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童話トリップ!  作者: 深月 涼
第1章 白鳥の湖
6/53

【犯人タイーホ?】北の領主館窃盗未遂事件!【バーローw】

「あれ、あいつ……」

 狩りの帰り道、“そいつ”を見つけたのは偶然だった。

 普段なら湖畔の日当りのいい場所に陣取っているあの例の灰色の白鳥が、今日は何故か鬱蒼と木々の生い茂る薄暗い場所に隠れる様にして眠っていたのだ。

「……いつも、こんな所で眠ってたのか……?」

 後ろを振り向けば日の光に照らされて煌く湖から、賑やかな水鳥達の声が聞こえて来る。

 ……やはり、こいつは普通と違うのだろうか……?

 起こさない様に、逃げない様に、慎重にそっと近づく。

「そういえば、ここ2,3日は見かけなかったな」

 怪我でもしているのかと思ってよく見てみると、やはり何処となく薄汚れているというか、羽毛も所々飛び出ていて……なんだかあちこち小さな傷でも出来てるみたいだった。

「………」

 結局、例の宝石狙いの怪盗の追跡は、前回と同じくこの湖の岸辺までで頓挫していた。

 昼間眠って夜に活動する……?いや、その前はちゃんと昼間岸辺に居た筈だ。だが……。

「タイミングとしては合うな」

 口の中で小さく呟く。

 怪盗が出始めた日と白鳥の姿を見かけなかった日、そしてこの、全身すり傷みたいな小さな怪我……。

 もしこいつが“あの白鳥”なら、あの時のロッドバルドの魔法で多少怪我を負っててもおかしくは無い。

「もし、こいつが――――――」

「その白鳥がどうかしたか?」

「うわっ!?」

 ばささっ!

 あ。


「……悪い、行っちまったな」

「ああ……いや、いい。それより何か用か?」

「それはこっちのセリフだ、馬鹿ジーク。遅いから何かあったかと思ったぞ」

「あー、こちら本日の納品分となります」

「よろしい。んで?お前さっきの白鳥、まだ気にしてんのか?」

「……気にしてるというか、ちょっと引っかかってな」

 証拠どころか確証も無い様なただの想像だ。

 だが、一応という事で軽く説明をする。

 意外にも、ロッドバルドは無碍に否定する事は無かった。

「……容疑者候補、ってところか。で?お前があの白鳥を気にする理由、それだけじゃないんだろ?」

「え?」

「確かにタイミングは合うが、単に怪我して引き籠ってた、ってだけの方がよほど説得力があるだろ?そうじゃなくて、お前があの灰色の白鳥に固執する理由だ」

「…………」

 少しだけ黙る。

 変身魔法自体は、俺達の間ではそう珍しいモノじゃ無い。

 だから、そういう事もあるだろうと納得する事は容易いと思う。

 だけど何故か、俺は“あの光景”を口にする事をためらっていた。

「言いにくい事でもあるのか?」

「や、そうじゃなくてな」

 友人に気を使わせてまで黙るほどのものでも無い、と俺は口を開いた。


「……あれはまだ、この世界に来て日が浅い頃の話だ。深夜だったかな。たまたまその日眠れなくて、気晴らしに外に出たんだよ」

 あの“森”を抜けて新しい生活を始めたはいいものの、真っ暗な闇の中、先の見えない不安に押しつぶされてしまいそうで、俺は耐えきれずに外に出た。

「そうしたらさ、月に照らし出された湖の上に、1人の女の人がいたんだ」

「女?」

「そ」

 短く返す友人に、こちらも簡単に返す。

 鳥が女性に変わる瞬間というのは、いつ見ても神秘的だと思う。

 その女性のシルエットが、その、結構出るとこ出てるっていうか……まあぶっちゃけグラマーなタイプだったっていうのも、俺の印象に強く残る原因だったと思うけど。

「暗かったから、その人の顔も白鳥の時の色もよく分からない。けど、あの後湖チームにいた女性陣全員の顔を改めて見てやっぱりその中の誰でも無いような気がして、……正直夢でも見たのかと思ってた」

「……お前なあ、不審者情報があるなら先に言えよ!」

「いやだから、夢かと思ったんだって!」

 ロッドは「はあ」と1つ溜息をついて、それから改めて話を続けた。

「……灰色のヤツが怪しいと思ったきっかけは?」

「ただのカン?」

「おい」

「1羽だけ色が違うだろ?白鳥じゃないなら色の違う鳥にこそ可能性があるんじゃないかと思ったってのもあるかな。ほら、お前んとこの大事な黒鳥みたいに」

 大事な黒鳥、の部分でロッドがびしぃっと酷い顔で固まった。

 え、今さらだろ?

「……だからさー、俺多分、あの人にもう1回逢いたいだけなんだよ」

 中空を見て溜息をつくと、隣から「重症」という言葉が聞こえた。

 うるさいな、分かってんだよ。

「わかりましたわ、ようはその灰色の白鳥をとっ捕まえれば万事解決ですわね!」

「「うわっ!?」」


 突然後ろから話に割り込まれて、俺もロッドバルドもビクつく事になった。

「おま、何やってんだよこんなとこで」

「お姫さんにはちょっと危険だぞ、この辺は」

「まあ!心配して下さるのですね、ジークフリード王子!」

「いや、まあ、その……」

 白鳥王子達の中でも唯一の人間である妹姫だ。

 俺、この人正直ちょっと苦手なんだよな……。

「お前が絡むとややこしいんだよ。どっかいけ」

「悪い魔法使いの言う事など聞きませんわ!わたくしと王子の関係を邪魔しようとしても無駄ですのよ!……ふふん、どんなにわたくしの事を好きでいようとも、今回は残念ながら悪役と結ばれるシナリオは存在しないようですわ!ほんっと残念でなりませんわね!」

「おい誰かこの頭のおかしいの引き取って!」

「なんて事仰いますの!?ひどいですわ!」

 ぎゃあぎゃあとうるさい喧嘩を始めた2人に、俺はどう突っ込んでいいか分らない。

 まあ割といつも通りの光景と言われればそれまでなのだが。

 ロッドはロッドでちょっと口は悪いけど、なんだかんだ相手しているし、妹姫の方だって、わざとロッドに突っかかってる節があるんだよなあ……。

 お互い喧嘩友達認定って言うのかな、こういうのも。


「とにかく解決を早めたいと仰るのでしたら、怪しい者は罰せよの精神で、その白鳥に首輪でもつければよろしいのですわ!」

「いや、それは出来ない」

 妹姫の言葉に、間髪入れず返したのは自分だ。

「何故ですの!?」

「いや、何故って……」

 普通横暴だろう。

 だだ、それだけじゃなくて……俺がそれを嫌がった本当の理由は……理由、は……。

 とまどっている内に、ロッドバルドが意見してくれた。

「あのな、俺達の仲間である可能性のあるヤツに首輪は不味いだろ、常識的に考えて」

「魔法使いの方は黙ってて下さいまし!」

「あーうるせえ!」

 一方の妹姫は、頭に血が昇ってしまっているらしく引く気が無いらしい。

 と、そこへ、

「妹、あまり淑女が大きな声を出すものでは無いよ」

「一番上のお兄様!」

 白鳥の王子の長兄がやって来た。

 ロッドもほっとしたらしく、「保護者キタコレ」なんて言っている。

「さあ、もう行こうか。他の兄弟達も、君と一緒にお茶を楽しみたいと皆で待っているよ」

 その言葉は効果抜群だった様で、妹姫は途端に機嫌を直して長兄さんの手に腕をからめた。

「仕方ありませんね、とりあえず今はよろしいですわ。でもその内わたくしのこの力が必要になる日がきっと来ましてよ。覚えておいて下さいましね」

「ほらほら、余りもたもたしているとお茶が冷めてしまう。さあ行こう」

「ええ、お兄様」

 そう言って2人でその場を去って行く。

 ただ、ちょっとだけ長兄だけが振り向いて目配せみたいにして来た。

 謝りたかったんだか作戦成功という意味なのかは図りかねたが。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


538:赤い靴

    足の速いのなら知ってるよ


    みにくいあひるの子


539:ジャックと豆の木

    あひる?


    例の実行犯は白鳥じゃなかったのか?


540:7人の狩人 5番目

    いやまて


    そうか、そういうことか


541:浮かれ小坊主

    どういうことー?


542:7人の狩人 5番目

    つまりみにくいあひるの子は

    物語が終了した後の姿に変身するのだろうな


    灰色なのはまだ未成熟だという事なのか

    みにくい、を指し示す部分なのかは分からんが


543:赤い靴

    あひるの子はねー、すっごく速いよー

    あたしの全力より速い

    ただ、瞬間的なものみたいだけどね

    避けたりするのは上手いけど

    持久力はあんまり無いと思う


544:魔弾の射手

    ほんならこうか?

    AGI>VIT

    他の数値がどうなっとるんかわからんが

    避けるんが得意なんやとTECも高そうやんな


545:妖精王

    素早さに関係するならば風属性か?

    水属性が多い他の白鳥関係者とは

    やはり毛色が少し違うという事か


546:ノロウェイの黒牛

    おい、赤い靴……


547:赤い靴

    あっ

    ノロさん!


548:浮かれ小坊主

    あっ、ノロさん!


549:魔弾の射手

    お、ノロやん!


550:おおかみ@肉を喰わせろ下さい

    腹減った


551:ノロウェイの黒牛

    おまえらあああああ!!

    現役

    肉屋に

    そのセリフ

    言うんじゃねえよ!!!


    毎回言ってんだろ!?

    後おおかみはそんなに腹減ってんなら後でこっち来い

    何か食わせてやるから


    というかだなあ

    赤い靴!てめえだ!


552:赤い靴

    はひぃっ


553:ノロウェイの黒牛

    てめえこのやろう


    さっきはよくもひき逃げアタック喰らわせてくれたな


554:赤い靴

    あっ、さっきのノロさんだったんだ


    ごっめーんXD


555:ノロウェイの黒牛

    ごっめーん

    

    じゃねえよ!

    ったく、青ひげといいてめえといい

    ちったあ周りの様子見てから突っ走りやがれってんだ


556:浮かれ小坊主

    やだなあノロさん


    それが出来ないから

    バーサーカーの称号持ちなんだよ

    2人とも☆


557:ノロウェイの黒牛

    小坊主はだあってろ


    あとノロノロってうっさいんだよ

    肉屋に向かって言うなッつってんだろ!?


558:雪の女王

    お主も相当ガラが悪いのう


559:ノロウェイの黒牛

    俺はおえらいと違って上品には生まれてねェの


    それと、仕事1個終わったから報告

    どこぞの領主の抱え込んでる例の宝石

    あん中にホープ混ざってる

    犯人の本命それ


    ったく、脳筋族に繊細な仕事させんじゃねーよ


560:雪の女王

    なんじゃと!?


562:妖精王

    おい、幸福の王子は今どうなっている!?


563:浮かれ小坊主

    うわあ、大惨事☆


    あれでもそれって……


564:7人の狩人 5番目

    ああ、これで領主街の異変にも説明がつくな


565:ジャックと豆の木

    呪い発動中じゃねーか!


566:魔弾の射手

    なあこれ

    下手に手ぇ出さん方がええんとちゃう?


567:おおかみさん@お出かけ準備

    だな


568:浮かれ小坊主

    んーでもさー


    ここで1つもんだーい


569:雪の女王

    どうしたのじゃ?


570:浮かれ小坊主

    ここしばらくスレに湖関係者出てきてないけど


    誰がどうやって伝えるの?


571:ジャックと豆の木


    あ


572:魔弾の射手

    ええかげん衛星携帯欲しいとこやんなあ


573:雪の女王

    個人的な連絡手段は

    今の所特定の地域…範囲に限定されておるからのう

    それ以外となると……


574:妖精王

    無い物ねだりをしても仕方あるまい


575:7人の狩人 5番目

    しかし、こうなってしまっては……


    誰か今このスレを覗いている者で

    湖の近くにいる者がいれば頼むのだが……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「まさかここまで大事になるとはなー」

「……言うな」


 現場から中継のジークフリードです。

 ……てか。


 今俺達は例によって領主館の中で待機中。

 そして今回の捕り物の中には、白鳥の王子達も参加して貰ってる。

 彼等の呪いは昼夜関係無いからな。

 だからいっその事、人海戦術で取り押さえようって事になった。

 2グループに分かれて外と中から挟み打ち、って予定。

 上手く行けばいいが。


「ジーク!」

 隣のロッドが鋭い声で呼ぶ。

「アイアイサー!光よ!」

 カッ!!

 声に応えて剣から光があふれる!

 どうよ、俺の破邪の魔法!

 前回みたいに暗視スコープを付けているなら、これで視界は潰された筈だ。

「王子達!」

「ああ!」「おう!」

 何とも頼もしい返答があり、光の収まりつつある部屋の中心に王子達が殺到して行く。

 ……が。

「……る」

 不意に、その中心から気配が……。

「マズイ!」

「逃げろ!」

 魔法の予感に俺とロッドが声を上げる。

 直後、

「ロワイヤル!!」

 さっきの俺の魔法が部屋全体に広がるものだとしたら、今のこれはまるでビーム兵器みたいで。

 がっ、という鈍い音と共にご領主が意識を失うのが見えた。

 白鳥の足には青白い宝石。

そのまま反転し、あっけにとられている俺達を残したまま、衝撃で破壊された窓から犯人は悠々と逃走して―――……

「って、追うぞ!」

「「ああ!!」」

 

「くそっ」

 まさかあんな強力な反撃方法を使って来るだなんて。

 今までは誰かを傷つけるそぶりが無かったから、完全に読み違えた。


「ジーク、このままでは引き離されるぞ!」

「……分かってる!」

 白鳥の王子達も進路を妨害しようと空中を飛びまわっているが、いかんせん今は深夜。

 鳥目の連中には荷がキツイ。

「“俺”を倒した時の“アレ”を使え!」

「“アレ”!?」

 対人にはあれ、威力でかすぎだろう!?

 ボス戦に使う様な超必だぞ!?

「時間が無い!向こうだって必死なんだ。石を持ってかれてしまったら、もう2度とあいつは俺達の前には姿を現さなくなるぞ!」

 ロッドのその言葉に、覚悟が決まった。


「『破邪剣、聖剣』!!うおおおおおおおお!!」

 光り輝く剣を構え、俺はそれを振りかぶって――――――

「今ですわっ!」

 突然茂みから飛び出してきた妹姫が、何かをひらりと放り投げた。

 兄王子達の必死の妨害で地上近くまで降りて来ていた白鳥は、その投網のような、それにしては小さな“何か”にぶつかって――――――

「うそっ」

 そのかすかに聞こえた声は、一体誰のものだったのか――――――

 白鳥に化けた怪盗は、その速度を急速に落とし―――人になって―――

「っああああああ!!」

 俺の放った聖剣により、肩を貫かれて地面へと墜落し――――――そして。


 ころりと、秘められた色の石が、地面に転がった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



799:森の魔女

    話を聞いて来てみれば……

    まったく、厄介な事してくれおってからに……


    この塔の監視、誰か代わっとくれ

    

    ちょいと今から出かけて来るよ


800:浮かれ小坊主

    ええーっ!!??


    






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