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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第2章 親指姫
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プロローグ

 森に流れる小さなせせらぎ。

 そこから、1匹のかえるが現れた。

 茶色い体に無数のイボ。

 一般的にはガマガエルという名で知られているそのカエルは、目の前でキラキラした瞳を輝かせる小さな少女に気がつくと、げんなりした声で言った。

「待ってろって言っただろ……げこ」


「待ってましたですよ?でもいいお天気ですし、おさんぽがてらお迎えに来たのですよ。それに、ごはんにするなら少し歩いて運動すると、より一層おいしく食べられるかと思いましてですね!」

 この世界の一般的な人間――――――の子供が持って遊ぶ様なお人形と同じ大きさ―――というか、まるで動く人形そのものみたいな小さな女の子は、その小さい体に似合った可愛らしい鈴の如く、高く澄んだ声でうきうきと話す。

 ガマガエルは、呆れているのか口を半開きにしてその様子を見ていた。

「飯は逃げやしねえげこよ。大体オレが、逃がす様なヘマすると思うか?……げこ」

「うーん、でも、お腹がすいたら少しは食べられるかなあと思ったのですが、やっぱり生のお魚さんはナマ臭そうなのです」

「聞けコラげこっ。そして文句があるなら食うなげこ」

「カエルさん、ここは一発どかーんとハデなファイヤーを!」

「聞けっつってんだろげこっ!?……だいたい、俺もお前も火系の魔法は使えねーだろーが。げこ」

 かえるのその言葉に、小さな少女は首を傾げました。

「でも、皆さん使ってますよ?」


 この森には、特殊な『網』が張り巡らされていた。

 それは、この森に住む者ならば誰にでも使える簡単な魔法装置みたいなものであった。

「そうだなげこ、そしてコントロールが利かなくて魚を消し炭に変身させちゃったのは、お前だったよなあ?親指姫げこ」

 半眼のかえるに、親指姫は何故かはにかんだ。

「あの時のかえるさん、すっごく心配してくれたのです。すっごくすっごく、嬉しかったのです!」

「気にして欲しいのはそこじゃねえげこっ!だからなあっ、いくら使えるって言っても得手不得手っていうのは残ってるもんなのげこっ!諦めて生でがぶっと行けがぶっと!げこ!」

 それでも、親指姫は首を傾けたまま考え込んでいた。

「そうなのです。こんな時こそ魔法なのです!掲示板の皆さんに教わったみたいに、風の魔法でお刺身とかどうでしょう!」

「お前の方が魔法の無駄使いじゃねーかっ!げこっ」

「でも、川のおさかなは寄生虫とか怖いのです。やっぱり火を通した方が……」

 その時。

「げこっ!?親指姫!こっちこい!」

「カエルさん?へっ?きゃあっ!」


 カエルの長い舌に巻き付かれ、意外に強い力で引っ張りこまれたそこは、小さな茂みの中だった。

「静かにしてろ、げこ」

 小声で指示を出され、親指姫は思わず両手で口元を押さえる。

 茂みの隙間からこっそり向こうを見ると……。

 がさがさっ、ざざっ、という音と共に、数人の大きな巨人……いえ、普通の人間が通り過ぎて行くところだった。

「っかしいな、確かに聞こえた―――」

「誰もいない―――?」

「捕まえようと―――逃げた―――?」

「とにかく先に―――」

 不思議そうに辺りを見回すのは、聞き覚えの無い声とくたびれた衣服の、体格のいい男達……。

 顔なじみの冒険者―――同郷の人間ではなさそうだ。

 不穏な空気に、すっかり親指姫は固まってしまった。

「……“こちら”の人、なのです」

「……ああ」

「魔女さんに、報せた方がいいですか?」

「……そうだなげこ、掲示板に上げとけ。そうすりゃ魔女だけじゃなく他の連中も注意するだろ、げこ」

「……はいなのです」


 “この世界”に来て数年。

 普通の人間として生活している同胞は、“この世界の原住民達”には“そのあり方”ゆえに恐れられてきた。

 しかし一方で、彼等“この世界の住人”を恐れる同胞も現れたのだ。

 それは、人語を理解する動物(元人間)や、身を守る術を持たない小さな人達……つまり、主に妖精や小人と呼ばれる種属だった。

 それゆえ彼等は、魔女の守るこの『はじまりの森』に集団で暮らす事となる。

 特に妖精は、『妖精郷―――フェアリー・パーク』という大規模集団(コロニー)を作って暮らしていたのだが、中には彼女『親指姫』の様に、そこに属さず単独で暮らす者もいた。

 ただし彼女の場合は、帰れないなりの事情があるようだったが……。


 溜息をつきながら、彼にしては優しい声音でカエルは言う。

「げこ……だから何度も言ってるだろ、そんなに怖いなら帰れってげこ。そもそもお前、主食花の蜜なのに、ここにいる限りずっと魚食うようだぞ。げこ」

 その様子に少し安心したのか、ちょっと口を尖らせて親指姫も言い返す。

「だから何度も言っているのです。ここから妖精郷は遠いのですよ、と。……湖の反対側なのですよ!?そんなに遠くまで一人で行けというんですか、カエルさんは!あとごはんに関しては近くにお花咲いている所あるので、多分問題なしなのです!ずっとここにいられますよ!」

「えばんな!げこっ!」


 森の中央に存在する湖。

 北の白鳥達が暮らす大きな湖に比べれば池みたいなそこは、森で暮らす者にとっては―――いや、“この世界に暮らす移住者たち”の全てにとって、とても重要な場所であった。

 妖精郷はその湖のほとりに、まるで間借りするかの様に存在しているが、今親指姫がカエルと暮らしている小川からは反対に回りこまねばならなかった。

 それは、小さな体の親指姫にとっては、下手をすると命がけの大冒険になりかねないようなものだ。

「だいたい、なのです。……カエルさんひとり、置いて行ける訳無いのですよー」

「オレみたいな醜い生き物が、あんなキラキラしたとこ行ける訳無いだろうげこが。すぐに追い返されるわっ!げこっ」

「でもでも、かえるさんにはお世話になったのです。あそこならかえるさんも安心して生活できるのです。だから、わたしはかえるさんと一緒じゃなきゃ、あの場所には戻らないのです。決めたのです!」

 何度目かのループになりつつあると悟ったカエルは、深い深ーい溜息をつきました。


「はあー。何でお前、妖精のクセに飛べねえんだよー……。おウチまでこの距離徒歩で帰るんで送ってけとか、一緒に行かないと帰らないとか、ホントこれ、どんな脅迫だよげこ……」





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