第10話 対策
「負けた理由、全部出す」
レイン・クラウスが机に指で三つ叩いた。
トール、ミナ、カナが向かいに座る。
誰も軽口を叩かない。
「一つ。初動で押される」
「それな……」
トールが苦い顔をする。
「二つ。フェイントが通じない」
カナが舌打ちする。
「見切られてる」
「三つ。後衛に触れない」
ミナが小さく頷く。
「詠唱の隙を作れない」
レインは結論を出す。
「つまり、正面戦闘は無理」
沈黙。
「……で?」
カナが先を促す。
「どう崩すの」
レインは一枚の紙に線を引いた。
三つの円。
「相手は“完成形”だ」
「だから強い」
「でも――」
線を一本、歪める。
「完成してるってことは、形が固定されてる」
トールが顔を上げる。
「崩せるってことか?」
「条件付きでな」
レインは頷く。
「今回は“ズレ”を作るんじゃない」
「じゃあ?」
「強制的に分断する」
***
訓練場。
レインは三人を前に立たせた。
「リリアは速い」
「だから追うな」
トールが眉をひそめる。
「追わなかったらどうすんだよ」
「来させる」
カナが笑う。
「自分から?」
「そう」
レインは地面に印をつける。
「ここに誘導する」
ミナがその位置を見る。
「……狭い」
「だからいい」
レインの声は冷静だ。
「選択肢を減らす」
「そこで叩く?」
「違う」
レインは首を振る。
「そこで“切る”」
「何をだ?」
トールが聞く。
「連携を」
***
実戦形式。
仮想敵として上級生が三人入る。
「始めるぞ」
合図。
トールが前に出る。
「来い!」
わざと隙を見せる。
敵が踏み込む。
「カナ、引け」
「了解」
カナが後退。
一瞬、空間が空く。
敵が追う。
「ミナ、撃つな」
「……分かった」
普通ならここで撃つ。
だが撃たない。
敵の判断が一瞬止まる。
「今だ」
レインの声。
トールが横にズレる。
カナが逆方向から入る。
敵の前衛が分断される。
「っ……!」
一人、孤立。
「そこ」
ミナの魔法。
直撃。
「いい」
レインが小さく言う。
「今のが形だ」
***
数時間後。
トールは地面に倒れ込んだ。
「きっつ……!」
カナも息を吐く。
「これ、ミスったら終わりじゃん」
「だから練習する」
レインは淡々としている。
ミナが言う。
「成功率、まだ低い」
「分かってる」
レインは頷く。
「でもこれしかない」
真正面では勝てない。
だから形を変える。
「あと一つ」
レインが言う。
「後衛を落とす順番を変える」
トールが顔を上げる。
「普通は後衛からだろ?」
「今回は違う」
レインの目が細くなる。
「リリアを先に“止める”」
空気が変わる。
「は?」
カナが眉を上げる。
「無理でしょ」
「倒す必要はない」
レインは答える。
「数秒止めればいい」
ミナが理解する。
「……その間に後衛を落とす」
「そう」
トールが笑った。
「やるしかねぇな」
***
翌日。
再戦のアナウンスが流れる。
観客席がざわつく。
「またやるのか」
「今度はどうなる?」
フィールドに立つ。
リリアがすでにいる。
「早いわね」
「そっちも」
レインは短く返す。
リリアの目が細くなる。
「対策してきた顔ね」
「どうだろうな」
「楽しみ」
その一言に、嘘はない。
トールが拳を鳴らす。
「行くぞ」
カナが笑う。
「今度は崩す」
ミナは静かに息を整える。
レインは三人を見る。
(成功率は高くない)
だが。
(やるしかない)
「行くぞ」
開始の合図。
***
初動。
トールが前に出る。
だが――
追わない。
リリアが一瞬止まる。
「……?」
違和感。
「来させる」
レインが呟く。
カナがわざと隙を見せる。
リリアが踏み込む。
速い。
だが――
「そこだ」
トールがズレる。
カナが逆から入る。
一瞬、リリアが孤立する。
「ミナ、今」
魔法が放たれる。
直撃――
しない。
「甘い」
リリアが斬る。
軌道が変わる。
ミナの魔法が逸れる。
「っ……!」
カナが弾かれる。
トールも押される。
「まだ足りない」
レインが呟く。
(精度が足りない)
だが――
「続けろ」
三人が動く。
さっきよりもわずかに良くなっている。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
リリアの動きが鈍る。
「今だ!」
トールが吠える。
ミナが撃つ。
今度は当たる。
リリアが後退する。
観客席がざわめく。
「当てた!?」
「効いてる……!」
だが。
「面白い」
リリアが笑う。
「でも――」
次の瞬間。
圧が変わる。
一気に距離を詰められる。
「っ……!」
カナが受ける。
崩される。
トールが入る。
だが遅い。
ミナが狙われる。
「レイン!」
「下がれ!」
だが間に合わない。
衝撃。
ミナが倒れる。
「ミナ!」
トールが叫ぶ。
その瞬間。
判定が傾く。
数の差。
「……ここまでだな」
レインが言う。
試合終了。
***
また負けた。
だが――
前とは違う。
「……通じたな」
カナが笑う。
「ちょっとだけど」
トールが拳を握る。
「あと一歩だ」
ミナはゆっくり立ち上がる。
「……次は当てる」
レインは頷く。
「精度を上げる」
視線を上げる。
リリアがこちらを見ている。
さっきよりも明らかに楽しそうな顔。
「いいわ」
口の動きで分かる。
「もっと来なさい」
レインは小さく息を吐く。
(あと一段)
そこまで来ている。
負けはした。
だが。
確実に近づいている。
「次で終わらせる」
レインが言う。
トールが笑う。
「おう」
カナが頷く。
「勝つ」
ミナも小さく言う。
「……勝つ」
対抗戦。
敗北からの修正。
そして――
逆転まで、あと一歩。




