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童話トリップ!  作者: 深月 涼
序章
2/53

オープニング

キラキラと輝く湖面には、大勢の白鳥達がいた。


そう、ここは『白鳥の湖』

ここには、白鳥になる呪いをかけられた美しい姫と、姫に付き従う白鳥の侍女達が住んでいるという――――――


そこに現れたのは白鳥の――――13羽いる中でも一番末の王子。

彼は白鳥の姫―――オデットを見染め――――――この湖にやって来た。

やがて話を聞き付けた兄弟達もこの湖に居を移し、それぞれに相手を見付け、幸せに暮らしたという事だ。


一方呪いをかけた当の魔法使いは、娘とも相棒とも言われた、あの黒鳥となさぬ仲に。

1人残ったジークフリード王子は――――――何故か物言わぬ白鳥を追いかけ回していたそうな。






鬱蒼とした森の中を流れる、小さな川のせせらぎ。

そこに住みついたのは、一人ぼっちを気取る魔女ガエルの息子。

でも何故か小さな“彼女”は、そんな醜い彼のそばにずっと居たがったのだ。


げこげこ、あっちへいけ!

いやなのです!お外は何もかも大きくて、とっても怖いのです!そばにいてください、カエルさん!

げーっ、うっとおしいんだよ!何もありゃしねえから、とっとと妖精郷に帰りやがれ!

そこまでの道のりは遠くて怖いから嫌なのです!それに、私がいなくなっちゃったら、カエルさん一人ぼっちなのです!一人ぼっちは寂しいのです!悲しいのです!!

うるせえ!ぼっちぼっちって連呼すんな!!げこげこ!


今日もまた、醜いカエルと迷子の妖精の問答は続く――――――




ボロをまとい、寒さに震え、売れないマッチを抱えて街頭に立っていた、あの小さな少女はもういない。

背負った丈夫な袋の中には旅立ちの準備。そして、相棒とも言えるマッチがたくさん。

世話になった宿屋の入り口をくぐると、丁度見知った顔にぶつかった。

けれど――――――気付かなかった。


“彼”は気付かなかったのだ。


すれ違う様に表に出る。

彼女はもう、振り向かなかった。

そのまま歩を進める。そして一寸立ち止まって軽く頭を振った。

何か重くて暗い物を振り払う様に。

そうして―――改めて前を見たその表情は、明るく輝いていた。

ここから新たな生活が始まるのだと、心を切り替えたかの様に――――――






「ナァ頼むよ~、このとおりっ!!」

「馬鹿な事言ってないでとっとと帰りな、この駄犬」

 黒い服に黒い帽子と黒ずくめの女は、話しかけて来る珍客には目もくれず、手元にある怪しげな釜をぐるぐるとかき混ぜる。

 女は目の前にいる異形―――背中までふさふさとした毛で覆われ、今は情けなく前後にピコピコ彷徨う大きなとしっぽを持った、オオカミの顔の偉丈夫―――をすげなく追い払おうとして――――失敗していた。


「ひっでーなー。馬鹿な事じゃねえの、俺にとっては切実なの!」

「それこそ魔法ジャンキー(ヘンタイ)共に頼めば済む事じゃないか。変身の魔法教えて下さいってな」

 彼女の脳裏をよぎる、数人の魔法使いの顔。

 話を聞けば、それなりに相手してくれるだろう。

 面白がって弄られるかどうかは彼次第だが。


「そこをあえての薬に頼ろうってんじゃねーか、なあ、なあ」

「まったく、ロマンの一言で“ラ○ブルボール”作らされるこっちの身にもなって欲しいもんだね。ただでさえ『塔』の結界担ってた“ラプンツェル”が“ジャック”とデキちまって『塔』を降りたもんだから、こっちに余計な負担がかかってるってのに」

 ぶつくさ言う女に、オオカミ男はなおも縋り付き拝み倒す。

「そう言わずにさあ~」

「拝むな気色悪い」

 大男にぺこぺこされても正直気持ち悪いだけだった。


「しゅーん、取りつく島もありませんか……」

「…………そうやって“(タイド)”で示すのは卑怯だと思うんだがね。大体何だ「しゅーん」て。……分かった分かった、考えてやるからもう今日は帰りな。あんまり遅いと“美女(ベル)”が心配するだろ?」

 一向に進まない問答と手元に嫌気がさしたのか、ついに黒ずくめの女が折れた。

 火にかけていた釜を上げ、別の場所に移して冷ます。

 一方異形の大男は、本来分かりにくい表情に、はっきりと喜びの感情をのせていた。

「マジか!?やったあああ!!ありがとな、魔女さん!!」

「……良いからとっとと帰れ、オオカミ」

 ものすごく、嫌そうな顔で言った。


 五月蠅い来客の相手をしたせいで進まなかった作業を諦め、魔女はいつもの日課を済ませる事にした。

 カタリと小さな音を立て扉を開けると、そのまま静かに真っ暗な部屋に入る。

 目の前には大きな姿見。

 そして、お決まりの呪文。

「鏡よ鏡―――世界で一番美しいのはだあれ?」

 その言葉に応じる様に、姿見は光を放ち―――やがて一人の人物を映し出す―――

「…………毎度毎度思うんだけどね」

 いささか脱力したような声で彼女は言う。

「“この世界”で一番美しいのが“この国の2番目の王子”ってのは、あれだ、もっと世の女性達は頑張るべきって事なんじゃないのかね」

 たとえ独り言だったとしても、そう呟かずにはいられない魔女であった。



「さて、茶番はこれ位にして、と」

 気を取り直して魔女は次の画像を鏡に映し出す。

「“眠り姫”の様子を」

 ジジッと鏡にノイズが走った後、そこに映ったのは豪奢なベッドに横たわる、14,5歳の美しい少女。

 よく見ればその胸は小さく上下し、安らかに眠っている様に見えた。

 魔女は溜息を1つ吐き、天を仰いだ。



「神は天にいまし――― 全て世は事もなし、か」








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