第4話 後衛の欠陥
「……で、なんでこうなる」
レイン・クラウスは、目の前の光景を見て小さく息を吐いた。
Eクラスの訓練場。
その中央で――
爆発が起きていた。
「また外した!?」
「違う、今のは狙い通り……!」
煙の中から現れたのは、一人の少女。
黒髪、無表情に近い顔。だが、その周囲には不安定な魔力が渦巻いている。
ミナ。
Eクラスの後衛魔法使い。
そして――
「威力だけはAクラス級、命中率ゴミ」
トールが小声で言った。
「聞こえてる」
ミナが無表情のまま返す。
「事実だろ」
レインが続ける。
ミナの眉がわずかに動いた。
「……否定はしない」
その声は淡々としているが、わずかに棘があった。
「でも当たれば強い」
「当たらないと意味がない」
レインは即答する。
「戦闘は確率じゃなくて再現性だ」
ミナは黙る。
図星だった。
トールが頭をかく。
「でもよ、火力はマジでやべえぞ? 一発当たれば終わりだろ」
「当たればな」
レインは繰り返す。
そして視線をミナに向ける。
「原因は分かってる」
「……何」
「タイミングがズレてる」
ミナの目がわずかに細くなる。
「詠唱が遅いんじゃない。撃つ“瞬間”がズレてる」
「……」
「だから敵が動いた後に撃ってる」
結果、外れる。
単純な話だ。
「直せる?」
トールが聞く。
レインは少し考えた。
「単体じゃ無理だな」
「は?」
ミナが反応する。
「どういう意味」
「お前一人で合わせる必要はないってことだ」
レインは肩をすくめる。
「合わせるのはこっちの仕事だ」
その言葉に、ミナの視線がわずかに変わる。
「……できるの?」
「やってみるか?」
***
簡易模擬戦。
三対三。
レイン、トール、ミナ。
対するは同じEクラスのチーム。
実力差はほぼない。
だが――
「始まる前から不安しかねえ!」
トールが叫ぶ。
「後ろ爆発するぞこれ!」
「しない」
ミナが即座に否定する。
「今日は当てる」
「根拠は?」
「……ない」
「ある」
レインが割って入る。
「俺がいる」
トールが笑う。
「それ聞くと安心するな!」
開始の合図。
トールが前に出る。
相手前衛と激突。
「おらあああ!」
力任せのぶつかり合い。
互角。
だが、すぐに押され始める。
「くっ……!」
数で不利。
もう一人の前衛が回り込む。
「ミナ、撃て!」
トールが叫ぶ。
「無理、まだズレてる」
「は!?」
その瞬間。
レインの意識が沈む。
「繋ぐ」
戦術リンク、発動。
トールとミナ。
二人を接続。
すぐに分かる。
ズレている。
トールは“今”動いている。
ミナは“次”を見ている。
だから合わない。
「合わせる」
レインが微調整を入れる。
「トール、半歩引け」
「え?」
反射的に動く。
その一瞬の遅れ。
「今、撃て」
ミナの指が動く。
魔法陣、展開。
放たれる光弾。
直線。
ズレが消える。
命中。
「当たった……?」
ミナが小さく呟く。
敵前衛、一人撃破。
空気が変わる。
「おおおお! マジか!」
トールが叫ぶ。
「まだだ」
レインの声は冷静だった。
だが――
「っ……」
頭に痛みが走る。
三人接続は、やはり重い。
「レイン?」
「続けろ」
短く返す。
「ミナ、次は溜めろ。トールが引き付ける」
「……分かった」
今度は迷いがない。
トールが前に出る。
敵を引き付ける。
「こっちだ!」
動きが単純になる。
だがそれでいい。
「今」
ミナが撃つ。
今度は、完全に噛み合う。
二人目、撃破。
残り一人。
すでに勝負は決まっていた。
数秒後、終了。
静寂。
そして――
「当たってる……全部」
ミナが、自分の手を見る。
信じられないという顔だった。
トールが笑いながら肩を叩く。
「やればできんじゃねえか!」
「違う」
ミナは首を振る。
視線は、レインに向いている。
「私じゃない」
「正確には半分お前だ」
レインは淡々と言う。
「火力は元からあった」
「でも当てたのは……」
「タイミングを合わせただけだ」
それだけ。
だが、その“だけ”が決定的だった。
ミナは少し黙り込んでから、
「……もう一回」
と呟く。
「もう一回やりたい」
レインは目を細める。
「理由は?」
「再現したい」
即答だった。
「今の感覚、忘れたくない」
トールが笑う。
「いいじゃねえか、やろうぜ!」
レインは少しだけ考えてから、頷いた。
「いいぞ」
ミナの表情が、ほんのわずかに変わる。
ほとんど分からない程度。
だが確かに――
期待が混じっていた。
「レイン」
「なんだ」
「……ありがと」
小さな声だった。
トールがニヤニヤする。
「お、珍しいな!」
「うるさい」
ミナは即座に切り返すが、完全には隠しきれていない。
レインは軽く息を吐く。
「礼は結果で返せ」
「分かった」
短い返答。
だが、その目はさっきまでと違う。
戦える後衛の目だった。
こうして。
チームに、新たなピースが加わる。
火力はあった。
だが使えなかった。
その欠陥が――
今、初めて機能し始める。
そしてレインは理解していた。
この後衛は、まだ伸びる。
正しく使えば――
戦場を支配できるレベルまで。




