第11話 逆転
「精度を上げる」
レイン・クラウスはそれだけ言った。
トール、ミナ、カナが頷く。
もう説明はいらない。
やることは分かっている。
「もう一回だ」
***
訓練場。
同じ動き。
同じ配置。
だが、細部が違う。
「トール、踏み込み半歩早い」
「了解!」
「カナ、フェイント浅い」
「チッ……分かった」
「ミナ、詠唱一節削れ」
「……できる」
修正は細かい。
だがそれが全て。
「もう一回」
何度も繰り返す。
失敗する。
ズレる。
崩れる。
それでも。
「もう一回」
レインは止めない。
***
夕方。
トールが地面に倒れる。
「限界……!」
カナも息を荒げる。
「これ以上やったら倒れる」
ミナは壁に寄りかかる。
「……でも、見えた」
レインは小さく頷く。
「形になった」
成功率。
まだ完璧じゃない。
だが――
(通る)
確信がある。
「明日、終わらせる」
***
再戦。
観客席の空気が違う。
「また来たぞ」
「今度はどうなる?」
期待が混じっている。
フィールドに立つ。
リリアがいる。
その目が細くなる。
「来ると思ってた」
「終わらせに来た」
レインは言う。
リリアが笑う。
「言うじゃない」
トールが拳を握る。
「勝つぞ」
カナが剣を担ぐ。
「今度は崩す」
ミナは静かに構える。
レインは三人を見る。
(これで最後だ)
「行くぞ」
開始の合図。
***
初動。
トールが前に出る。
だが追わない。
リリアが踏み込む。
その瞬間。
「今だ」
トールが半歩ズレる。
カナが逆から入る。
前回より速い。
前回より正確。
「……っ」
リリアが一瞬止まる。
「ミナ!」
魔法が放たれる。
今度は――
当たる。
リリアが後退する。
観客席がざわめく。
「押してる……!」
だが。
「まだ甘い」
リリアが踏み込む。
速い。
カナが受ける。
だが崩れない。
「トール!」
「任せろ!」
割り込む。
今度は間に合う。
「続けろ」
レインの声。
三人が動く。
連携が回る。
ズレがない。
「……面白い」
リリアが笑う。
だが。
「でも――」
一気に圧が上がる。
「来る!」
トールが叫ぶ。
「耐えろ」
レインの声。
カナが踏ん張る。
ミナが詠唱を維持する。
一瞬。
本当に一瞬。
リリアの動きが止まる。
「今だ!」
トールが吠える。
カナが斬る。
リリアが弾く。
だが体勢がわずかに崩れる。
「ミナ!」
魔法が直撃。
リリアが後退する。
「通った……!」
観客席がどよめく。
***
「押せ!」
トールが前に出る。
カナが続く。
リリアを押し込む。
だが。
「そっちじゃない」
レインが言う。
「後衛を落とす」
トールが一瞬迷う。
だが――
「分かった!」
方向転換。
カナも即座に切り替える。
リリアが追う。
だが――
「遅い」
ほんの一拍。
それだけでいい。
ミナの魔法が後衛に直撃。
撃破。
「一人落とした!」
次の瞬間。
前衛もう一人が動く。
「トール!」
「来い!」
ぶつかる。
押し合う。
「カナ!」
「分かってる!」
横から入る。
二対一。
崩れる。
撃破。
残るは――
リリア一人。
***
静寂。
「……ここまで来るのね」
リリアが言う。
その目は、楽しそうだった。
「レイン」
名前を呼ばれる。
「いい戦い」
「どうも」
短く返す。
トールが構える。
「行くぞ!」
カナが笑う。
「ラスト」
ミナが息を整える。
「……終わらせる」
レインは言う。
「三人で行け」
「おう!」
戦術リンク。
三人接続。
今までで一番、綺麗に繋がる。
「行け」
***
三人が同時に動く。
トールが前。
カナが横。
ミナが後ろ。
リリアが迎え撃つ。
速い。
強い。
だが。
「見えてる」
トールが受ける。
崩れない。
「カナ!」
斬る。
リリアが弾く。
だが。
「そこ」
ミナの魔法。
リリアが避ける。
その先に――
トール。
「終わりだ!」
一撃。
だが――
止められる。
「甘い」
リリアが笑う。
反撃。
トールが弾かれる。
カナが入る。
ミナが撃つ。
だが。
「まだよ」
リリアが全部捌く。
三人でも足りない。
「……やっぱ強ぇな」
トールが笑う。
「当たり前」
カナも笑う。
「でも」
ミナが言う。
「終わる」
レインの声が落ちる。
「今だ」
三人が同時に動く。
トールが突っ込む。
カナが逆から斬る。
ミナが撃つ。
三方向。
リリアが一つを捌く。
二つ目も捌く。
だが。
三つ目。
一瞬の遅れ。
「っ……!」
直撃。
静寂。
リリアが一歩下がる。
そして――
膝をつく。
試合終了。
***
一瞬の静寂。
そして――
爆発。
「勝ったああああ!!」
「EクラスがAクラスに勝った!?」
トールが叫ぶ。
「やったぞおおおお!」
カナが笑う。
「マジで勝った」
ミナは静かに息を吐く。
「……終わった」
レインは立っている。
ただ、それだけ。
リリアが顔を上げる。
その表情は――
悔しさよりも、満足に近い。
「負けた」
はっきり言う。
そして。
「レイン」
名前を呼ぶ。
「あなた、やっぱり面白い」
レインは肩をすくめる。
「どうも」
リリアが立ち上がる。
一歩近づく。
「次もやりましょう」
「機会があればな」
「絶対にある」
断言。
その目は揺れていない。
***
観客席。
ざわめきが止まらない。
「評価、変わるぞ……」
「Eクラスが……ここまで……」
手のひらが返り始める。
だがレインは気にしない。
「次だ」
トールが笑う。
「まだやるのかよ」
「当然」
カナが頷く。
「ここからでしょ」
ミナも言う。
「……上に行く」
レインは前を見る。
(これで終わりじゃない)
むしろ始まりだ。
対抗戦。
格上への勝利。
そして――
評価が、変わる。




