしている。

冒険者は細かい染みなんぞ気にしないので、かけて使うことの方が多いらしいけど。

そんな薬を時間をかけて飲み干して、暫くすると、痛みと苦しさが消えたのか、皆ぐったりはしているけど普通に呼吸をし始めた。

まあ、一番復活が早かったのは、ルークの妹だけど。

「なっ、一体、もうっ! あんた、なんなのよ!!!」

いや、そんな怒鳴られても・・・・・・。

「今度は即死率上がる「毒玉LV5」いっとく?」

にこやかに告げれば、ルークの胸にすがり付いてギャンギャン泣き出した。

「もおおお、いやあああああ!!」

「お前が悪いけど、とりあえず泣いとけ」

泣き喚く妹には、お説教はしないらしい。

泣きじゃくる妹をあやす、大変お疲れ気味のルークを尻目に、門番2人が暴動オッサン2人を警備隊詰め所内に連行。

これから取調べでもやるんだろう。

「じゃあ、今度こそオヤツ」

「こらこら」

その2が、全然目が笑ってない笑顔で首根っこ押さえる。

「あのね、今、門番いないの。代わりが来るまでここで待機」

うっ、小腹空いてきたのに・・・・・・。

そう思っていたら、真っ黒な人影が歩いてくる。

・・・と思ったら、目の前にいた。

「うおっ、相変わらずの瞬間移動。お帰り、カイト。早かったね?」

「ええ・・・・・・・・・・あの、何かあったんですか?」

いつものカイトより断然早い帰宅時間。

見る限り怪我はないみたいなので、そこそこの稼ぎで今日は切り上げてきたんだろう。

ルークに抱きつく少女に、門番のいない正面玄関を見て首を傾げるカイト。

「なんだろうねぇ? あの子が大騒ぎして凶悪犯呼び寄せたみたい。因みにルークの妹ね」

「「違うだろ!」」

その2とルークの同時突込みとか、なして?

「なんか、変なこと言った?」

そう正直に聞けば、なぜか、ルークの胸で大泣きしていたお嬢さんが、おかしな行動をとり始めた。

顔を上げ、カイトを見つめ、潤んだ目で見つめ続け、はっとしたように、目元を袖でぬぐって、ぼっさぼさに乱れた髪を気にして撫で付けるとか・・・・・・。

「あ、あっ・・・・・・・もうヤダっ! こんな格好でカイト様に会うなんて」

は?

カイト様??

ぼっさぼさの髪を撫で付けてもどうしようもないと悟ったのか、ルークの妹はなんか細かく結っていた髪を解いて手櫛で整えてから、ルークの肩を押さえつけて立ち上がる。

かと思えば。スカートの皺を伸ばし、砂を払ってカイトに駆け寄る。

熱で潤んだような、キラキラしい眼差しでカイトを一心に見つめながら。

「良かったぁ。カイト様にお会いできて」

どっからその甘ったるい声、出してんでしょうねぇ?

さっきまでのキンキン声とは雲泥の差。

「おばあちゃ・・・祖母から頼まれていた品、見つかったからと、お届けに参りました! って、あ、どうしましょう!? 荷物は兄に取り上げられて、詰め所の方にっ! 今すぐ取ってきますね!」

それはもう、さっきまで人質になって青褪めていた姿が嘘のよう。

赤く染まった頬でキラキラしい笑顔に、キビキビとした行動。

「その2、実に分かり易い子だね」

「ああ・・・まぁなんと言うか、純情一途な奥様の血を色濃く引き継いでる感じ、だね」

なるほど。

単純お馬鹿だと。

「カイト。知り合い?」

彼女の勢いも今の状況もさっぱり分かっていないカイトは、ぼんやりした顔で曖昧に頷く。

「先日、ダンジョン内で、ハンナさんが欲しがっていた果物を見つけたので、お届けした際に、お茶を淹れて頂きました。確か・・・ソニアさんだったと思います」

比べてカイトは、まあ、モノの見事に反応薄い。

ついでに言えば、詰め所の方で何かやってる妹を見るルークの目が、死んでいる。

お前なにやってんだよとばかりに・・・・・・。

ルークの妹・・・・・・恋愛脳でカイトしか見えていない。

カイト・・・・・・隊長の娘、ハンナさんの娘でお茶淹れてくれたお嬢さん認識。

ルーク・・・・・・カイトが嫌いなわけじゃないが、妹のはしゃぎ様に思うところがあるらしい。

これって、完全に、家族の大反対に遭うパターンだよね?

カイトには、全然その気がないと言うか・・・・・・気配がない?

カイトがルークの妹を見る目は、完璧なまでにハンナさんやおばあちゃんを見る目と一緒。

いや、おばあちゃん達見る目の方が、感謝やら尊敬がある分、確実に扱いが上だろう。

つまりは、だ。

「カイト様!! お待たせしました!!」

それはもう、キラキラしい笑顔で駆け寄ってくるルークの妹に溜息。

「カイト」

名前を読んで手を伸ばせば、カイトはルークの妹のことなんざすっかり無視で、私を当たり前に抱き上げる。

「カイト。今日も無傷でお帰りなさい」

いつもなら、ここで頬にちゅー。

だけど今日は、顔を左側に倒しながら、手を伸ばしてその頬に手を添えて、確り唇に唇を重ねた。

まあ、舌入れても・・・・・・カイトが倒れかねないので、そこは自重。

誰もが、キスをしたとわかる間くっつけた後、カイトの顔を見つつ微笑む。

「カイト? お返しのちゅーは?」

真っ赤な顔で、今にも茹で上がった感じ。

肌が見えてるところ・・・・・・指先まで真っ赤になってそうなカイトに、正気に戻れと頬を叩いてもう一度尋ねる。

「お帰りなさい。ただいまのちゅーは?」

無邪気に見えるようににっこり笑えば、カイトは思いっきり目を逸らし、しどろもどろで口を開いた。

「あ、そっ、それはっ、さすがに・・・・・・・・あのっ、へ、部屋に戻ってに、しませんか? ここは、人目もあるしっ」

可愛いなぁ。

ほとんど人類相手になら無敵かってぐらい強いのに、ちょっとちゅーしただけ顔真っ赤とか。

やべっ。

どう考えても、ファーストキス・・・・・・男だからイイか!

男の子が、細かいことを気にしちゃいけない!!

「うん、そうだね。ルーク、荷物宜しく。・・・・・・カイト、行こ」

カイトは壊れた人形のように何度も頷くと、周りの事は一切無視で歩き出す。

まあ、これで、ルークの妹の純情も見事玉砕したことだろう。

どんなに憧れて熱を上げていても、5歳児と唇同士でキスする成人男性に恋愛感情高テンションで維持し続けるのは、凄く珍しい。

どう考えても、望み薄そうな反応薄い男に無駄に時間費やさずに、次は、家族に反対されない、可能性のある相手を探してくれ。

嫌われ役とか、我ながらイイことしたよねぇと思いながら、あっという間に部屋に運ばれた。

カイトと言えば、私をベッドに座らせるなり、恥ずかしそうに「ただいまの・・・・・・」とモジモジしながら、ウロウロしまくった挙句に、結局頬にキスしてたんだけど。

なんか、無茶苦茶可愛かった。

カイトにはあの流れが一切分かってないだけに、申し訳ないと言うか?

そもそも、いきなり私がカイトの唇にキスしたことは、突っ込まないらしい。

ほっぺにちゅーの延長だとでも思ったかな?

カイトが気にしないなら、私としても、あり難いんだけどさぁ。










見事なまでに、ソニアちゃんが崩れ落ちるのをルークが支える。

「ソニア?」

青褪めた顔に、ルークは慌てて頬に触れ、首に触れて脈を確認。

呼吸音は聞こえるので、そんな大事ではないはずだ。

「ショックのあまりの気絶って奴だろうね」

まあ、色々あったからねぇ。

特に、最後のは最悪だ。

メイが何を思って止めを刺したのかは知らない・・・・・・ソニアちゃんのことが相当嫌いとか?

にしても、だ。

「ルーク。メイとカイトって、そーゆー関係?」

お互いがお互いを特別視してるのは知っているが、あの2人の感情には明らかに温度差がある。

それをお互いに気がついているらしいのに、そのままとか、見てて面倒臭いことこの上ないのだけど。

「ああ・・・・・・・どうなんだろうな? しょちゅう抱っこで頬にキスは、してたけど・・・・・・」

ルークもその手のことには免疫がないらしく、言いながらも顔が真っ赤だ。

「さすがに、やってないよね?」

「ぶっ! あっ、だっ・・・・・・・メイだぞ!?」

まあ、あのサイズでやるのは相当厳しいって言うか・・・・・・・・。

「逆ならともかく、そりゃないよね」

「・・・・・・逆?」

純情少年のルークには意味が分からなかったらしい。

きょとんとした顔は、ソニアちゃんにそっくりだ。

さすが兄妹。

「どう見ても、カイトとメイって、反応が逆だよね・・・って話」

キスされて顔赤らめて、周りの目を気にして2人になりたいとか、カイトってばどこの乙女?

その点メイは、迷いも何もなく、全身真っ赤なカイトを見てニヤニヤしてた。

間違いなく、恥じらいなんざ、一切感じていない。

あったらこんなトコで、女・・・それも幼児から、キスはぶちかまさないだろう。

相変わらず、アイツは鬼だ。

見た目が幼児だけに、その影響力が半端ないとか、最悪だ。

「カイトとメイが、今の年齢のまま性別逆の場合、1ヶ月したら腹が大きくなってそうだよなぁ」

「ぶっ!!!」

そんな、気絶した妹さんの顔の前で吹いたら可哀想だよ?

「まあ、アレで良かったんだよね」

カイトは、戦闘方面ではあの年では考えられないくらいのモノがある。

だが、男女のコトに関しては完全なオクテだ。

根も基本真面目なので、メイが本気で誘惑しても、メイが成人に達するまで手は出さない気がする。

「ルーク。ソニアちゃん家まで送っていってあげなよ。その荷物はオレが渡しとく。隊長にも報告しておくんで、ゆっくり宥めておいで」

ルークがすまなそうに頭を下げて差し出してくる籠。

その中には、何かの粉とジャムらしきものが入っている。

また、メイの好きな甘いものだろうかと考えつつ、門番の交代が来るのを待った。

大丈夫なのは分かっているが、護衛任務上、メイの元に行かなければならない。

カイトが気分盛り上がって爆発暴走とかしてたら面白そうだなと、ありえないことを考えて、にやける自分がいた。

そんな日常の1コマ。

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