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第3話 限界の先

「……認めねえ」


その一言で、空気が張り詰めた。


フィールドの外、観客席の前列。


腕を組んで立っているのは、Bクラスの上位――ガルド。


「二連勝? ふざけんな。そんな都合よく連携が決まるかよ」


視線は真っ直ぐレインに向いている。


明確な敵意だった。


「イカサマでもしてんじゃねえのか?」


ざわめきが広がる。


トールが一歩前に出た。


「おいガルド、言い過ぎだろ!」


「黙れEクラス」


ガルドは一切取り合わない。


「お前らの実力なんて分かってんだよ」


その言葉に、周囲も頷く。


“ありえない”という空気。


レインはそれを静かに受け止めていた。


「で?」


短く返す。


「どうしたい?」


ガルドは口元を歪めた。


「もう一回やるぞ」


「……三回目か」


「今度は俺が出る」


空気が変わる。


「ガルドが出るのか……」

「Bクラスのエースだぞ……」


トールが小声で呟く。


「これ、さすがにキツくねえか……?」


「キツいな」


レインはあっさり認めた。


「普通にやれば負ける」


「じゃあどうする!?」


「普通じゃないやり方をする」


リリアが一歩前に出る。


「受ける」


迷いはなかった。


「ちょうどいい」


その目は、完全に戦闘のそれだ。


「強い相手の方が、価値が分かる」


ガルドが笑う。


「言うじゃねえか、Aクラス」


そして視線をレインに戻す。


「今度も“調整”で勝てると思うなよ」


「思ってない」


レインは淡々と答えた。


「だから試す」


「何をだ?」


「限界」


その言葉に、リリアの視線がわずかに動く。




***




試合形式は同じ、三対三。


だが相手の質が違う。


ガルドは前衛。


重い剣を片手で振るうパワー型。


もう一人の前衛も同格。


後衛は精度の高い魔法使い。


「バランスじゃなくて、圧殺型だな」


レインが呟く。


「真正面から来るタイプ」


トールが拳を鳴らす。


「分かりやすくていいじゃねえか!」


「分かりやすい分、止められない」


リリアが静かに言う。


「力で押し切られる」


事実だった。


「……それでもやるんだろ?」


トールが笑う。


レインは小さく頷いた。


開始の合図。


地面が砕ける音。


ガルドが一直線に突っ込んでくる。


速い。


そして重い。


「チッ……!」


リリアが正面から受ける。


衝撃。


押し負ける。


「力負け……!」


トールが割り込むが、弾かれる。


「くそっ!」


一瞬で前線が崩れる。


後衛の魔法が重なる。


「終わりだ!」


誰かが叫ぶ。


その瞬間。


「まだだ」


レインの声は、妙に静かだった。


視界が狭まる。


音が遠のく。


代わりに、全てがはっきりする。


ガルドの踏み込み。


リリアの呼吸。


トールの力の向き。


全部が、ズレている。


「足りない」


接続数。


いつもは二人。


だが――


「三人、繋ぐ」


戦術リンク、最大出力。


「っ……!」


頭が軋む。


視界が歪む。


負荷が跳ね上がる。


「レイン!?」


トールの声。


遠い。


「……黙って動け」


声が低くなる。


「トール、右から回り込め。リリアの死角を埋めろ」


「お、おう!」


反射的に動く。


「リリア、受けるな。流せ。力を逃がせ」


「……!」


リリアの剣が軌道を変える。


ガルドの一撃を、受けずに逸らす。


「なに……?」


ガルドの体勢が一瞬崩れる。


「今」


リリアが踏み込む。


「遅い!」


ガルドが振り返る。


だが。


「トール、下から」


「任せろ!」


トールの一撃が、ガルドの足元を叩く。


バランスが完全に崩れる。


「っ……!」


その隙。


リリアの剣が、ガルドの喉元に届く寸前で止まる。


判定、一本。


観客席がどよめく。


「ガルドが……押されてる?」


だが、終わらない。


残り二人が動く。


連携。


精度が高い。


「……いい動きだ」


レインが呟く。


だが――


「足りない」


「え?」


トールが一瞬戸惑う。


「合わせる」


三人の感覚が重なる。


リリアの踏み込みに、トールの一撃が自然に重なる。


そこに、レインの判断が差し込まれる。


「左、半歩」

「今、振るな」

「次で決めろ」


言葉が、ほぼ同時に行動になる。


数秒。


それだけで十分だった。


最後の一人が倒れる。


試合終了。


静寂。


そして――爆発的なざわめき。


「勝った……」

「Bクラスのエースに……?」


リリアがゆっくり振り返る。


その目は、はっきりと変わっていた。


「今の……三人、全部見えてたの?」


「見えてたというか……」


レインは額を押さえる。


鈍い痛み。


視界が揺れる。


「繋いだ」


それだけ言う。


トールが興奮した声を上げる。


「やべえぞ今の! 完全に動けた! 考える前に体が――」


「黙れ」


レインが遮る。


「うるさい」


「す、すまん……」


リリアが一歩近づく。


「限界って、これ?」


「いや」


レインは小さく首を振る。


「まだ上がある」


その言葉に、リリアの目がわずかに見開かれる。


「……本気で言ってる?」


「たぶんな」


いつもの調子で返す。


だが、その足元がわずかに揺れた。


「レイン?」


トールが支える。


「大丈夫か?」


「問題ない」


そう言いながらも、呼吸が乱れている。


リリアはそれを見逃さなかった。


「負荷があるのね」


「まあな」


「無理はしないで」


その言葉は、これまでと少し違った。


命令でも、評価でもない。


純粋な気遣い。


レインは一瞬だけ目を細める。


「……珍しいな」


「何が?」


「そういう言い方」


リリアは少しだけ黙ってから、


「あなたがいないと、勝てないから」


と答えた。


トールが吹き出す。


「それ、めっちゃ重要じゃねえか!」


レインは小さく息を吐いた。


「依存されるのは好きじゃない」


「でも必要でしょ?」


リリアが即座に返す。


「必要だな」


否定はしなかった。


フィールドの向こう。


ガルドが立ち上がる。


悔しそうに歯を食いしばりながらも、こちらを見る。


「……ふざけた力だな」


吐き捨てるように言う。


「だが認める」


その一言で、空気がまた変わる。


「レイン・クラウス」


名前を呼ばれる。


「お前、Eクラスじゃねえ」


「評価はEだけどな」


「知るか」


ガルドは背を向ける。


「次は負けねえ」


「楽しみにしてる」


レインは淡々と返した。


こうして。


三連勝。


“偶然”は、完全に否定された。


そして同時に――


レインの力の“代償”も、明確になり始める。


まだ誰も知らない。


この力が、どこまで引き上げるのか。


そして、どこで壊れるのか。


ただ一つ確かなのは――


レインがいる限り。


このチームは、さらに強くなる。


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