「ただの石ころですよ」
これですか?
彼女の形見の一つです。
彼女がよく身につけていたものでしてね。
手触りがいいとか色がすてきとか言って、毎日毎日、布で丁寧に磨いてましたね。
ただのそこらにある石ころなんですが、まあ、随分と、大事にしてくれてました。
え?
彼女の形見の物なら他にもありますよ?
それでもこれが欲しいのですか?
そんなに価値があるように言われても、これ自体はただの石ころですよ?
彼女の家系は代々信心深かったのですが、祀っていた御神体がでかくて白い球体なもんだから、それに似た見た目の石ころに神性を見出しちゃったのですよ。
神の力が宿ってるとかありがたがって、紐を括り付けて、毎日肌身離さず身につけていました。
どこかの人間が彼女の故郷に踏み入って、御神体として祀っていたでかい石ころを奪っていったから尚更大切にしていたようです。
新月の夜に光ったとか噂もあるようですが、白い石ですからカンテラの灯でも反射したんでしょう。
重傷者を一晩で治したとか、
悪霊をハグで除霊したとか、
結界を張って大地震を止めたとか、
祈りで雨を降らしたとか、
実際に起こった色々な現象は、あの石ころの奇跡ではなく、彼女の力です。
彼女は石ころから力を引き出しているとか言ってましたが、それは彼女と周りの人間の思い込みで
ただの石ころが私の体を貫く剣に替わった
ただの石ころだと散々言ったがそれでもあの男はあの石ころが欲しかったらしい
話の途中で剣に手をかけ私の胸部に剣を突き刺し石ころを手にそのまま走り去った
人間の価値観はわからない
持ち帰ってすぐに親しい女に贈り首にかけさせていたが白くて丸いだけの石ころは女が着ている白い衣服に埋もれている
あの石ころを身につけたとして奇跡など起こるわけがない
光るわけがない
治癒の力などあるわけはない
除霊も結界も雨乞いも
ましてや私の力など込められているわけはない
天災に備えるために私が力を与えて生まれた少女が道端で拾っただけの石ころ
あの男女は期待のまなざしで石ころを弄っているがただの石ころに何かが起こせるわけはない
生まれついて神の力を与えられた彼女は聖女としての役目を果たした後余生をのんびりと過ごしたのち天寿をまっとうした
80年は人間として永く生きた方だろう
さてこの後はどうしたものか
常日頃から全てを捧げると祈られていたので最期に一つくらいはと人間の姿をとって受け取りにきたが彼女は多くのものを遺していた
家も土地も金も持ち帰ることが手間というのもあるが
そもそも彼女の形見としての捧げ物は一つでいい
一つを残して他の人間に譲ろう
彼女が懇意にしていた寄り合いであれば引き取るだろう
持ち帰るのであれば彼女が喜びそうなものが良い
であれば
あの丸くてでかい石ころだろうか




